表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/58

魔法の練習

わたしはムラサキ=カノ。8歳、らしい。

5歳より前の記憶が無いので3歳じゃないかと思うけど、ステータスという魔法で調べると、確かに8だというのだ。

その魔法なら記憶を失う前の名前も判るような気もするけど、それは出来ないんだって。

名前は記憶に連なるものだからダメとのこと。

魂と魄とで違うから……って、難しい話はまだ良く分からない。

アオイ姉さんの話は何時だって難しい。


「アオイ姉さんは青みがかったストレートな髪をしたとても美しい女の子だ。

 頭脳明晰にして、魔法の天才。そして私にとてもやさしい素敵なお姉さんでもある」


そして、今、私の前に立っている。


「そんな事言っても、手加減しないから。ほら、行くわよ」


姉さんはわたしの腕をつかむとずんずんと歩いていく。だから、力が強いって。

わたしを引っ張っているのは、本当にあのやさしいアオイ姉さんだろうか。お腹でも壊したのだろうか。3日も同じ肉を食べるからこうなるのだ。


「3日も同じ肉を食べると女はヒステリーになるという……」

「あんたも同じもん食べているでしょ、いいからさっさとしなさい」


井戸の脇を抜けて更に進むと森の入り口が見えてくるが、少し手前は荒地のようになっている。

焼け焦げた草や穴ぼこだらけになった広場のようなところ。

わたしたちが魔法の練習場にしている場所だ。


「さあ、やるわよ。ムラサキ!まずは復習からしましょうか?魔法とは何?」


うーん。大雑把すぎない?ええっと……


「魔法とは、MPを使って空想を現実にするものです。MPとはステータスに表示される数値の

ことで何だかよく分からないけど、わたしたちの身体の中にある力のことです」


そうなんだよなあ。MPって何さ。ステータスに表示されるから存在しているって事は分るけど。


「じゃあ、魔法はどうやって使う?」

「呪文を唱える!」

「うーん。で、あんたはそれで魔法が発動した?」

「しない。だから不思議」


アオイ姉さんと同じようにやっているけど、何故かダメなんだよなあ。


「魔法を使うには、『レシピ』を用意します。次に材料となるMPを注ぎ込んで、魔力を使って組み立てていきます。完成すると現実のものとして魔法が完成します。分った?」


「うん。わかんない」


多分、アオイ姉さんの独自の解釈だと思う。


「いーい。レシピっていうのは、この場合は詠唱のことだけど。別に詠唱だけじゃなくても魔法は発動するの。魔法陣とかあるでしょ?あれも魔法なの。あの絵の部分がレシピなのよ」

「うーん。でも、魔力を使うって?」

「MPをうまくレシピどおりに注ぎ込むって感じかな」


「うん。わかんない」


余計に分からなくなってきた。アオイ姉さん言うことはいちいち難しい。


「そう……。じゃあ、もう実践あるのみね。じゃあ、ファイアボール、唱えてみて」


やっぱりそうなるか。小難しい話を聞いているよりマシなので、それはそれでいいけど。

わたしは手を前に出して詠唱を始める。


「焔王光よ、一切の群生を薙ぎ払え。ファイアボール」


詠唱を唱えたが何も出ない。手応えすらないもん。


「何よ、それ。ファイアボールって言ったでしょ?大体、あんた意味分かって唱えているの?」


何か恰好良さげだから真似をしてみたのだけど、やっぱりダメだったか。


「それ、どこで知ったのよ」

「うん。シューヤの魔法。どっかーっ、ががががって、大爆発!」

「危ないじゃないのよ!」


アオイ姉さんはカンカンに怒っている。どうせ、発動しないから大丈夫だって。


「基本的なのにしなさい。いーい。見てなさい。あんたは、こんな感じでいいのよ」


アオイ姉さんが手を前に掲げて詠唱を始める。


「我が意受け 出でたる炎 先駆けよ。ファイアボール」


ぐわぁって感じで火の玉が飛び出して行ったかと思うと、大きめの石にぶつかってどばっ、と火の粉が散った。うぁーすげーな、あんなのを受けたら、たまらないぞ。

うん、やってみたい。


「あのね、ムラサキ。自分が理解できない詠唱文は発動しないの!そこにMPが流れ込まないから。分る?」


うーん。それだと、さっきの姉さんの詠唱文も分からないから、あれだとダメじゃんよ。


「ねえ、アオイ姉さん。詠唱文って何でもいいの?」


毎日、良く分からない詠唱文を読んでいたわたしって……


「何でも良いって訳じゃないけど、別に無駄って訳でもないわよ。でも、水属性の詠唱文で火属性の魔法は発動しないし、属性に合った詠唱をしないとダメなの。魔法には『詠唱文の理解』が重要なのよ」


「じゃあ、じゃあ。こんなのでもいけるんじゃね? 炎よドバっと飛び出ろ。ファイアボール」


ぁ……ちょっと手応えあった。でもやっぱり何も出ない。


「それでも発動しない訳じゃないけどね。さっき『レシピ』の話をしたでしょ。大雑把なレシピだと、その分、強引に魔法を発動させるための魔力が必要なのよ。未熟なあなたではダメね。何よ、ドバっとって」


大雑把だけど……でも分かりやすいよね。むしろシンプルな方が良さそうな気がするけど。

何で、発動するような詠唱って、難しい言葉なんだろう?

疑問を口にすると、その辺はアオイ姉さんにも分からないらしい。

ログがどうたらこうたらって、そんな事を言われても分からない。


「いいから、さっきの詠唱にしなさい。イメージよ、イメージ。自分の意識が炎に乗り移って、

馬のように駆けだしていくって感じで唱えてみなさい。」


何で馬?まあいいけどさ。

わたしは、お馬さんのしっぽに火がついて、慌てて駆けていく様子をイメージしてみた。


「我が意受け 出でたる炎 先駆けよ。ファイアボール」


ぐにゅーと体から何かが引き出されるような感じがしたかと思うと、ぷすんと音がした。

おならみたいな音だけど、わたしにはそんな手応えが無い。姉さんかしら。


「アオイ姉さん……した?」

「あんた、舐めた事言っていると、爪を引き剥がすわよ」


ぁ……本当にやりそう。



その後、わたしはアオイ姉さんに言われるまま、何度も魔法を詠唱し続けた。

結局、発動まで行きつくことなく、この日の練習は終わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ