アオイ姉さん
「……97、98、99、100っと」
これで朝の素振り練習は終わり。
さあ、水浴びを済ませたら、食事してからお勉強だ。
今日もわたしの一日が始まる。
「今日もわたしの一日が始まる!」
声に出して言うことが大事らしい。
確かに、これを言わないとわたしの一日は始まらない気がするから、やっぱり大事な事なのだ。
この日課はちょうど、わたしがムラサキとなった頃から、3年間毎日かかさず続けている。
とても大事なことなのだ。大事なことは2回、なのだ。
井戸に行き、水をくみ上げる。さあ、いくか。
服を脱いで頭から水をかぶる。
「今日もわたしの一日が始まる!!」
ひゃ~、やっぱりこの時期は水が冷たい。さっさとすましてしまおう。
カラ・スの行水ってよく言われるけど、カラ・スってなんだろう?
どうでもいいことを考えながら何度か水をかぶる。大事な所も2回洗ったし、これで大丈夫。
「アオイ姉さん!」
服を抱えたままボロ小屋に行く。何でこんなにボロいのに未だ倒れないのだろう。
まあいいか。
「姉さん!頭!」
小屋に入るとアオイ姉さんは朝食の支度をしていた。今日もアレかな?もう3日目だぞ。
「はいはい。あんたいい加減、魔法くらい覚えなさいよ。面倒なのよね」
姉さんが無茶な事を言ってくる。どうも姉さんは自分が出来ることは人も出来ると思いがちだ。
アオイ=カノ。11歳。
背中までかかるやや青みがかったストレートな髪は、くせ毛の私にとっては憧れだ。髪の色を見ても分るように、赤毛の私とは血のつながりはないらしい。
どっかから拾われてきたとか。まあ、わたしもだけど。
本人は自覚がないけど、多分、魔法の天才。そしてわたしの自慢の姉にして、髪を乾かすという大役を負う者。そうそう、そんな感じで乾かして。
「はい、終わり。あんたの赤毛は相変わらず、良く跳ねるわね。ほら、これでとかしなさい。
そうだ・・・明日、シューヤが帰ってくるから」
「えっお父さんが?」
「あんた。シューヤをお父さんって言うのは止めなさいよ。結構、本気で嫌がっているから」
うーん。お父さんって感じなんだよなあ。
「ハーレムを目指しているのですって。きっと、また子供を拾ってくるわよ。」
「へぇ、どんな子だろうね・・・ハーレムってなに?」
「知らないわよ。でもきっとまた、ろくでもないことよ」
シューヤは孤児やらなんやら拾ってきては、ここに連れてくる。この間も金髪の子を連れてきた。
ビアンカって女の子だった。最初は汚い感じだったけど、今では見違えるようにきれいになった。
10歳だって。たまには、わたしより年下の子もいないかな。そしたら私もお姉さんなのに。
「いいんじゃない?シューヤにもやりたい事の1つや2つあるだろうし。それに、わたしたちも、拾われて助かった訳だし。この肉を食べられるのも、そのおかげだし。3日目だけど」
「まあ、そうだけどさ。あんまり他の女に目移りするのはどうなのかってね」
「女って・・・姉さんってまだ11でしょ」
「もう11よ。花の命は短いのよ。帯に短し、たすきに長しよ。」
まったく、どこで覚えたのだか。シューヤか?ダメなお父さんだな。
「そうだ。あんた、ステータス見せなさい」
姉さんはそう言うと、私の前に手をかざした。
「彼の者の魂魄を明らかにせよ。ステータス」
胸のあたりをむんずと捕まれる感覚がする。いつも思うけど、これ苦手なんだよなあ。
わたしがその感覚に抵抗せず、受け入れるようにすると、わたしとアオイ姉さんの前に、透明な文字板のようなものが現れる。
これ、どっちから見ても文字が逆さにならないのが不思議。
ムラサキ=カノ( )
年齢 8
称号 タラム人、孤児、シューヤのハーレム候補、( )
所属 無所属、( )
レベル 2
HP:10.02 MP:5.11 SP:3.01
筋力: 1.01 精神力:6.05 胆力:8.56
素早さ: 4.35 持久力:4.06 器用さ:6.74 運:8.60
スキル: 短剣(Lv1.23)、詠唱魔法(Lv0.53)、忍び足(Lv0.67)、算術(Lv1.22)
調合(Lv0.35)、エクメネ共通語(Lv)、タラム語(Lv)
カルマ:+0.56
貢献度: 0.00
状態:疲労(微小)、記憶消失
「ムラサキ。あんた魔法の伸びがいまいちだね。もう少し、頑張ろうか」
「えぇ~、やってるよ。でも、魔法なんか発動しないんだけど」
「でも、使えないと髪も乾かせないよ。私、来年は王国の学校に入るし」
えっ・・・何それ・・・
「聞いてないんだけど!」
「言ってないもの。私もさっき知ったし。ハーレムには教養も必要だってさ。」
「だから、ハーレムって何?」
「知らないわよ。シューヤに聞いたら?それに学校行くお金なんて無いと思っていたし」
「っていうか。お金があれば、誰でも入れるの?」
わたし達って、そのへん怪しい感じだし。お金さえあれば入れるってものでもないんじゃない?
「色々とアレするらしいわよ。ギルドの身分証だけじゃあダメみたい」
「うーん。じゃあ、それにもお金かかるね」
「そうよ。だから、あんたも10歳になったらギルドに登録だから。少しは働きなさい」
「山下りた所だっけ。」
やった、これで冒険が出来る。冒険が出来るのだ。
「ほら、早く食べて。このあとは魔法の練習だから。今日は私が見てあげる」
「えっ、ビアンカは?」
「ビアンカはハナが面倒を見ているから大丈夫。それより、あんたよ。今日は厳しくいくから」
え~、やだな。
でも、冒険がわたしを待っているし。今日も頑張ろう。