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見つかる剣と頼まれごと

「困難を乗り越えてこそ、成長がある!」


そうだ。

諦めてはいない。

困難は経験だ。

経験は人を成長させる。

何かを乗り越えることは、乗り越える前の自分から強く成長すること。

わたしは困難に挑む。

挑み、乗り越え、成長するのだ。

まだだ。

見つけていない。

自分に抗うのだ。

弱さが困難を遠ざける。

困難を避けようとすることは、挑もうとしない自分の弱さからくること。

わたしは自分に挑む。

抗い、受け入れ、成し遂げるのだ。



「ムラサキちゃん……どうなのかしら?」

「ん~、まだ……」



あの後は一旦、ハナ姉に背負われてオンボロ小屋に戻った。

自分で歩けるって言ったんだけどね。無理はダメだって。

ハナ姉は帰るとすぐにビアンカとフロウラの状況を見てくるって言ったから、わたしは汚れとかを落とすために水浴びをして……。

それから、それから一旦休憩してたんだけど。

いつの間にか、朝になっていて……。

どうやら、夕ご飯も食べずに寝ちゃってたみたい。


「ちゃんと探しなさいね……アレって、ホントに高いのだから」


それで起きてすぐに、軍隊蜂との戦いのあった場所に来ている。

わたしの失くした剣は、結構お高いものらしいので、みんなで探しに来ているのだ。


「こっちには無いみたい…」「こちらにはありませんでした…」


ビアンカとフロウラも連れて。

ごめんよ~。お姉さんの落とし物探しさせて。

きっと、この困難が君たちを成長させるから。たぶん。


「そ~お。じゃあ、二人は向こうを探してきてちょうだいな。

それと、剣を探すついでに、無事なら蜂の毒袋も回収しておいてね、針ごとよお」


この辺に転がってるのは焼いたから使い物にならないけど、中には使い物になるものが転がってるので、そういうのがあれば採取するようにしている。

何十個集めても、駄目にしちゃった牛皮革のロンググローブのお金には届かないらしい。

良くて無くした短剣1本くらいだって。

それでも、無いよりはマシだ。

大したお金にならないけど、それでも少しでも足しにするために集めるんだって。


「ムラサキちゃん、覚えておいてね。勝つのは大事だけど、次に繋がるようにはしなさいな。戦うだびに破産するような事はしないでね」


ハナ姉の言うことは分かる。武器を買うにはお金がいる。お金を稼ぐには武器がいる。武器もお金も無ければ、かなり苦しいことになるだろう。

確かに、その通りだとは思う。でも。


「でも、それだと……」


ギルドへの登録は半年後になっちゃう。それはいやだったんだ。

わたしは冒険がしたいんだよ。


「そのこだわりが、あなたを殺すわよ?」


ハナ姉の声が怖い。

こうやって、ホワホワなハナ姉はときどき剣みたいになる。

研がれた言葉が、胸に刺さる。


「第一、クイーンを仕留めるのが課題なのだから、その後、わたくしに助けを求めても良かったのよお。もちろん、無事に帰るまでってのは大事だけども。わたくし、最後まで助けを呼んじゃダメって言わなかったわよねえ」


そういえば……そんな気もする。うん、確かに言ってなかった。

でも、それだと後で難癖付けない?


「当然、付けるわよお。でもねえ。『ひとりで軍隊蜂を駆除してもらう』『クイーンを仕留めなさい』としか、わたくしは言っていないのだから、そこは押し通しなさい」


えっ、それってアリなの?


「いいのよ、それで。ムラサキちゃんは、戦い方はえげつないのに、そういう所は妙に素直ね。それはそれでかわいいけど、それだと、色々と付け込まれるわよお。こういう場合は、戦う前から、すでに戦いは始まっているものよお。それは戦った後もよお。体を動かすだけが戦いじゃないの。気を付けなさいなあ」


装備については準備不足だったなあって思ったけど、それ以外にも足りないことがあったということなのだろう。


「今回の事がムラサキちゃんの糧になっているといいわねえ」


ハナ姉はそう言うと、ビアンカとフロウラとは別の方を探しに行った。



その後、しばらく剣を探すけれど見つからない。

どうして、こんなに瓦礫まみれなんだ!

って、わたしか。

どうやら、土煙の魔法は思ってたよりも強力に発動したみたいだ。使える手段をまた一つ手に入れたのはうれしいけど、今回だけは困った事なってしまっている。

使う所を選ぶなあ、この魔法。


「困難を乗り越えてこそ、成長がある!」


大事なことだ。2回言おう。

この困難こそがわたしを冒険に導く。うん、剣が無いと山を下りれない。

ホントにどこに飛んで行った?


「向こうは無かったわよお、ムラサキちゃん」


うーん。ハナ姉の方は無かったか。

じゃあ、二人が探している方かな?それとも、あっちの方?



「ねえムラサキちゃん。啐啄同時(そったくどうじ)って言葉は知っているかしら?」


そったくどうじ?何それ……、知らないけど。


「雛が卵から産まれようとする時に内側から殻を突くことを(そつ)と言うの。その音に気付いて、外側から親鳥が殻を突いてあげることを(たく)と言うの。この(そつ)(たく)は同時でなければならないってこと。早くてもダメ、遅くてもダメ。同じでないといけないってこと」


ふ~ん?


「鳥の親子で例えているけど。それは教える者とその教えを受ける者にも当てはまりますよって事なの」


あぁ……そういう……


「ビアンカとフロウラの殻を外側から突いてあげるのはムラサキちゃんの役目よ。半年後は、今度はわたくしがここを離れるのだし……」


アオイ姉さんに続いて、ハナ姉もか。

なんだか、寂しくなるね。

それで今回の蜂退治は、ハナ姉がわたしの殻を突いたって事なの?


「……そうねえ、飛び方を教えてあげたって感じかしら?山を下りて、ギルドに登録するのでしょう?殻を破ったばかりの雛には、そんな事はさせないわお」


ギルドへの登録はいいんだ。

やっとハナ姉に認められた気がする。


「もっと前から認めているわよお。わたくしも……それに、アオイちゃんもね。さっき『ビアンカとフロウラの殻を』って言ったわよねえ?飛び方を知らない雛が隣の卵を突くのお?

あぁ……なるほど、ね!うふふ……ムラサキちゃんって中々腹黒いわね?まだ殻から出てくるべきじゃない雛を孵しちゃうのね!自分以外が育たないように……うふふふっ」


ハナ姉の声が怖い。

こうやって、ホワホワなハナ姉はときどき冬の霧みたいになる。

陰鬱な感じがして、背筋が寒くなる。


「あはははは……あぁ、可笑しい。中々面白いけど、ダメよお、ビアンカとフロウラにそんな事しちゃあ。よその子にしなさいな」


しないよ、ビアンカとフロウラには。よその子にもだけど。

わたしを何だと思ってるの!


「可愛い妹よ~、ムラサキちゃん。そういう所も本当にかわいいいんだから」


ハナ姉がふと、ビアンカとフロウラが探しに行ってる方を見た。


「……本当に頼んだわよお」


あぁ……そういう……



その後、お昼前になって、ようやく剣が見つかった。

ビアンカとフロウラの二人が見つけて、持ってきてくれた。


ありがとうね。二人とも。

わたしもちゃんと、二人のお姉さんにならないと。


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