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闘争(逃走)

「あぁ~、そうなるよね」


わたしはクイーンの頭部を手に、その配下の蜂の群れに囲まれていた。


女王の頭は武器にならない。むしろ、蜂達を引き寄せていた。

あぁ……こうしているうちにもどんどんとやって来る。

もう完全に取り囲まれてしまった。


うん。手元に武器が無い。今、手元に短剣1本でもあれば。

それが無いということは、準備の段階から見誤っていたということ。


「それに……」


それに、やっぱりあの場面だろう。

もう一匹、女王の背後に護衛が控えていたとは思わなかった。

まさかの展開。その「まさか」と思う事こそが油断していた証。

常に相手が自分の思う通りに動く訳ではない。

少し自分の思うような展開になったからって、最後までその通りに進むとは限らない。むしろ、それ以外のことの方が多いはずなのに。


つまりは、全て自分の甘さ、油断。


―― 考えたらだめって言わなかったかしらあ


分かってるよ。ハナ姉。

ここからは、もう考えない。色々と考える必要も無い。

やることは、決まってるから。


―― ヴ~~~ン ヴ~~~ン ヴ~~~ン


蜂達の方もいつまでも待ってはくれない。

もう、すぐにでも襲い掛かってきそうだ。

わたしは蜂の群れに女王の頭を投げつけると同時に、手近な蜂に掴みかかった。

ロイヤルガードじゃなくて普通のソルジャー相手なら、脚なり顎なり触覚なり、掴んでしまえば後はどうとなる。何とかなる。魔力を込める。


1匹……、2匹……、3……、あぁ、逃がした。じゃあ、そっち!3匹……

脚を掴んで地面に叩きつけてから、踏みつぶす。

羽を掴んで、そのまま引きちぎる。

顎と足を掴んで、斜め上にねじり上げるようにして首をもぐ。


―― ヴンッ


嫌な予感がして思わずしゃがみこむと、頭の上を何かが通り過ぎた。

さっきのロイヤルガードか。残った三匹のうちの一匹。

流石に手強い相手なので、ここは躱すだけに留める。


痛っ!


掴んだ蜂から突き出された針が、左のロンググローブを突き破っていた。

牛皮革ってそれなりにするのに。

体を絶えず動かすことで攻撃を避けるようにしても、こちらから掴みかかるときは向こうにも攻撃の機会を与えてしまう。その機会を逃すはずは無く、ここぞとばかりに牙を立てるなり針なりを突き出してくる。

振り払うように腕を振り回しても、何匹かに1匹の攻撃はどうしても受けてしまう。


それからは、時折混じるロイヤルガードの攻撃をかわしながら、蜂の一般兵を倒していくが包囲した蜂たちが減ることはない。倒しても、潰しても、倒しても、潰しても、後から、後から集まってくるからだ。

しばらくは拮抗した状態が続く。魔力を更に込める。


(つか)れたな…」


これまでの疲れもあるが、好転しない状況の中で繰り返す戦闘は心を消耗させる。

余計な事は考えないようにしないと。動きが止まれば一気に押し切られる。

8匹……、……、9……、……、9匹…


っ! がはっ……


適度な間引きと動き続ける的を絞らせない事で均衡を保っていたが、それがきつくなってきた所で、背中に蜂の突進を受けてしまい、胸にあった息を全て吐きだしてしまう。

外套を突き破るほどの一撃じゃなかったようで衝撃だけで済んだみたいだけど、それでも打撃は身体に伝わる。

大きく息を吸い込みたいが、それだと動きが鈍ってしまうから。苦しいけど、我慢だ。目の前が白くかすむが、少しずつ息を吸い込んでいく。魔力を捏ねる。

13……、……、13匹……、……、14……、痛っ!

蜂の針がまた、腕をかすめる。


(ちから)も出ない…」


握力が無くなってきた。さっきから何度か蜂を掴み損ねていた。指の引っ掛かりが利かない。握力って使い過ぎると、指にくるけど、腕にもくるんだね。肘の先が張っているのが分かる。

まるで限界を無視して、剣の素振りを繰り返した後みたいだ。

ペースは落ちるが、しょうがない。掴むのは止めて、拳や腕で叩き落とすだけにする。試していくうちに、手首を内側に折り曲げて引っかけるようにすると幾分やり易いことが分かった。

上手く地面に落とせた蜂は出来るだけ踏み潰して仕留める。

落とした蜂がまた飛び立たないようにしないと。

これで、もう何匹目だっけ?


―― ヴンッ


くっ…またロイヤルガードか。

横に身を投げ出すように転がって躱すと、反転してきたロイヤルガードの針が目前に迫る。


こんにゃろっ!

わざとグローブに突き刺さるように右手を出す。


針が拳の先辺りからグローブを突き破って中に入ってくる。

手の甲を抉るが、角度を調整した分、傷は浅い。針はグローブに刺さったままだ。

かすり傷というには深い傷を負ってしまったが、これで捕まえることが出来た。

刺さったままの手を蜂ごとひっくり返して、地面を蹴って身体を前に投げ出す。

倒れ込む時に左手を蜂の胴体に押し当てて、確実に地面に押し付けて潰した。

体液が飛び散る中、すぐさま横に転がり、他の蜂達の追撃をかわす。魔力を更に捏ねる。

どうにか体勢を立て直してから、押し潰したロイヤルガードの顎を見てみた。


(けん)が無い…」


それほど期待していた訳じゃないけど……。

短剣を回収出来ていれば、状況を立て直すことも出来るかもという期待はあったが、この蜂の顎には短剣は無かった。

残り2匹のロイヤルガードにはあるはず。そいつらが前に出てくるまで待つか?

でも、グローブも、もう両方ともボロボロだ。

流石にあいつ等を相手に素手は厳しい。魔力を固める。


無理(むり)するよりは」


このまま一般兵だけ相手に地道に倒していくか?

体力勝負ってやつ?

あははは……いつまで倒せばいいのか分からないのに、それは無いよね。

先に尽きるのはわたしの体力だ。

あぁ……ついに、残っていたグローブの生地も剥がれてしまった。

これで素手の状態だ。

さっきから、蜂を倒せていない。

向かってくる蜂達をいなしていくので精一杯になりつつある。

かすり傷が増えていくが、これが深い傷に変わるのは時間の問題だ。

魔力を更に固める。


離脱(りだつ)しかない」


よね……、やっぱり。



込めて

更に込めて

捏ねて

更に捏ねて

固めて

更に固めて

十分に準備したその魔力を、一気に解放した。


「クラウド・オブ・ダスト!」



細かい土砂や先ほどから潰してきた蜂の残骸が、わたしの足元から生まれたつむじ風を受けて舞い上がった。そこに魔法で作り出された砂粒やら混じり、風塵となって辺りを覆い隠していく。

風が土煙の範囲を広げていく一方で、次々と魔法によって生み出される微粒子が土煙の濃度を高めていくと、あっという間に周囲の視界は数メートル以下という状況になった。


―― いーい。目的の為に勝利があるの


そうだよね。アオイ姉さん。もう勝利は手にしている。

これ以上は勝つ必要はないもの。

やることは、決まってる。

全ての蜂を倒し切るなんて考えていない。

闘争は逃走への準備に過ぎない。


周りを取り囲んでいた蜂達が突然の嵐に翻弄されていた。

吹く風に巻き込まれて上空に舞い上がる蜂もいれば、姿勢を保とうと藻掻く蜂がホコリにまみれて、翅の軽さを失い落ちていく。

飛んでるから、こうなっちゃうと脆いよね。


発動した魔法によって、包囲は完全に崩れた。

わたしは、風に飛ばされないように姿勢を低くして、地面を這うようにして一目散にその場を抜け出した。



蜂の群れから距離がとれたら、ほわほわピンクを目印にハナ姉を探す。


あっ、いた。


ピンク色は目立つよね。ピンキー・ハナ姉。

直ぐに見つかったので、脚が棒になっているけど、そこまでなんとか足を動かす。


「お帰りなさい。ムラサキちゃん・・・・・・随分とボロボロなのね」


色々とあったんだよ。

でも、クイーンは倒したから、課題はクリアだよね。ね。


「そうなるわね。ところで、剣はどうしたのかしら?」


いやさ、本当に色々とあって……さ。ホントだよ?


「あれって結構、高いのよお?……ホントよお~」


ふっ……ふ~ん。そうなんだ~。

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