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禁句と言霊とムラサキのコーグル

シューヤに言われて、ビアンカとフロウラは夕食の準備という事で練習場を離れる。

さっき魔法を発動できるようになったばかりの二人にはまだ早いんだって。

わたしも発動出来るようになってから1年くらいしか経っていないけど、それなりに練習はしてきたから、今では詠唱魔法(Lv2)になってる。


その後、シューヤと二人になると、「かきつばた」っていう詠唱法について教えて貰った。


「なるほど~、でも、これって、むずくない?」


単純なんだけどね、仕組みは。

うーん……分かってても、やるとなると難しいよね。


「こんな感じでいいかな?あとは色々試してごらん」

「うん、分かった。……ねえ、他にもこういうのってあるの?」

「あるにはあるけどね。結構、危険なものもあるから」


へぇ、どんな風に?

とても気になるし、とっても気になる。


「禁句詠唱って言ってね。それを唱えると、世界が永遠に停止してしまったり、そのまま削除されてしまったりとかね……大体は、そうなる前に世界に修正力が働くから大事に至らない事が多いみたいだけど」


わたしたちには、世界が止まったかどうか、どのように修正されたのかが分からないんだって。

世界が止まれば、わたし達も止まるから、当然、そのことを知ることは出来ない。世界が修正されるってのはあんまり分からないけど、修正前の世界にいるわたしは、修正後の世界にいるわたしとは違うわたしらしい。

じゃあ、修正前の世界のわたしは消えちゃうの?

何それ、怖い。


「魔法を覚えたての場合、未熟なのに威力の強い魔法を発動させようと不安定な詠唱で威力を制御出来ないまま、色んな問題を起こすことがあるからさ。暴走させて大怪我するとか、周囲を巻き込んで色々なものを壊すとかね。そんな事を起こさせないように、未熟な使い手を怖がらせるための教訓話なんだよ……って事に今はなっている」

「今はなっている、って?」

「とある人がその昔に世界を観測したら、修正された世界には、(改)って印が付いていたらしいよ。どうやって観測したのかは知らないし、見当もつかないけどね」


とある人って誰さ。でも、それが本当だとしたら、何だか薄気味悪いね。

何て言っていいか分からないけど、不自然というか作為的というか。


「やたら滅多に詠唱文をこねくり回して、偶然に禁句を使った詠唱をしてしまったら大変だから、こういったお話が出来たらしいけど。今では、覚えたての新人に背伸びするなよって、言い聞かせる為に話されているね。それはそれで、必要な事ではあるけど」


でも、本来は禁句を使った詠唱をしないようにしたいんでしょ?


「禁句って言われたら知りたくなるし使いたくなるのが人ってものだから、その存在自体を秘密にしてしまった方が良いよねって事で、ある時期から話をすり替えたみたいだね」


うん、それは分かる気がする。わたしも知りたいって思ったから。

それを単に秘密って事にするより、別の話にしてしまうってのも納得。

わたしも前にアオイ姉さん相手にやってたから。

最終的にはバレちゃったけど。


「でもさ……森にも生えてるけど、毒キノコとよく似ているけど違う、食べられる方のキノコって美味しいじゃない?」


ん?何の話?


「……魔法にもそれが当てはまる所があってさ。禁句詠唱と似て非なるもので、破文詠唱って魔法があってね。それは、とっても強力な魔法なんだよ。それは、ムラサキがもう少し大きくなったら教えてあげるから。まずは、今教えた詠唱魔法を使いこなせる様になってみて」


もう少しって、どれくらいだろう?

今はダメなの?


「そうだね。来年はギルトに登録しに行く訳だから、その頃くらいかな?それまでに詠唱魔法をもっと使いこなせるようになっていたらって前提だけど。それに、ハナチルサトからも宿題が出ていたでしょ?下の町で会った時に聞いたよ」


そうだった。「詠唱しながら剣を振る」だっけ。


「ねえ、それって出来るものなの?」

「詠唱するのは口で、剣を振るのは腕だからね。それぞれ別々な訳だし、多分、出来ると思うよ。鼻歌歌いながら鍋をかき回すようなものさ」


そういうものなのかな?違うような気もするけど。

鍋といえば、夕食はツノトカゲのきのこ鍋になる予定。鍋に材料を入れて煮込むだけだけど、

キノコとトカゲの美味しさが重なり合って、とってもおいしい。


「ん?……。あぁムラサキ、ほら霧が濃くなってきた」


本当だ。少ししか経っていないのに、もうこんなに。

こんな様子の森の中を帰ってくるのはハナ姉でも大変じゃない?多分、町で一泊すると思うよ?

そしたら、ハナ姉の分はみんなで分けることになるね。じゅるり。


「ムラサキは食いしん坊だなあ。でも得てして、願望は実現しないものだし、予感は当たるものだし、現実は想像を上回るものだし、想像できるものは現実となるものだよ」


もっともらしい事を言ってるけど、結局の所、どうなるか分からないってことを難しく言ってみただけだよね、それって。


「ハナチルサトなら大丈夫だと思うよ。そういえば、3人に買って行くものがあるって言っていたけど?ムラサキは……コーグルだっけ?」


あっ、そうだった。ハナ姉、早く帰ってきて。

でも、この霧だから魔物がたくさんいるよね?お願いしたものは無事だろうか?

ハナ姉、ゆっくりでいいから安全にね。出来れば夕食を食べ終えた頃がベストだよ。


「ははは……現金なヤツだなあ、ムラサキは。少しはハナチルサトのことを心配したら?」

「そう言うけどさ……あのハナ姉に何かあるとかあり得ないし」

「……そういうのって、フラグって言うのだけどね」



その後、ハナ姉は夕食時に、無事に帰ってきた。

今日は鍋かな?と思って、急いで戻ってきたんだって……ビアンカとフロウラが欲しがってた水筒と荷物鞄を肩にかけて。

ハナ姉ってそんなにトカゲ鍋が好きなの?……あぁ、キノコの方ね。

ところで……わたしのゴーグルは?


「ちょっとねえ~、持ってきてないのよ~」


えっ?どういうこと?


「こういうのは、フラグというより因果応報って言うのかもしれないね。ムラサキ」

「あらあ~。何の話かしら?ねえ、シューヤ」

「ムラサキはかわいいって話だよ」

「まあ、そうなの~、うふふ。わたくしも、ムラサキちゃんはかわいいと思うわよお」


えっ?えっ?えっ?


「「うふふふ……あはははは」」


どうしていいか分からず、とりあえずビアンカとフロウラの方を見る。

二人がポカーンとした顔をしている。多分、わたしの顔もそんな感じになっていると思う。





実はハナ姉はもっと早くに帰ってきていたんだって。

練習場に向かうとわたしとシューヤが、自分がこの霧で帰って来られるかどうか話しているのが聞こえてきたから、そのまま立ち聞きしていたみたい。

ハナ姉って、耳すごく良くない?それに気配とか全然しなかったんだけど。


「こういうのって噂をすれば影が差すって言うんだよ。気を付けなよ?ムラサキ」

「ムラサキちゃん。明日から、もう少し訓練を厳しくするわねえ」


この後、散々小言を言われた。

特に注意されたのは、鍋を多めに食べようとしたことじゃくって、ハナ姉に変なフラグめいた事を言ったこと。

「ハナ姉に何かあるとかあり得ないし」って言葉は、「(フラグ)」になるかもしれないんだって。こういうのを言霊と言って、気を付けないといけないみたい。

特に、このタリム盆地は魔素に満たされた土地だから、魔法が発動するみたいに実現しちゃう可能性があるみたい。

ハナ姉なら跳ね除けられるみたいだけど、その場合は呪い返しみたいに返ってきちゃうかもしれないから、どっちにしても注意しなさいだってさ。




「そうだったわ~、ムラサキちゃん。ゴーグルだけどねえ~」


ちなみに、ゴーグルは受注生産だったから今日は注文まで済ませてきたって。

出来上がりまで、もう少し待っててね、だってさ。

やった!

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