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森の中

午前中はハナ姉との剣の訓練。午後はビアンカとフロウラの勉強と魔法の練習。

しばらくこんな日々が続く。

似たような日々が続くと人というものは馴れると同時にダレるものなのか、あともう一歩で魔法が発動できそうな二人は、そのもう一歩から先に進めずにいる。

わたしの方も詠唱しながら剣を振る練習をしているが、上手く行っていない。


「今日は森の中に入るから、準備して」


いつものように昼食を済ませた後、わたしは今日の予定を伝えた。

人には冒険が必要だと思う。

これはアオイ姉さんの受け売りでもハナ姉の教えでもない。わたしの教えなのだ。

この辺を少し散策するだけだけど、二人にとってはちょっとした冒険になると思う。


「防具はそこにあるのを使って」


ハナ姉からは「いいけど、防具をちゃんと付けるのよお」と言われている。

防具と言っても鎧のようなものじゃなくて、マントとか手袋とかブーツとか、とにかく体を覆うもの。それから、胸のあたりには魔甲虫の殻を加工した胸当てを、頭にはレッドディアーの皮でこしらえてある帽子とか。


「アオイ姉さんやハナ姉のお古が多いけどね。手入れはしてあるから使えるはずだよ」


わたしも準備をしないとね。

わたしの防具もアオイ姉さんやハナ姉のお古が多いけど、この外套は新品だ。シューヤの朽葉色の外套を見て「欲しい」って言ったら、同じようなものをくれた。こども用じゃないから、ちょっと長いんだよね。まあ、すぐに背が伸びるだろうから、いいんだけど。


「準備出来たかな?」


二人を見る。一通り身に着けたみたいだけど、まだ肌が出ている所があるね。フェイスガードも付けようか。口元も布で塞いでね。

それから、武器は短剣の方にした方がいいよ。取り回しが難しいから。


「じゃあ行こうか?」

「はい、ムラサキ…お姉さん」「分かりました。ムラサキ様、お姉さん」


……まあ、いいか。こういうのは馴染むまで時間がかかるものだし。

二人を連れて、井戸の脇を通って魔法の練習場まで行く。その先に森への入り口がある。


「この辺までが結界の範囲だからね。ここを超えると、森、だから」


結界はハナ姉が管理してる。ハナ姉は来年に王国の学校に向かうから、そうなるとその役目はわたしになる。


「じゃあ付いて来てね。騒がず、慌てず、落ち着いて。勝手にどっかに行かないでね」


迷って変な方向に行くと、戻ってこれなくなっちゃうからね。

入り口から先はけもの道になっている。けものって言っても通ってるのは人だけど。

ちなみに、ハナ姉とわたしで頻繁に通るようにすることで維持している。こんな所、他に通る人なんていないから、そのままにしておくと消えちゃう。


真っすぐに進んでいくと、左右に道が分かれる。


「今日は右に行くね」


時々振り返りながら二人の様子をうかがう。

ビアンカは常にキョロキョロと周りを見回しているけど、フロウラはずっとわたしの方を見続けていたみたい。この辺、性格が分れるね。

先に進んでいくと、また道が左右に分かれる。ここも右の方に行く。


「この道を左に行くと魔物が良く出る場所に近づくから、まだ行かないでね。こっちの方もたまに出るけど、見通しが良い分、まだ安全な方だから」


多少の高低差があるもののまっすくに延びている道を進んでいくと、今後は左右正面と3つに分かれている。


「左は山の上の方に向かう道。正面は山を下りる道だね。その道を下りていくと町の方に出るよ。どっちも行かないから、右に行くよ」


しばらく進んでいくと、背の高い木々によって日の光が届かず薄暗くなった所に出る。


「そこに生えてるキノコは食べられるキノコだから採って。派手な方は毒だから採らないで」


今日は旨味たっぷりキノコ鍋だね。

そっちの派手なキノコは毒だけど使い道はあるから、わたしの方で採っておこう。パウダーの作成に使うのだ。


「この辺は薄暗いからキノコとか採れるよ。良く覚えておいてね。あとこれは薬草だから、同じような草が無いか探してみて。この草を取るときは茎の上から切り取ってね。2日くらいで、また生えてくるから」


しばらくキノコと薬草の採取を続けると、ビアンカが奥の方に探しに入っていくので連れ戻す。


「ビアンカ、それ以上は行かないで、危ないから。フロウラも覚えておいてね」

「何かあるのですか?」


何故?フロウラがそんな顔をしてる。


「んっとね。穴蜘蛛がいっぱいいるらしいよ。引きずり込まれたら助からないから注意してね」


ビアンカの身体がビクッてなる。この辺はまだ大丈夫だから、そんなに怯えないで。

それに、怯えたところで身体が動かないと、意味無いから。

無駄な事してると死んじゃうよ?


「さあ、そろそろ先に行こうか」


二人を連れて先に進む。薄暗い道を抜けると、山肌むき出しの斜面を道が横断している所に出る。この斜面から採れる土は、魔素を多く含む赤土なので色々な用途がある。

これも少し採っておこう。


「崩れやすいから気を付けてね。特に霧の出てる日は注意してね」


タリム盆地固有の濃くてネバついた霧は視界を奪う。それに、霧に紛れて近づいてくる魔物もいる。こんな所で戦闘になって足を踏み外したら、そのまま斜面をずっと転げ落ちることになる。

他にも、二人に色々と危ない所を説明しながら進んでいくと、今度は真っすぐに行く道と右に曲がる道に分かれた。角に大きな石が置いてあるのは目印の為にとハナ姉が置いた石。

どうやったのかは知らないけど。


「ここも右ね」

「先程から、右にしか行かないのですね?」


わたしが右の方に進もうとすると、フロウラが疑問を口にする。


「この辺を一周しているから。ちなみに今、小屋はどっちの方向にあるか判るかな?」


鬱蒼と茂る木々の中を進むのであれば、方向感覚は大事だ。ビアンカは周囲を警戒しながら歩いていたけど、それだけだと、道に迷うよ。


「右側でしょうか?ずっと小屋を中心にして右周りに進んでいましたので……」


フロウラの言うことは間違ってはいないけど。

正解は右斜め後方。斜め前方か、真横か、斜め後方かは、進んだ距離が関係する。


「自分がどれくらいの距離を歩いているのかを感覚的に掴めるようになってね。じゃあ、行くよ」


この先の道をまた右に曲がれば、最初に左右に分かれていた所に戻ってくる。

これでぐるっと一周。

簡単な道だけど、これに霧が加わると曲がるべき所で曲がらずに、道に迷うことになる。

注意するのは魔物だけじゃない。


「二人とも静かにね」


注意するのは魔物だけじゃないけど……何て言うんだっけ?こういうの。

噂をすればって、言ったっけ?


あれは……ツノトカゲだね。少し開けた所にある岩場で擬態して日光浴をしている。

ふふん、気持ち良さそうにしてる。


じゃあ、狩りをしようか。

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