謎の女(2)
「DDN社に入社というのはどういうことでしょうか? 」
宗平は改めて目の前にいる銀髪の美女に聞いた。
「言葉の通りです。我が社でのプロジェクトに際して人手をと」
静かに淡々と説明をした。
「なぜ私に?」
痛む頬を抑えながら言った。
「今時若者が現実に残っていることが珍しいですから。九条様を数えましてもごく僅かしかおりません」
シルヴィアは髪を耳にかけながら、そう説明し続けた。
「それに九条様にも悪い話ではないでしょう?」
全てを見透かしたような目である。
「と言うと? 」
何かを感じたが、そこは動揺せず聞き返した。
「妹さん、入院なされていますよね。お金の面で苦労しているとか」
「なぜそれを?」
宗平はかなり警戒した。それもそのはず妹が入院している事を知っているのは本人と宗平だけなのだから。宗平には妹以外親族はいない。
「これから働いていただく方の身辺調査をする事が決まりなので」
「……」
宗平はどことなく恐怖を覚えたのか、無言でいた。
「勿論、九条様のご意思が最優先なので強要はしませんが……」
手元に端末を見ながら言った。
「具体的に仕事の内容を聞いていないので決められませんよ」
「強いて言うなら人を守る仕事…。ですかね」
シルヴィアは困った顔をして言った。
「人を守る? 警察とか自衛隊でしょうか? 」
「すみません。極秘事項なのでこのような場所では言えません。」
辺りを確認したシルヴィアは首を横に振りながら答えた。
「勿論入社していただければお教えすることはできますが……」
「1日考えさせていただけませんか」
「当然でございます」
シルヴィアは宗平を笑顔で見て、横に視線をずらした。
「メガネ型端末が壊れているようですね」
シルヴィアは宗平の横に投げ捨てられたメガネを見て言った。
「さっき殴られた時に…」
「それでは連絡等できないですね」
シルヴィアはポケットを探り、新品のメガネを宗平に渡した。
「いつでもそちらでご連絡してください」
シルヴィアは笑顔で、くるりと振り返り裏路地の出口へと向かった。シルヴィアは出口の一歩手前で立ち止まり、振り返った。銀色の線がなびく。
「”アビル”の名に聞き覚えはありませんか」
一体は何を考えているのだろうかわからない瞳で宗平を見た。
「アビル? 」
瞬間的に雨音しかしない時間が発生した。
「いえ、なんでもありません。忘れてください。DDNでお待ちしております」
シルヴィア少しして静かに言った。
悲しそうな顔をして彼女は夜の街に溶け込んだ。