謎の女(1)
雨が降ってる。
ここはどこだろうか。
あれから何時間経っているんだ。
ビルの非常階段から垂れた雫が宗平の頬に当たる。
「いたた……」
傷の痛みで宗平は目を覚まし、体を起こした。
手加減って言葉を知らないのだろうかと怒りを少し覚えたのか、小さく右拳を床に叩きつけた。
周りを見渡して自分がどこかの裏路地にいることを視認した。薄暗いここは今の自分にお似合いだと悲観し、苦笑した。
「取り敢えず、今どこだぁ…」
九条は自分のメガネを探した。
「あった」
九条はメガネを発見したと同時に、それはメガネの残骸であり壊れていたこともわかった。
「殴られた時に壊れたか」
宗平はメガネを横に投げ捨て、また寝転び夜の雨空を見た。
綺麗な雨空だ。
カツカツ
ヒールで歩く音がする。こっちに向かって来ているのはわかった。
「ここにいらっしゃいましたか」
綺麗に澄んだその声は天使の歌声のようだった。宗平はその声の元を見ようと顔を少し上げた。そこには女が一人立っていた。誰もが美人と思うような顔立ちをしている。長い銀髪は薄暗い裏路地とのコントラストと作りだし、神々しく見えた。
「九条宗平様でお間違えないでしょうか?」
宗平は静かに頷いた。
「あなたは……」
突然自分のことを知っている謎の女が現れたことに動揺していた。
「申し遅れました。DDN直属人事部シルヴィアと申します。以後お見知り置きを」
姿勢良く小さくお辞儀をしたのを見たあたり、人事部と言うより秘書に近く見えた。
「し……シルヴィアさん? 」
宗平は何が起こっているのかわからなく混乱している。
「随分と派手にやられましたね。立てますか?」
シルヴィアが手を出し、宗平は手をとった。
「あっありがとうございます」
柔らかく白いその手は傷ついた宗平に何を思わせたのだろうか。
「どうかなさいましたか?」
「あっいえ。なんでもありません」
久しぶりに人の温かさを感じている宗平をシルヴァは不思議そうに首を傾げている。
「で、シルヴィアさんは一体私に何か? 」
宗平はスラックスについた汚れを払いながら聞いた。
「はい、単刀直入に申しますとDDN社に入社していただきたいのです」
銀色の瞳は真っ直ぐに宗平を見つめていた。
「はぁ……そうですか。ってえ、え? 」
突然のことに宗平は動揺した。