ナビゲーター
宋平はコンビニを後にしてから少し街を歩いた。街と言っても活気はなく昼間だと言うのに昼食をとる人はまばらだ。アンドロイドや掃除ロボットはいるが…。
「ここも廃れたなぁ」
思わず呟いた。それもそのはずで嘗て若者の街と呼ばれた”渋谷”の面影は今はない。
交差点を渡り、犬の銅像の横に座りおもむろに手を耳に当てた。電話の発信音が鳴った。2コールくらいで電話の相手に繋がった。
「あぁおはよう。どうだい調子は」
「そっか良かった」
「用件? 」
「ただどうかなぁーって」
「なにも隠してないよ」
「それじゃ、またね」
宋平は電話を切った。
「無職になったなんて明るい感じで言えないよなぁ」
手の平に表示されている文字にはゴッシク調に九条瑞稀と書いてある。
しばらくその場に座りこみ考えに耽ていた。
「考えても仕方ないか。仕事探さなきゃな」
胸ポケットからメガネを取り出し掛けた。メガネをかける事によって自分の目の前に画面が表示される。
「仕事、仕事……やっぱあるわけないよな」
手でスクロールする仕草をしながら、ため息をついた。
仕事が全く無いわけではない。昔よりは小規模ではあるが、教師、SE、医者と言ったものは健在だ。ただ彼にそれらに就く為の資格など無い。だから結果的に就ける仕事がないのだ。
「これも、これも、今更資格取るにしても……」
自分の不甲斐なさを改めて実感する。
「取り敢えず新宿行くか」
無職でありお金の無い彼には歩く以外の選択肢はなかった。
「目的地新宿駅」
宗平は独りでに声を発した。
「承知しました。新宿駅までのルートはこちらとなります」
メガネから女性の声と電子音がした。
「ナビゲーター起動」
起動音と共に、目的地までの赤い線が道に沿って表示された。