Asher-アシェル(1)
揺れが収まり、宋平が見たのは巨樹であった。明らかに周りにある木々とは比べものにならないような大きさ、枝一本一本に強い生命力を感じられる。艶のある葉っぱは上を向いていた。根は樹齢優に千年以上越えるとわかる張り方であり、幹には特徴的な実は赤色と黒と白の縞模様の宝石が幹に埋め込んである。
「なんだこのでかい木は」
宋平は思わず驚嘆の声を漏らした。
「オリーブの木・・・・? 」
望月は得意の分析で木の種類を予想した。ただ仮にオリーブの木だとしても大きすぎる点で彼は完全に断定することができなかった。
巨樹は大きく木を揺らした。風の力ではなく、木自身がだ。
「今、木が動いた?」
色葉はその動きに不自然さを感じた。
「あらぁ、お嬢ちゃん良い観察力持ってるわね」
今まで聞いたことのない誰かの声がした。
「誰だ! 」
望月は銃を瞬時に召喚し、構えた。
「あら、こわーい」
その声の元はすぐにわかった。
「木が喋った?」
宗平は半信半疑の気持ちで言った。
「木が喋るとおかしいのかしら? 」
口調は女っぽいが声質は完全に男であり、俗に言うオネエである。そして太い幹の真ん中に顔のように目と口が隆起した。額には怪しく光る縞模様の宝石がある。
「以前バグが出たのはこいつってことか」
「そのようね」
望月のその言葉と同時に皆の頭にユダを想像したであろう。
「初仕事がハードすぎないか」
宗平は笑って言っているが内心不安である。それと当時に<<システムグリッター>>が見えないかを模索していた。
「あらぁ、初仕事なのね。 私が初めてもらっちゃってごめんなさいねぇ」
宇佐美がいたら、今の木の発言に対しキモイと一言言っているだろうか。
「気持ち悪い・・・」
その代わりではないが色葉はらしからぬ声で言った。
「ひどいわ? 私こんなに美しいのに」
巨樹は拗ねたようだ。
「あのライオンみたいに好戦的ではないように見えるけど」
色葉はユダとの戦闘を思い出しながら言った。
「そのようですね。でもそれはそれで好都合なのでは? 」
望月は既に頭の中で目の前の敵をどう倒すかを練っている。
「あのねぇ、あんた達なに私を抜きに勝手に会話してるのよぉ? 」
木からの発言はその場に静寂をもたらした。
「なんかこの木君が悪いわ。 バグなのに戦おうとせず話しかけてるなんて・・・・」
色葉は戦闘体制であっても、嫌悪むき出しの顔をした。
「そんな顔しないでよ。 そんなに戦いたいなら・・・・・ 」
巨樹はその直後、太い枝の一つをしならせこちらに攻撃を仕掛けた。ムチのような枝は周囲の木々をなぎ倒してが、その威力は収まる気配はせず、目にも止まらぬ速さで色葉を襲った。色葉は自分の刀を両手で支え攻撃を防いだ。しかし、その攻撃は重い。刀にヒビが入った音が微かに聞こえた。
「うっ重い」
色葉は直接の攻撃は防げたが、押される力は受け流せず、遠くへと飛ばされ木にぶつかった。痛がる色葉の声がした。夢の空間とはいえ、脳の中で現実同様に痛みを感じる。実際は錯覚ではあるが、現実でも錯覚により痛みを後に感じることになる。もちろん死ぬ場合なども同じように・・・・。
「色葉さん大丈夫!? 」
宗平は走って色葉の方へと向かった。
「私は大丈夫・・・・。」
心配かけまいと強がって言っているが、見るからに重症だ。その証拠としてイメージ化していた刀はポロポロとかけらを落としながら、少しずつ壊れていた。
「色葉さんは、ゆっくりしてて。」
宗平は色葉を木に寄りかかせ、自分の武器であるダガーナイフを召喚した。
「許さない・・・・。」
「怖いわぁ・・・こっちだって別に戦う気はないのに戦いそうな生意気な娘にお望み通り攻撃してあげただけなのに」
巨樹は強者の余裕なのか、色葉に向けた一撃の後はのんびり見ていた。宗平は目の前の巨樹を睨みダガーナイフを構えた。
「望月・・・色葉さんを頼む」




