Judhaーユダ(1)
前回までのあらすじ
アービター一同はDDN社の訓練用仮想空間へアクセスし、そこで武器の実体化に成功した。コード<<Judhaーユダ>>の警告が部屋中に鳴り響いていた。
「さぁみんな後は頑張れよ」
五十嵐の気怠そうな声が聞こえた。
「頑張れって言われてもねー」
宇佐美の嘆きが聞こえると共に白い空間にただならぬ空気と霧が発生した。何か猛獣の唸り声と巨大な黒い影が見えた。
「ライオンか?」
霧が少し晴れた辺りで宗平はその影の正体に気づく。
獅子の赤い目がこちらを睨み、牙を剥き出している様はまるで笑っているかのようだ。ヨダレが地面に滴り落ち、今にも喰ってかかりそうだ。巨大な獅子の鬣がなびく様はいつまでも見ていられるようだった。
そして息もつく暇もなく戦闘は始まった。
獅子が望月、宇佐美に襲いかかった。いくらこちらが武器の実体化に成功したからと言って、すぐに戦えるわけがない。
「おいおい!どうするんだこれ」
冷静であろう望月でさえこの状況では保てないようだ。
「知らないわよ、あなたの銃でどうにかしなさい」
宇佐美は獅子からの攻撃をなんとか交わしながら、望月に叫ぶ。
「これは遠距離専用だぞ。こんな狭い空間で使えるわけないだろ」
実際、望月の言う通りこの仮想空間は想像以上に狭かった。スナイパーライフル特有の後方からの遠距離射撃など到底できない。
「そういうそっちの鎌の方が攻撃できるだろ?」
望月は無理とわかっているも好機を狙うため部屋中を走っている。
「それじゃ一発お見舞いさせてあげる」
宇佐美は獅子の鍵爪をよけ、獅子の手の甲にひらりと乗り、高く跳んだ。通常の人では到底できない高さを跳んでいる辺り、彼女自身の身体能力もあるだろうが、夢世界で少し補正されていることがわかる。宇佐美はその大きな鎌を獅子の目に向け振りかぶった。金属が肉に刺さる鈍い音が白い空間内に響いた。流石の獅子ですら目へのダメージはこたえたようで、唸り声をあげていた。
これで終わりか?
もちろんそんなに簡単に終わるわけもなく、獅子は更に雄叫びをあげた。
「あれれ、余計怒らせちゃった感じかな?」
宇佐美は手を頭に乗せ困った様に言った。
「嘘だろ」
望月は息を上げながらメガネに手をあてた、溜息混じりに言った。
「見るに耐えられませんね」
二人の後ろから澄んだ少女の声がし、刀の抜く音がした。
「色葉ちゃん、その言葉聞きづてならないね」
宇佐美は少し怒った様な顔をし、自分の鎌を強く握った。
「この化け物は私が倒します。 一切の助太刀無用です」
凛として、冷たい色葉のその姿はまるで一本の剣の様だった。
倒れかかっていた獅子はしっかりと四本足で立ち、再び襲いかかろうとしていた。
「近衛流儀、八炎陽」
色葉は目の前の凶暴な猛獣には屈せず刀を顔の横に構えた。刃先は天井へと伸びていた。獅子は少し警戒した様にも見えたが、色葉目掛け突進してきた。色葉は動じない。襲いかかっていた脅威に対いし直前で横へとずれ、刀を降った。刀で切った時の澄んだ音が鳴った。獅子は一瞬なにが起きたのか理解できていない様子であった。
スパッ
肉を切れ味の良い包丁で切った時の様な音がした。ここで獅子もようやく何が起きたのか気づいたようで、獅子はバランスを崩し左に倒れた。足を一刀両断されたからだ。獅子は宇佐美の時同様、大きなうめき声をあげていた。他の班員はその光景をただ見入ることしかできなかった。
「何が起きたんだ?」
宗平はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。彼は剣術らしきものを生で初めて見た。(仮想空間内ではあるが)
「流石近衛家だな」
遠目から見ていた五十嵐が拍手しながら言った。
「当然です」
色葉は刀を鞘に戻し、五十嵐を睨む様に答えた。
「だが、その詰めの甘さがお前の弱さだ」
五十嵐の言葉と同時にさっきまで倒れていた獅子が立ち上がった。
「なんだって? 」
望月は驚愕を隠せない。それもそのはずさっきまで、あるはずのない獅子の足が再生しているのだから。現実では絶対起きない現象がここで起きている。それもそのはず夢なのだから。




