無職
2127年 2月某日
「店を閉めるってどう言うことですか!? 」
九条宋平のけたたましい声が小さなスタッフルーム中に響いた。
「ごめんね、九条くん」
店主と思しき男が哀愁漂わせ言った。歳は四十超えた辺りの中年男性だろうか。ハゲ散らかった頭と首から下げられた名札からは貫録を感じられる。
「店長があんなに大事にしてた店をあっさり閉めるなんて納得行きません。それにここは俺にとって唯一の職場なんです。考え直してください」
宋平は感情を露わにして店長に言い寄った。
「本当にごめんね。でも、もう決まったことでね」
店長の顔から絶望の2文字が見えるくらい暗い顔をしていた。
「なにも説明ないのはやっぱり納得できません」
ただこれで引き下がるわけにいかない。強く拳を握った。
「九条くんは相変わらずだね」
店長はその宋平の姿に笑みをこぼした。
「ほんとうに納得いかないだけですよ」
店長は今どき珍しいタバコに火をつけ一息ついてから言った。
「九条くんもわかるだろ?最近客足が減ったこと」
「確かにそうですが…」
実際この店の来店客は1日10人来るかどうかであった。
「もう個人コンビニなんてやっていけるような時代じゃないんだよ」
この地域はコンビニ競争が激化していたところであったが、その面影は一切無くなっていた。
「それで女房に言われちゃってさ、いつまでそんな店やってるんだいって」
宋平はなにも言えない。
「それで家族でDDNにって話になってね」
「DDNですか」
おうむ返した。
「そう。丁度先月娘も18になったし、この機にって」
「そうですか」
さっきまであった威勢は宋平には無くなっていた。
これ以上言ってもしょうがない。
「九条くんも確かもう18だよね」
「はい、半年前ほどに」
「夢か現実か、そろそろ決め時じゃないかなって勝手ながら思うけど」
そう今の時代18にもなると2つの内どちらかを決めなくてはならない。とは言っても選択肢などほとんどないのだが。
「お気遣いありがとうございます。でも自分はもう決まっているので……」
宋平は静かに自分の名札をデスクに置き部屋を出ようとした。
「九条くん」
宋平がドアノブに手をかけたとき店長が呼んだ。
「なんでしょうか」
きっと最後であろうからと思い笑顔で応答した。
「もしあっちで会った時はよろしくね」
店長は至って真面目かつ笑顔で言った。
「ご冗談を」
愛想笑いし一言言って宋平は部屋を後にした。しかしその顔には笑顔などなかった。
無職だ…。