58.奴隷と護衛
まさに絢爛豪華。
大理石のような石の床。
そして正面に目を向けると、そこにはゆったりと内側にカーブを描く、左右対称の階段。
その階段の手すりには、細かな美しい鳥の装飾が施され、その一つ一つの鳥の目には様々な色の宝石のように煌めく石が埋め込まれている。
その中央部にはフロントがあり、そして天井には非常に大きな光り輝くシャンデリアがかけられている。
また美しい花や木が、計算され尽くしたように配置され嫌味のない美しさを演出していた。
「おー。タカヤさんよく来てくれた。フェオン様の部屋まで案内する。付いてきてくれ」
フロント横の階段から降りてきて、出迎えてくれたのは【赤月の護り】のリーダー。シャウさんだった。
赤月の護りには、リーダー シャウさんの他に斥候の ユニーさん。
大楯タンクのガイファさんとクオさん。
そして魔術師のピータさんがおり。
5人パーティで、フェオン商会専属護衛として活動する事になったと言う事だった。
部屋に着くまでの短い時間だが、お互いの近況を少し報告したり、パーティの話を聞けた。
どうやら護衛が専門のパーティといっても、護衛依頼を最優先するものの、護衛以外の時間は普通の冒険者として依頼をこなしたり、ダンジョンに潜ったりしている普通の冒険者パーティだった。
そんな話を聞きながら、2階の南東角部屋の前に到着した。
「フェオン様、タカヤさんをお連れしました」
軽いノックの後、部屋に入り挨拶を交わす。
「タカヤさん。よく参られました。その節は碌におもてなしも出来ず申し訳ない。ただせっかく来て頂いたものの。今回もそこまで時間も取れないのが現状、大変心苦しいですが、さっそく本日のご用件である奴隷についてご説明しましょう」
フェオンさんは、挨拶も早々にゆっくりとわかりやすく奴隷について説明をしてくれた。
しかし、本当にこんな初歩的な説明にフェオンさんの時間を取って貰っていいのだろうか。
そんな普通じゃあり得ないであろう状況に、場違い感を感じながら、しっかりと説明を聞く。
そして説明された奴隷については、まとめるとこんな感じだった。
1.奴隷の種類としては、一般奴隷 と 犯罪奴隷 が存在する。
2.一般奴隷
借金の為売られたケースや、親の奴隷落ちと共に子も奴隷化した場合などがある。
奴隷狩りでの違法な奴隷も一度奴隷になってしまえば奴隷として扱われる。
犯罪を犯していない奴隷全般
3.犯罪奴隷
犯罪を犯して奴隷落ちしたもの。
重罪人は最初から強制労働者として鉱山などに送られるが軽犯罪者は一定期間売り出された後、強制労働者として安く国に買い上げられる。
4.一般奴隷における戦闘・家事・労働及び性行為の、可能か否は奴隷によって決まっている。
できる出来ないの制限によって、値段も変わる。
5.犯罪奴隷は基本全て可能。
ほとんどが戦闘奴隷の使い捨てか、超重労働を課せられる。
6.この世界では一度奴隷落ちすると基本解放される事はない。犯罪奴隷は解放出来ない。
7.衣食住は奴隷主が保証する。
8.奴隷は首に奴隷魔法を組み込んだ首輪をつける。
「借金奴隷であっても、解放される事は少ないんですか?」
借金分働けばいいような気がするが、違うのだろうか。
借金の為自分を売るなんて、物凄くリスキーなような気がするんだけど。
「そうですね。例え其れ相応の働きをしても、解放されてしまえば、衣食住は自分が用意する必要がありますし、元奴隷となると、なかなか雇われる事はないのです。なので、奴隷とすれば中途半端に解放されると再度の奴隷落ちや生死に関わるのですよ。なので解放されるとしたら、元の主人にそのまま雇われるケースが多いですね」
言われてみればその通りだ。
色んな小説で色んなタイプの奴隷契約を読んできたが、なるほど実際の話を聞くと、しっくりくる。
「ちなみに奴隷の相場ってどのくらいなんでしょうか」
「そうですね。犯罪奴隷はやはり安いですね。リスクを負いますので銀貨50枚から。一般奴隷もピンキリですが、家事のみで金貨3枚から、容姿にもよりますが美しく性行為も可能な女性で金貨500枚なんて奴隷もざらにいますね」
ほえ〜。性行為目的で5000万円か…。金銭感覚が狂いそうだ。
まぁ貴族とか大金持ち達の世界だろうな。
「ちなみに僕は戦闘も出来る奴隷を探しているんですが、その場合は……」
あくまでも目的は、一緒に冒険出来る人材だ。
家事だけ労働だけなんて、定住先を当分持つつもりの無い僕には奴隷の持ち腐れだ。
「その場合、男の戦闘奴隷で金貨5枚〜数100枚。女性で金貨3枚〜同じく数100枚です。能力、種族、年齢、所有スキルで大きく変わります。ちなみに男は龍人族、女はエルフ族が高額で売りに出されることが多いですね」
男の奴隷でもいいが。
やはり僕も男だ余程の事がなければ女の子から選ぼう!
心の中で、新たな決意を胸に灯す。
「しかし、女性で戦闘可能な奴隷は男性に比べれば実用的な奴隷は少ないでしょうな。私の所でも数人いるかですよ」
はい。
百戦錬磨の大商人様には、しっかり見透かされているようです。
「はは。ですよね。まぁある程度覚悟があれば育てることも可能ですし、そこは相性重視でいきますよ」
まだ陽の目を見ていないが、創造神の加護に神の御心がある。これを使えば育成可能なはず。それにスキルも取得補正が掛かるから他の人よりもかなり優位になるはずだ。
「なるほど。そうですなタカヤさんは、ご自身も優秀な冒険者であるのと同時に、優秀なテイマーだと聞いております。魔物の育成、特にスライムを戦闘用にするのは、非常に困難。きっとそのノウハウは奴隷の育成にも役立つでしょうな」
「そうですね。いい人がいれば是非ご紹介下さい」
流石は天下の大商人。
こちらがテイマーであることも、ポシルの存在も知っているようだ。
まぁ困ることもないがきっちりこちらの情報は調べ上げているようだ。
「そうだ。タカヤさん王都に来られませんか?あいにくこちらの街ではあまり奴隷の売買は活発ではありません。王都に行けば私の店以外にも奴隷商会をご紹介させて頂きますよ」
どうやら、今の仕事が後3日程で片付き、その後すぐに王都に帰還するらしい。
今回はその王都迄の護衛を兼ねての誘いで、正式にBランクの依頼として、ギルドに指名依頼をするとの事だった。
王都迄に道のりは約2週間。
途中いくつかの小さな村や、町に立ち寄りながら補充や売買などを行うそうだ。
通常ギルドのBランク昇格条件として
1.1回以上のBランク相当の依頼達成
2.1回以上他パーティ合同依頼の達成
3.1回以上の護衛依頼の達成
4.昇格対象者用の講義の受講
がある。今回の依頼を受けるだけで1〜3の項目をクリア出来てしまう。
それに何より、この世界の王都に行ってみたい!
あー。
そうか、態々フェオンさんが時間を取ってまで、奴隷の説明をしたのはこのためか。
それでも、やっとこの街以外の世界を見れる!
もう気持ちは決まっていたが、答えは明日で良いと言われてしまった。
きっと僕の焦る気持ちを見抜かれたのだろう。
次の仕事に向かうフェオンさんと、赤月の護りのメンバーを宿の前で見送る。
「タカヤ!お前さえ良ければ、一緒にパーティとしてうちのメンバーにならないか?他のメンバーもタカヤならって誘え誘えうるさいんだ。どうだこの護衛依頼が終わったら判断してくれればいいから。一応考えといてくれな」
「嬉しいですね。ありがとうございます。はい考えておきますね。お気をつけて!」
そう言って手を振り、馬車を見送った。
パーティか………ん?
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