57.サラ髪と怪力
『マスター!』
【ゲート】から出て来た僕に、跳ねるようにして、ポシルが向かってくる。
そのまま肩の上に飛び乗るポシルをひと撫でし、ブルースライムの核を受け取る。
「お疲れ様。ポシル。それよりもよい考えってなんだい?」
『はい。マスター少々お待ち下さい』
そういうと目の前に飛び降り、体を震わせる。
「なっ!」
ぐんぐんと目の前のポシルが巨大化していく。
あっという間に僕よりも背の高い、2m程の大きさになってしまった。
「えっと……どういう事?」
『はい。マスターどうぞお入り下さい!』
さっきのロットブルースライム程の大きさになったポシルが、やはり嬉々とした言い方で、身体を震わせながら触手で体内を指し示している。
「・・・」
『あー。私とした事が少々焦り過ぎました。マスター。これは、マスターのお身体を綺麗にする為の行為です』
無言の僕を見て少し冷静になったポシルが説明を入れる。
行為……。
女の子?であるポシルの中に入る事がどんな行為に繋がるんだろう。。。
『身体のサイズを2m程まで大きく出来る様になったので、その。ですね。マスターが中に入って貰えればお体の汚れを吸収して、消臭薬で臭いを消す事が出来る様になったのです』
さすがに御召し物の修繕は出来ませんが…。と照れてる?のだろうか。なんとも可愛い感じで、身体をモジモジさせている。
それよりも、また一つポシルが優秀になっている。
いつの間にそんな事出来る様になったんだろう。
「分かったよ。ポシルの中に入ればいいんだね。なんだか自動洗浄機みたいだね」
理由が分かれば遠慮する事はない。ポシルの中に向かって足を踏み入れる。
足を踏み入れると、まるでエアドームの様な少し反発のある感触があり、体全体を温かいウォーターベットに包まれた。もちろん息も出来る。
非常に心地よい感触が体全体を包み込み、程よく刺激する。
寝れるな…。これは、驚きの寝心地だ。
『それでは洗浄を開始します』
何か変わった感じは全くしないが、身体中の汚れがみるみる取れて行く。
そして髪の毛もさっぱりとしたところでポシルの体から排出?された。
「おー。凄い。凄いよこれ服の汚れも、体の汚れも全くないよ!なんだか髪もさらっさらだよ!」
『ありがとうございます。マスター。あのスライムが腐敗物の吸収を持っていたと伺ったので、それならば汚れを吸収する事も出来るのではないかと。髪も取り込んだ植物から、髪に良い成分を抽出して使っていますので安心して下さい』
どうやら、その辺に落ちていたボロ布で先に試していたらしく、外見はボロボロだが、布自体は新品の元ボロ布を見せてくれた。
死蔵されているゴブの腰布も綺麗になるんじゃないか?とも思ったが無意味感が凄いのでやめておいた。
応用すれば、部屋中に薄く広がって綺麗にする事も可能という事で、今度使って貰おう。
BOXから代わりの服と靴を取り出し、着替えを済ませる。
時間もあまりない為、取り敢えずグーボさんに核だけ預けてから約束の宿に向かおう。
【ゲート】
人の目を気にする必要のない、グーボ防具店の前にゲートを設置し移動する。
「タカヤ。どうしたんだな忘れ物なんだな?」
店を開けるとすぐに、グーボさんが大きな作業テーブルを設置していた。
どうやら先程壊した作業テーブルを片付け、新しい少し大きめの作業テーブルを作り設置していたようだ。
ちょうどテーブルを縦に持ち、テーブルを横にずらしながら顔だけ出し、こちらに話しかけている。
「いえ。スライムの核の納品にと」
「ん?全部揃ってからでいいんだな。纏めて持ってくるんだな」
「はい。ですから各属性スライムの各を5個ずつ。納品させていただきます」
ミシッ
折角作ったテーブルから大きな音がなる。
「買ってきたのか?」
「いえいえ。討伐してきたんですが」
ミシッミシッ!
更に力が入ったようですでにテーブルに大きな亀裂がはしり、亀裂のせいで修繕不可能な状態になっている。
「いやいや。ありえないんだな。タカヤに頼んで4鐘しか経っていないんだな。2日以内の核はまずは2日かけて自分で討伐する。同時にギルドで魔石購入と冒険者からの核購入依頼。最後の手段で万が一揃わなかったら従魔屋にいって、従魔のスライムを買って核を用意するくらいやって、間に合うくらいなんだな」
熊獣人とドワーフの怪力を眺めながら、今回の件を思い出す。
ポシルを100体に分裂して、魔力だまりのトラップまで仕掛けて足りなかった。
うん?普通じゃ無理じゃね?
「本来は、ギルドに頼る案件だったんですね。まぁ方法は企業秘密ですがなんとか集めました。ちょっと時間がないので、もう行きますね。防具よろしくお願いします。明日またきますね!」
うんうんと、無言で頷いているグーボさんを尻目に、店を出る。
店の扉を閉める瞬間。
バキバキッと大きな音が聞こえた。
次来るときには、また新しくなってるだろう。今度はもっと頑丈なテーブルであることを祈ってます。
身だしなみを整え、フェオンさんからの手紙を持って指定された宿屋に辿り着く。
宿屋はこの《クイート》の中で、最も格式があり、部屋もスイートルームのみという超高級宿屋となっている。
勿論入口には、ホテルが雇っている屈強な護衛が立っており、周囲を警戒している。
「すみません。これを」
こちらが近寄った事に警戒していた護衛の1人に、宿屋の地図を渡す。
護衛は、地図を手にし裏と表を確認したところで、地図の裏に手を当てる
「開錠」
護衛が手をかざし一言発すると、光とともにフェオン紹介のエンブレムが浮き出てくる。
そして、それを確認したもう1人の護衛がすぐさま宿屋に入っていく。
「はい。確かに確認致しました。フェオン商会のフェオン様にお取次ぎ致します。中で少々お待ち下さい」
扉が開き、案内されるまま中に入ると、そこは高級宿に相応しい見事な作りのフロアとなっていた。
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