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36.信と不信

 どうやらあれからピフサさんとファイルさんは、改めて護衛契約を結び【ガブリィ】へと出発したとギランさんから聞いた。


 対して、ダイナムは後から来た商隊と合流し、新たなDランクの冒険者2人を雇い入れ、出発した後であった。


 どうやらダイナム商会の者が、スラムに出没しているところを見廻中の衛兵が見ていたが、何のためにスラムに来ていたかまでは、わからないとの事だった。


 ギルドの1階に降り、Dランクの依頼掲示板で依頼を探す。

「Dランクともなればやっぱり護衛か討伐依頼がメインか、護衛は1人だから無理だとして、討伐をいくつかこなしてまずはLvUPと、自分の戦い方を見つけなきゃかな」


 不意に頭の上をペシペシと叩かられる。ポシルの意志からは不満の意志が感じられる。


「ごめんごめん。1人じゃないね。ポシルも頼りにしてるよ」

 完全な親馬鹿的な可愛がり方だが、気にしない。ポシルは可愛いい。これは絶対だ。


「すみません。ちょっとよろしいですか?」


 ドクン

 小さく心臓がなり、鼓動が高まる。


「はい。僕に用ですか?」


 ドクンッ

 心臓の動きが早まり、首筋、額に薄っすらと汗が浮かぶ。


「僕は、Dランクの4人組パーティ【オーガの鉄槌】のリーダー、ジルです。盗賊を殲滅したっていうタカヤさんですね?Dランクになったとお聞きしました。よろしければ、僕たちと臨時のパーティを組んでいただけませんか」


 ドクンッ

 動悸そして背中に汗が滴る。


 まっすぐ。ただまっすぐな気持ちで、臨時のパーティの誘いがくる。

 でも僕は、疑っている。その言葉を、こちらを見ている8つの眼を、彼ら自身を


 ドクンッ ドクンッ

 どうしたんだ。声が出ない。

 仲間としてパーティを組み、クエストを受注した方が効率がいい。


 ドクンッ ドクンッ ドクンッ

 頭では分かっている。


 ドクンッ‼︎‼︎

「すみません!」


 一目散にギルドを後にする。

 僕はどうしたんだ。パーティを組むだけじゃないか。すごい感じのいい人だったじゃないか。

 そのままギルドを飛び出し、気配遮断を使って東門から森へ、ひたすら走る。


「はぁはぁはぁ。うぷっ。苦し。。。おぇ」

『大丈夫?マスター』

 ポシルが小さく揺れながらマスターである僕を心配している。情け無い。情け無さ過ぎる。


「うん。大丈夫だよ。問題ない。問題ないはずなんだけど」

 パーティにと聞いただけで、酷い動悸がした。


「ポシル。僕はもう他人とはパーティになれないのかも」

 頭の上でぽよぽよと軽く跳ねながら、優しく触手を動かす。



『マスターなら大丈夫。今は混乱しているだけです。それに仲間なら私がいます。スライムですけどね』

 スライムジョーク?を飛ばして慰めてくれる。ポシルは優秀なパートナーだ。


「依頼も受けてないし、今日は帰ろうか」


 気持ちを落ち着かせ、平常心に戻ったところで来た道を戻る。


 さすがに、宿がギルドのすぐ近くなので少し緊張したが、声を掛けてきたパーティ【オーガの鉄槌】の4人は、いなかった。


「ただいま帰りました」


「あらタカヤおかえり!あんたっ有難うね。旦那と神様の間を取り持って来れたんだってね。あの人、今日は気合が違うよ。それにあの人の料理がさらに美味しくなってんだよ。結婚してから今までで一番美味しいよ」


 宿に帰り着くと、ラーダさんが満面の笑みで迎えてくれた。

 理由はなんとなく分かってはいるが、テンションが少々おかしい。


 でもここは全力でラーダさんのテンションに乗る。


「コックスさん。だそうですよ!よかったですね!」


「馬鹿野郎!客前でなんてこと言ってんだ!タカヤ。飯食うだろう。早く座んな」

 やっと我に帰ったらしく、ラーダさんは顔を真っ赤にして宿屋の受付に駆け込んで言った。


「肝っ玉母さんが一転、乙女になっちゃったよ。おそるべし豊穣神の加護・・・」


 ゴンっ

「あいたっ」


 大きな拳が頭に垂直に振り落とされる。


「なーに馬鹿な事言ってるんだ。お前は。ほれ今日の夕飯だ。オークの頬煮込みと野菜スープといつものパンだ。」


 そうして出された食事には、明らかに魔力のような力が感じられ、すでに以前の料理とは全く違うことが目に見えてわかる。


 後頭部をさすりながら、涙目でコックスさんを見ると、コックスさんが耳元で囁いた。


『加護の事はラーダにゃ言ってないんだ。知ってんのはタカヤだけだ。それよか凄いぞこれは、野菜を切った瞬間に収穫時の野菜の香りがして、鮮度が異常に良くなったんだ。ありがとよタカヤ、お陰ですげぇもんが作れるよ』


「いただきます!」

 オークの肉は串焼き屋でも馴染みが深い食べ物だ、あの串焼きだけでも道具入れに結構入っている。

 そのままスプーンで頬肉を掬い口に運ぶ。


「・・・」

 無言まさに最高の料理。

 頬肉は適度に脂が乗っているが、決してくどくなくそれでいてしっかりとした歯応えを残している。

 煮込んだタレもいつもの串焼き屋には悪いが、天と地ほど差がある。


 ごめんな!おっちゃん。


 そして、驚きなのは野菜のスープだ。野菜の鮮度が抜群で大地の香りがする。野菜の全てが溶け込んだコンソメスープだ。

 心が軽くなる。体が浄化される。医食同源の効果だろうか。これが普通に料理をしたレベルか。


「コックスさん。少しレベルを抑えた方がいいかも知れないです。これ程の料理。必ず王都まで届きます」


「む。やはりそうか。加護が強くまだ自分で調整出来ないんだ。おかげでラーダもあんな感じだし……」

 2人して大きく溜息を吐き出す。


 今日の食堂は、予定通り加護を貰う前に準備していた料理を振舞う事になり、コックスさんは今後の料理を調整できるよう、意識するとのことだった。


 本当に王都には関わりたくないらしく、その表情は鬼気迫っていた。


「ポシル。今からちょっとギルドに行こうか。一応討伐依頼を確認しておきたいんだ」

 ポヨンと頭が揺れ、了解の意思が伝わる。


 現在20鐘。

 再びギルドのDランクの掲示板を確認する。どうやらこの時間は流石にギルドの職員も少なく見知った人はいなかった。

「この時間は流石に冒険者も少ないね。落ち着いて見られるよ」

 ポシルと小声で話しながら掲示板の討伐依頼を確認する。



 ランク:D

 依頼内容:➖フォレストレッドベア討伐➖

 報酬:1体あたり金貨2枚

 討伐証明部位:右犬歯

 数量:1匹以上

 その他:単独行動が多い。稀につがいでの行動時凶暴性が増している為注意。買取額は納品された状態にて査定



 ランク:D

 依頼内容:➖オーク討伐➖

 報酬:1体あたり金貨2枚

 討伐証明部位:右犬歯

 数量:1体以上

 その他:複数体で行動が多く、10体以上見かけた場合集落の存在あり。上位種の存在予想される為注意。買取額は納品された状態にて査定。



 ランク:D

 依頼内容:➖イエローファンガス討伐➖

 報酬:1体あたり金貨5枚

 討伐証明部位:ファンガスの傘

 数量:1体以上

 その他:イエローファンガスは麻痺胞子を撒き散らします。買取部位は傘と体の付け根にある胞子球のみとなります。



 いずれも南の森、盗賊団アジトよりも奥にいるようだ。3つ依頼を受け付けにて受注する。


 Dランクになるとやはり報酬が多い。普通ならパーティを組んで頭割りになることを考えると、こんなものなんだろう。


 僕はポシルもいるし、ソロだけどなんとかなるかな。

 帰りに色々出店で買ってから帰ろうか。


読んで頂きありがとうございました。

評価&ブクマもありがとうございます。引き続き楽しんで頂けるように頑張ります。

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物語の精査の合間に書いた小説を新作として公開致しました。
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迷宮都市の料理人
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