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32.豊穣神の加護

「あら〜 あらあら。私も何かプレゼントする必要あるかしら〜?」

 のびのびな感じのおっとり美人。

 豊穣神デメティール様が顔を斜めに向け、頬に手を当てるお決まりポーズで思案している。


「アリーネ様!加護をありがとうございます。頂いたからには、しっかりとご期待に応えれるよう頑張ります」


「デメティール様!私はまだデメティール様のご期待に添えられるような事は”何一つ”しておりません。それに貰いすぎです」

 必死にチート化を取り敢えずは遠慮する。


 加護の力は下手をすれば将来性を決定付けてしまう。

 自由度がなくなる可能性があるのだ。


「そ〜お。そう言えばタカヤさんの近くに、私の加護を持っている人がいるんじゃないですか?タカヤさんから習熟した私の加護の香りが強くするのよ〜」


 習熟した香りとは、どういう香りだろうか……。

 でも間違いなく、僕の良く知っている人の事を言っている。


「はい。豊穣神の好意という加護を持っている料理人がいます。名前はコックスさん。宿の厨房で腕をふるっています」


「あらあらあら。コックスと言ったら30年以上前に加護を与えた子よ〜。料理をとにかく愛していてね。素材を組み合わせるのが上手だったのよ〜。でもね毎日お祈りしててくれたんだけど。何があったかは分からないけどあの子の負の感情が高まった時期があってね〜。それから来なくなっちゃったのよ〜。でも私の加護がついたままって事は料理は続けていたのね。よかったわ〜」


 コックスさんに何があったのだろう。

 おそらくその負の感情が高まったとき、一時料理は作ってなかったんじゃないだろうか。

「デメティール様。よろしければコックスさんを、教会に連れて来たいと思うのですが」


「そうね〜。是非お願いするわ。きっとあなたの為になるはずよ〜」


「うむ。各々やる事は終わったかの。あまりこちらに留まるのも良くないじゃろ。タカヤよ改めて望みのままに生きるのじゃよ」


「それではなタカヤ」


「またねぇタカヤさん」


 一瞬強烈な光が辺りを包み、気がつけば片膝をついた状態で、座っていた。


「ふ〜まさか神様達が現れるとはね。メルクス様は今、別のところにいるのだろうか。いつかお会いしてきちんと挨拶したいな」


 さて善は急げか。

 でもコックスさんをなんて言って、教会に連れてこようか。

 まぁ普通に頼めば来てくれるかな。


 改めて全ての神様を一拝し、教会を後にする。

 時間はまだ14鐘。

 恐らくは宿もそこまで忙しくはないだろう。


 15分ほど歩き、《幸腹亭》の前に辿り着く。


「ただいま帰りましたー」

 予定が終わったわけではないが、何となく帰って来たらこの挨拶をしないと落ち着かない。


「あら。早かったね。今日の予定はもういいのかい?」


「いえ。予定が出来たので一回帰って来ました。コックスさんは厨房ですか?」


「あらあの人に用事があるのかい?ちょっと待ってな」


「あんたー!タカヤ坊があんたに用事があるみたいだよ!」

 ラーダさんは大声を出し、コックスさんを呼ぶ。

 よく通るその声は宿のどこにいても聞こえるだろう……。もちろん外にも聞こえてるはず…


「あいよー。ちょっと待ってくれ」

 コックスさんは軽く手を拭きながら厨房から出てくる」


「すみませんコックスさん。今1鐘弱程お時間いただけませんか?」

 往復でも30分くらいだろう。

 教会での時間も含めても、このタイミングを逃すといつになるか分からない。


「おう。突然だな。何だ市場にでも行くつもりか?」


「いえ目的地は違います。とにかく何も聞かずについて来てもらえませんか?」


 コックスさんは一瞬考え、すぐにバンバンと僕の背中を2度叩く。


「何だかよくわからんが、タカヤがこれだけ真剣なんだ。俺が必要なんだろ?」


「はい。ありがとうございます。ラーダさんすみません。コックスさんを少しの間お借りします!」


 コックスと宿を出て、大通りを北へ向かう。

 道中、新作のメニューについて話を聞いたが、まさかカレーに近い食べ物の話を聞くとは思わなかった。


 ちなみにこの大陸にはカレーはまだないらしく、今回のメニューも様々な香辛料と野菜、肉を炒めてだし汁で煮込むというものだった。

 願わくは客として一番に食べたいと、大興奮でコックスさんに詰め寄ってしまった。


 そんな話しをしながら先程同様、15分程で教会前に到着する。


「ここは……タカヤくんここが目的地かい?」

 コックスさんは、少しの暗い顔をする。


「はい。そうです教会が今回付き合って頂きたいところです」

 目的地が教会だときいたコックスさんの表情は、相変わらず冴えず、教会が嫌というわけではなく、どこか気不味い雰囲気を出していた。


「タカヤ。実は俺はもう20年以上教会に行っていないんだ。タカヤは知らんと思うが、訳あってな。当時は毎日通ってたんだけどな」


 バツの悪そな顔をし、門に近づくのをためらうコックスさんの背中をグイグイと押しながら、教会内の大聖堂に辿り着く。


「ここの教会は初めて入ったが、何とも美しいな。俺がいた王都は、確かに立派な教会だったが装飾に力を入れすぎて成金主義の宮殿のようだった。ここは素晴らしいな」


 4柱の神様を一通り眺め、ステンドガラスをみて呟く。


「そうですね。僕はここが初めてですが、本当に素晴らしいと思います」

 そのままコックスさんの袖を掴み、創造神ラノスの前に行き祈りを捧げる。そして。


「コックスさんこっちです」

 3番目の像の前に行くと、コックスさんは自然と片膝を付き祈りを捧げ始めた。

 僕はその傍で像に一礼し、コックスさんを見守っていた。




「タカヤ。お前さん何者だ?」

 無事デメティール様に会えたのだろうか。それとも言葉を聞いたのだろうか。

 コックスさんの瞳から、涙が溢れている。


「さっきここに参拝に来た時、デメティール様の声を聞きました。僕の近くにデメティール様に関係の深い者がいないかと。僕の近くで作物や料理に関係が深い人を、僕はコックスさんしか知りません。」


 少し事実は曲げて誤魔化したが、これで伝わるだろうか。


「すまん。決して何か疑ったわけじゃないんだ。」


「タカヤ……。俺、豊穣神デメティール様から加護が貰えたよ。いや実は元々持ってはいたんだ。だが今回加護が、より強まったんだ。タカヤのお陰だ。それに教会に来なかった事も許して貰えたんだ。ありがとうタカヤ」


 どうやらあの白い空間に行ったみたいで、そこでデメティール様に会ったらしい。

 そこである出来事の説明をした後、加護が更新されたという事だった。


【Name】 コックス

【age】 48歳

【職業】 1.料理人


【スキル】

 ノーマルスキル

 料理<Lv8> 宮廷作法<Lv4>


【加護】

 豊穣神の加護(原点回帰『鮮』・料理道・医食同源)


 原点回帰『鮮』

 ※扱う食材の鮮度を採取された瞬間に戻す


 料理道

 ※料理スキル経験値増加・大


 医食同源

 ※調理済の料理に状態異常回復を付加する


 ここにもチートの権化がいる。

 ここの神様は自重を知らないんだろうか。この人ラノベの主人公なら料理で異世界救ってそうだ。


「良かったですね。これでまたコックスさんのパワーアップした御飯が食べれるんですね。楽しみです。」


 だがここは祝いの場だ。

 とにかく明るくコックスさんを祝う。コックスさんもやっと落ち着きを取り戻し、笑顔になっていた。


「よし帰るか!タカヤはそういえば用事があって外出たんだろ?大丈夫か?」


「はい。ギルドに出向きます。昨日の事で色々手続きある見たいで…」


「そうか。なら全部終わらせてこい。またもし嫌な事があっても、俺の料理で吹き飛ばしてやる!」


 ドンっと背中を押され、少しむせるが背中の手形に広がる痛みは真っ直ぐ僕を後押ししてくれた。


「はい!」


 2人でギルド近くまで行き、そこでお互い別れた。


 コックスさんは別れ際にもありがとうと言ってくれた。


 さて。整理を付けに行くかな


読んで頂きありがとうございます。

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物語の精査の合間に書いた小説を新作として公開致しました。
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迷宮都市の料理人
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