9話 稼げ!! 経験値!! パンツ売り少女の恐怖
プリモちゃんの自爆攻撃を受けたことが、魔術師としてありえないとデジコに怒こられてしまい、再び町の外に向かう泰弘。しかもレベルを10以上あげてこなければ家に入れないまで言われてしまった。
しかし、泰弘もプライドが高い方なので、10以上とは言わず倍はレベルを上げて見返してやると意気込むのであった。
やや鼻息荒く歩いていると、進行方向に女の子がいた。
明るい茶髪で、柔らかいショートミディアムの髪型で、雰囲気から同世代かやや年下の女の子だろう。
(あの衣装は、射手のjobだな。こんな時間に一人で狩りしているのかな?)
job試験で一緒になった射手のリナちゃんと同じビスチェみたいなトップスとミニスカート。
ぽつりと一人歩いている所に、風が吹き草が揺れそのままスカートの裾がふんわりと持ち上げられ、肉付きの良いふとももとお尻が見えた。
「えっ? お尻? パンツ穿いてない!?」
「やば、見ました?」
女の子もスカートが捲れてそのすぐ後ろに男がいることに気がついて慌ててスカートを押さえるが後の祭り、だが泰弘も痴漢みたいに思われるのも困るので一緒になって慌てる。
「い、いや。見えたけど、見えなかったぞ! 暗かったからな!」
「そうですかぁ、よかったぁ。ちょっとお兄さんにお願いがあるんですけどぉ」
「な、なんだ……?」
そう言って身体を密着させるように擦り寄ってきて耳打ちをしてくる少女、6歳のリナちゃんの時と違いこの子は普通に胸があり、魅惑的な胸元を露わにし、思わず視線を泳がせながら心臓の鼓動が早まる泰弘。
だがその耳打ちの内容に、びっくり仰天してしまう。
「……パンツ、譲ってくれませんかぁ?」
「はぁ? なんだと……っ!?」
目の前の中学生くらいの少女は男の泰弘に何を期待しているのかパンツを要求するのであった。
新手の風俗の勧誘か? など警戒して辺りを見渡すが近くには人気はなく泰弘と少女だけ。
パンツを譲ってくれと言われても、女の子のパンツなんか持ち歩いていない。と思ったが思い出す。
「そんな、パンツなんかもって……いやまてよ……あったかもしれん……あった」
カバンを漁ると、昔カブリコ豚を倒した時に手に入れた可愛いパンツがあった。所持を忘れていたとは言え、カバンの中に女子の下着が入れっぱなしだった事に、やるせない気持ちになる泰弘であった。
「わ~い。お兄さんそのパンツ欲しいなぁ~」
「いや、別にいいけど……そもそもなんでパンツ穿いてないんだよ……」
あきらかに異常な出来事に普通ならここは女の子に気を使って言わないところなのかもしれないが泰弘は気に留めず思ったことを口にするのであった。
女の子も、ツッコミが入ったことで、後ろめたいことがあるのか動きが止まった。
「お、お兄さん射手の女の子はですね、矢代を稼ぐためにパンツを売るんですよぉ~知らないんですかぁ~」
「まじで!? 嘘だろ!?」
どう考えても嘘っぽいのだが、女の子は畳み掛けるように補足する。
「いいですかぁ? あたしが穿いているパンツを売って~、そのお金で矢を買って~、カブリコ豚を倒して経験値とパンツをGETするじゃないですかぁ~、そのパンツをもう一度穿いて売るを繰り返すワケですよ~かんぺき~」
「なるほど……凄いサイクルだ…‥って君パンツを売ったから穿いてないのかよ!!」
一見すると真っ当なことを言っているように聞こえるが、さすがの泰弘でもすぐに嘘だと気がつく。
それでも、リナちゃんの件もあるので「射手の子=ビッチ」と図式が出来上がりかけたが全力で否定する。
そもそもそれが本当なら、泰弘に頼らなくても、彼女が言うとおりにカブリコ豚を狩りして手に入れれば済む話なのだから。
「あっはっは~」
「あっはっはじゃねーよ、とんでもねぇ女だな……そんな女にパンツ譲るわけ無いだろ。じゃあな」
恥じる様子もない彼女に愛想が尽きてその場から立ち去ろうとする泰弘を慌てて引き止める少女。
「ま、まって! お願いします! パンツ下さい! 何でもしますから~!!」
腕を捕まえられぎゅうっと自慢げに乳房を押し当てて泣き付いて来た。
「な、なんだよ……パンツ売ったから矢は沢山もってるんだろ? それで豚倒してこいよ」
「豚いなかったんですぅ~、上手くいくと思ったのですけど、肝心のカブリコ豚が見つからなかったんですぅ~」
「あ~そうかぁ……、そういや最近あの豚流行ってきたからな」
最近あの屋台のおっちゃんが、カブリコ豚の肉をこの街の特産であるステイビアの葉で包んだ新メニューを出して、それが大当たり。葉っぱに包んだことで脂身たっぷりで肉汁を逃さないまま食べれて更にステイビアの甘みが肉とよく合うと話題になり豚の生産が追いつかないくらい大ヒットしているのだ。
当然野生のカブリコ豚はもう殆ど居ない。
「もうパンツ売ったりするんじゃねえぞ。今回は特別だからな」
「ほんと? もうしません~、サイズ合うかな~、あ、ピッタリ~。ありがと~お兄さん!」
それなりに反省しているようなので、パンツを手渡しする。
すると、徐に片足を上げてその場で穿き出す大胆な行動をとって、少女は穿き心地を確かめた。
「ここで穿いてんじゃねぇよ!! 羞恥心っていうのがないのかよ!」
「あはは、そのほうがお兄さん喜ぶと思って」
「…………」
やっぱり、射手の女の子=ビッチという図式は覆されないのであった。
「じゃあ、俺はレベル上げたいから狩りに行くけど、君はもう帰りなさい。見たところまだ子供だろ」
「何言ってるんですか~、あたしはもう14歳ですよぉ~。外出OKの大人の女です! お兄さんソロならあたしとパーティー組みましょう! パンティーじゃないですよ!」
「そんなオヤジギャクを言う厚顔無恥なレディーがいてたまるかよ……」
「あっはっは~。こうがんむちってなんですかぁ? あたし鞭も使えますよぉ~えいえい!」
「…………」
ひょんなことから彼女とパーティーを組むことになってしまった泰弘。
彼女の名前は、上下ハル。射手と言うが、武器は弓の他に鞭も扱うらしい。
射手のjobの特徴は魔術師の物理攻撃版といったアタッカーの役割で自然とともに過すハンターとして、環境に依存するスキルや、動物系統に強くなるスキルなどを持ち合わせている。
「ハルは得意な系統とかあるのか? 俺は水と風の魔術師なんだが」
「私はサポートが得意ですねぇ、あ、決して矢代をケチっているわけではないですよ!」
「ちゃんと攻撃してくれるんだろうな……俺だけに戦わせるつもりじゃないのか?」
「そんなわけないじゃないですか、ピンチのときは自分の命は自分で守ります!!」
「俺がピンチの時も助けてくれよ……?」
不安しか感じないまま街から離れ、夜の草原を進む。
ウエストロッドの地形は東は南北を貫く大山脈ツパベンロケコニ山脈、西は海に面していて台地性の平野となっている。
見晴らしのいい景色なので野生動物との不意の遭遇は警戒すれば問題ないのだが、亡魔獣は突然に現れる。
「――ゼンポー……コウエンフン!!」
「おっと!?」
謎の掛け声とともに、大きな頭をヘッドバンキングして攻撃してくる亡魔獣の攻撃を躱す。
当たると痛そうだが、攻撃のモーションに入る前にかならず「ゼンポーー……」と溜める動作があるので余裕がある。
「隙だらけだぜ、ウインドカッター!!」
「コフーン!?」
「うわぁ、スギボウつよーい!!」
「ふっ……ってハル、さっきからやっぱり俺ばかり戦っている気がするのだが?」
「あたしは応援をメッチャ頑張っていますから!! あ、何度も言いますけど矢代をケチっているわけではないですよ」
「…………」
実は、さっき出現した亡魔獣以外にも何戦かしたのだが、彼女が共闘してくれたことはなかった。
最初のうちは次は何かしてくれるだろうと期待をしていたのだが、次第に諦めモードに以降する泰弘であった。
「あ、その目はあたしをドケチキャラだとおもっていますね」
「いや……ドケチ以前の問題なのだが……射手ってたしか探知スキルみたいなのもあったよな、そういうので敵の出現を教えてくれるだけでも有り難いのだが」
「あたし、あまり狩りに興味ないからそういうの覚えてないのですよね」
「じゃあ何ならできるんだよ……」
パーティーを組むと、仲間同士経験値が公平に分配されるシステムらしく、彼女が何もしなくても、泰弘が亡魔獣を倒せば経験値は半分に分配され彼女にも加算される。
何もしないなら、一人でレベルを上げるほうがずっと良かったりする。
「歌と踊りでしょうかね」
「射手にそんなスキルあったか?」
「ふふふ……まぁ見ていて下さい。サクラサポート!!」
「おっ……」
上下が使ったスキル“サクラサポート”はサクラの花びらが舞う上品で優雅な視覚効果と香りによる副交感神経系の活発化を引き起こすリラックス効果で、SPの回復力を上昇させるスキル。
まだ低レベルで魔法を連続で扱うには最大SPが足りなく地味に辛かった泰弘にとって、非常に有り難い効果のスキルであった。
「すげぇな、ハル、アホの子に見えないぞそれ! やるじゃん」
「ちょ……あたしいつアホの子になったんですか! ふふ~♪」
サクラサポートの最中に踊る必要はないのだが、桜舞う姿を背景に踊る上下は中々のものであった。
上下の舞に見とれている間に、SPはいつのまにか全快しているのであった。
「よっしゃ! 復活したぜ、俺がガンガン魔法で亡魔獣倒していくから、SPがなくなったらまた頼むぜ!」
「はい~! 踊りなら任せて下さい!」
最初は相性が悪そうだと思っていたパーティーだったが、攻撃役とサポート役がハッキリし、意外といいコンビネーションにまとまった。
「そろそろあたしかえりますねぇ~、明日も学校だ~」
「おう、今日はありが……って学生だったのかよ!」
「えへへ、実はそうなのでした~」
現実だと中学生の少女を夜通し連れ回したことに成り通報されそうだが、異世界でよかった。
だが、彼女の口ぶりからして実際にはその年齢でこの時間まで出歩くのはやはりアウトらしく、今まで黙っていたのだろう。
街の近くまで見送り、元気に手を振って行った上下を見送る泰弘。
そのまま自分も帰りたかったが、目標の+10レベルにはまだ届いていなかった。
「俺はもうひと頑張りしてから帰るかな」
時刻は丑の刻に入ろうとしていた。
急きょ描き下ろした上下さん枠の話し。
この子を忘れてました。
亡魔獣データ
■ゼンポウコウエン・フン
HP1700 Lv 32
Atk 105~135
Def 90+31
Mdef 15+10
命中力 280
回避力 200
種族 墓
サイズ 大型