7話 スキルを習得しよう!!
試験が終わったら、寄り道せずに帰ろう。帰りを待つ彼女のために。
……と、泰弘は5分位前まで思っていた。
「ま、まじか……この世界にもあるのかよ……」
帰り道、偶然見つけてしまったのだ、ゲームセンターを!!
――寄らなきゃならない。ゲームオタクとして、泰弘の理性に拒否権はなかった。
「うっほ!! いいっ!! 全部あるじゃん!! カクゲー!! UFOキャッチャー!! コインゲーム!! 太○の達人!! マリカー!! うひょぉぉ~~!!」
レトロなアーケード版から、UFOキャッチャーの景品にはぬいぐるみを初め、謎の河豚みたいなマニアックな景品が揃えてあり、マニア眉唾物であった。
ゲーセン内のゲームは、個人用携帯端末から通信してゲームが行える仕組みでわざわざ100円を両替する手間がなく、かなり快適なゲーム空間となっていた。
「いいよね、いいよね、試験終わったんだし遊んでいいよね。終了時間まで居座っちゃおうかな、うへへ」
久々のゲームを目の前に、水を得た魚のように没頭する泰弘。
財布からお金を出さないシステムは、彼のような自尊心をが緩い者にとって危険かもしれない。
次々にゲーセン内にあるゲームを制覇していく、しかし、ゲームの腕前は良いようで、心配するほど散財はしないかもしれ……ない……。
「よっしゃ!! 這い寄る混沌人形ゲット!!」「やったぜ!! 本日のハイスコア来た!!」「奇跡のナイアガラ!!」
そして、締めに選んだのは、格闘ゲーム機でタイトルが【Symphonic_Of_Battle_Beat】というらしい。
当たり前だが、初めて遊ぶタイトルだ。一見タイトルだけ見ると音ゲーかな? と思った泰弘だが、とりあえず1プレイしてみる。
(ふむ、普通の格ゲーに比べ、コンボの流れが若干音ゲーくさいのか? 妙なリズム感が試されてる気がする……。というか、サウンドがかなりいいかもしれん……。特に打撃音だ……。普通の単調な攻撃ですら割り振られた音が微妙に違う、作った音じゃない、生音レコってんのか?)
Symphonic_Of_Battle_Beatというだけあり、音に相当拘りを持って作られたアーケード機だ。
ゲームミュージックのレベルを超えている、音源チップにかなり容量をつかっていそうだ。
今日プレイするゲーム機で一番真剣にプレイする泰弘の背後に、オタクっぽい風貌でやや小太りの男が近づいてきた。
「ど、どうです? Symphonic_Of_Battle_Beat面白い、でしょ」
「おおっ、いつの間に……おう。凄いよこれ。初めてやったけどかなりハマったよ」
「ふふ……よ、よかったら、NPCでなくぼ、僕と対戦し、しませんか?」
「いいね、やっぱ格ゲーは人間同士でやらなきゃ詰まんねぇよな。相手になるぜ」
若干吃音気味の男はどうやら、泰弘がある程度プレイになれる頃を見計らって声をかけたようで、相当このゲームをやり混んで自信がある様子だった。
それは、ゲームの開始同時に洗礼を受けることとなりわかった。
彼の、美しいコンボ音、まるで、壮大なオーケストラを奏でるように美しく泰弘はプレイ中に関わらず聞き入ってしまった。と、いってもすぐに敗北したわけではない、むしろ粘った。
彼の演奏を、少しでも長く聞きたくて……。“対戦しているのだ”という事実を実感するのは敗北するまで気がつけなかった。
「あ……ま、けた?」
「あ、ありがとうございまし、ました」
深々と、まるでコンサート会場で演奏を終えた音楽家の様に彼はお辞儀をした。
泰弘も、格ゲーをしていた感覚を忘れ、彼の演奏を聞いていた感覚で、お礼を返す。
「こちらこそありがと……って、何が起きたんだ!? 俺は確かゲームを……」
「こ、これが、Symphonic_Of_Battle_Beatで、す。も、申し遅れました、ぼ、僕はマニア城のめ、綿辺と言います。この格ゲーを愛し、格ゲーの打撃音で究極の音楽を奏でることを追求したま、マニアです」
「マニ……ア? って、あんたがスマホ……でなく個人用携帯端末を作ったり、job職を作ったマニアなのか?」
「いえ……ぼ、僕は、ただ格ゲーしか脳がないま、マニア……です。それらを作ったのは、わ、我が城主けてマニア……です」
「けて……って、スマホのロゴの!! 俺のスマホkete製だぜ!!」
「そ、そうで、す……、我が社……と言って良いのかな? と、とりあえずお使い頂きありがとうございますっ……」
思わぬところで会いたかった“マニア”の一員と遭遇し大興奮の泰弘だった。
残念ながら彼はjob職業などに携わった人物とは違うようだが、彼らマニア達は、一箇所に住み込みをしている様子で、通称マニア城と呼ぶ施設に集まっているようだ。
「そうなんだぁ、俺ここにきて、すっげぇあんた達に会いたかったんだぁ、今日はあえて嬉しいよ!!」
「ほんとうです、か? か、帰ったらけてマニアに、も、つ、伝えておき、ます。けての大ファンに会いましたよって」
「おう!! 今日お陰で魔術師試験に合格したし、俺も晴れてjob職だよ!!」
「へぇ、す、すごいです。その年でじゅ、受験大変だったでしょ」
「まぁねぇ…………え」
世間話に花を咲かせていた時、ふと時計を見て我に返る。
(やべ……でじこ……わすれてた)
さっと挨拶をして、飛び出すようにゲームセンターを後にし、当初買って変える予定だったアイスクリームは、とびきり人気店のを選び帰路についた。
今更隠す訳にもいかないと思い、ゲームセンターで手に入れた景品は持って帰ることにした。
下手したら鍵をかけられてるんじゃないかと恐る恐るドアを開ける泰弘。
「た……ただいまぁ~……今帰りました」
「…………遅、ゲームしてきたの? 随分余裕あるみたいだけど合格してきたってことね」
やはり、かなり機嫌が悪い。
当然なのだが、今日は試験が終わったらすぐに帰ると伝えていたため、彼女も相当待ったのだろう。
風呂に入るタイミングも逃したようで、今朝出かける前と同じ服を着ている。
早速景品をみて、すぐに寄り道してきたことがバレる。間髪入れず、デジコが一番気に入りそうなぬいぐるみを渡して、最初のご機嫌取りをする。
「はい……遊んできました。えと、合格しました。これ這い寄る混沌のぬいぐるみです」
「あら……かわいいわね。合格おめでと」
「アイスクリームも買って……きました……ウエストハートのです」
地域情報誌に乗っていた女の子に人気のアイスクリーム屋さん。デジコのお気に入りで修行の帰りに側によれば両手いっぱいのアイスを買っていた。
彼女が好きな味は、勿論全色コンプリートで買ってきている。
「ほんと!? 気が利くじゃない!! 何味? チョコ味は買ってきたんでしょうね」
「はい、コーヒー味とバナナ味とキャラメル味とレモン味とイチゴ味もあります。帰り遅くなって申し訳ありませんでした。許してくださいますか。デジコ先生」
お腹が空いていたのか、全色一気にカップをあけ一口ずつ堪能していくデジコ。
そして、一通り味わった後――。
「偉い!! 許す!!」
「ありやぁすっ!!」
(今日もなんとか喧嘩せずに済んだぜ)
泰弘も向かい合わせに椅子に座り、買ってきたアイスを一緒に食べ始める。
個人用携帯端末を開いて、【コノスキルヲ取得シマスヵ? yes/no】という画面を開く。この画面の間、指定中のスキルの細かい説明テキストが出るため、最終判断の参考に出来る。
「けど、まだ魔術師になった実感が無いんだよなぁ、まだスキルを取得していないからだと思うんだけど、一度取得したら、もう取り直しが聞かないと思うと緊張するんだよなぁ」
「なんだ、まだ振り分けてなかったの? 一つや二つはあるでしょ? これを使いたくて魔術師になったっていうのが。普通はそこから展開してスキルを覚えていくんだけど」
「それがあまりないんだよなぁ……」
「あんたさぁ、私が仕事を休んでまで特訓してあげたんだからそれはないでしょ、実技試験の時一番多く使ったスキル覚えている? あの試験はねスキルの嗜好を測る性格診断も兼ねているの」
「一番使った……スキル……」
泰弘が考え始めると、デジコが食べていたアイスのスプーンで泰弘を指して怒る。
デジコはアルケミストの仕事をして普段生計を立てている。無職の泰弘を抱えjob職に就くまでの間、自分の仕事を休業し修行を手伝っていた。怒るのも無理はない。
「あんたねぇ!! それすら覚えていないってどういうことよ!! まさか6才の女の子の胸ばかり見てたんじゃないでしょうね!! この変態!! ロリコン!!」
「そこまで餓えて……ねえよ? 俺は巨乳好きだし? 巨乳といえばこの前役所であった子……いいおっぱいだったなぁ……ちゅきのも可愛かった」
試験中、リナちゃんのおっぱいでかなり詠唱を止められたことをふと思い出し、連鎖反応で個人用携帯端末の登録で役所に寄った時、目の前で並んでいたおっぱい女神様のことを思い出し、温泉でのちゅきの胸も思い出し、瞳孔がおっぱいなる泰弘。
「な、なにその間!? 本当に試験中、子供に欲情してたの? きもっ!! て、おっぱいばかり見てるんじゃないわよ、おっぱいバカ!!」
「男の目はおっぱい見るためにあるんだぞ!!」
「………………はぁ……」
意味不明な言い訳をする泰弘に、「だめだこいつ」とムカつくだけ無駄かもしれないと、深い大きなため息をついて諦めるデジコであった。
仕方ないのでその事は置いといて、話を元に戻す。
「まぁ……試験中は戦闘で集中しすぎて覚えていなかった……てことにしておきましょ。あんたと話してたらこっちまでおっぱいバカになりそうよ。でスキルの何で迷っているの?」
「試験終わった後、会場で『1:8:1型』と『4:4:2型』とその他って教わったんだけど、これ何の比率なんだ?」
「ん? そのまんまの型の話よ、どの職もjobスキルを取得すると基本的にその2つのタイプに落ち着くのよいい?」
デジコ先生の得意の講義タイム、試験会場で聞くより帰って長年魔術師をしている先輩に聞くのが一番だと疑問を持ち帰ってきた泰弘、今回はアイスクリームのスプーンが指示棒代わりだ。
スキルには前提スキルという、取得しなければならない条件となるスキルがある。
例えば、火属性の初級スキル【クリムゾンボルトlv1】は火球を一つ生成して攻撃する小範囲スキル。
クリムゾンボルトを1レベル取得しなければ、上位スキル【クリムゾンノヴァlv1】が取得できない。
熟練の魔術師としてレベルが上がるに連れて、敵も又強力になり取り巻きという手下の雑魚を従えている亡魔獣などが現れてくるという。(デュロックもあれで一応手下を連れていた)
そうなってくると、前提である小範囲スキルクリムゾンボルトは使用しなくなり、広範囲上位スキルクリムゾンノヴァばかり使用するようになってくるという。
そして、残りをテンペストシールドやプリズンヴェールといった補助スキルで補完するのが『1:8:1型』だ。
続いて『4:4:2型』だが、これは異なる二つの属性のスキルを取得するタイプ。
純粋な攻撃力ならば、特化型である『1:8:1型』が強いが、『4:4:2型』はバランス型といえる。
この442の中には、対立する属性のスキルを取得する。補助スキルも系統の違う別なものを2個覚える。火属性と水属性、近接防御・遠距離防御と言った感じだ。
3属性以上はやめたほうが良いらしい、50個しか取得することが出来ない縛りがあるので、どうしても最大取得レベルが下がり器用貧乏になるからだ。
他にもこれに属さないタイプはあるが、あのアニマレイズオンリー型の獅子王アリサのような特殊な事例で参考にならない。
「で、あんたはどのタイプにする?」
「ちょっときになったんだけど、前提と上位スキルでは詠唱ってどれくらい違うんだ?」
「その取得レベルにもよるけど、大体倍になるわね」
この世界の詠唱とは、直接口にだしてスキルを叫ぶ発言詠唱と、心の声で唱える集中詠唱がある。
勿論どっちの詠唱でも発動はするが、発言詠唱は100%発動、集中詠唱の場合不発がある。それは集中力が足りなかったという事だ。
といっても、両方途中で横槍が入ると詠唱は止まる。
試験中、泰弘は発言詠唱を試みたが何度もリナちゃんのラブラブアタックで詠唱を止められた。
女の子が側にいればおっぱいばかり気を取られる泰弘に集中詠唱は敷居が高い。
なので、ふと泰弘は思ったのだ「たとえ上位スキルを取得しても発動出来なければ意味がない」と。
ならば、たとえ範囲が狭くても発動条件が緩い前提スキルのほうをメインに取得するほうが自分にはあっているのではないかと。
「…………どうだろうか?」
「なるほど、よく考察しているわね。あんたの場合なら逆に条件スキルを高レベル取得するほうが確かに強いかもしれないわね。うん、ほんとなかなか考えたじゃない偉いわね!!」
「はっはっはっ!! デジコ先生に褒められたぜ」
考察を褒められて高笑いする泰弘。
その考えを聞いてデジコがスキルの取得パターンを提案する。
先程は3属性以上は器用貧乏になるから辞めた方が良いといったデジコだったが、上位スキルを取得しないならば火属性・水属性・雷属性・風属性の4属性を10レベル取得し、残り10を防御スキルにするパターン。
その4属性を8レベルにし、もう一つ地属性を加えたパターン。
最後に勢いのまま興奮して、5属性を6~7レベルで抑え、5大元素のエーテルを複合した究極の大魔術サン・クトゥールビヨンドもいける!!!……と暴走したが。「あんたが集中力が足りないからこんな話しているのにこれは無理か……」といい最後の案は引っ込めた。
究極魔法とかここにきて、凄いきになるのだが。テレビでおっぱいの大きな俳優さんが映る度に集中力が途切れる泰弘には絶対使いこなせられないので却下も当然だ。
「デジコって、火系統すきだよな」
「そお? あんたの前でそんなに使ってた? まぁ一番スタンダードで使いやすいしね」
初めてあった時、ヌメロドロを火球で倒していた姿が印象に残っているからだろうか、そのような事を口走る泰弘。
「おれ、火切ってデジコのあまり使わない水と風極めようかな。10が限界レベルではないんだろ?20とか30とってもいいんだよな」
大抵は取得に限界レベルがあるのだが、この世界のスキルは取得限度を守れば一つのスキルで50レベルとか、超特化することが出来る。
泰弘が突然自分の事を踏まえてスキルを取得しようと考案し、焦るデジコ。
「ちょ、ちょっと、なに私とセットでスキル考えてるのよ。あんたのスキル何だから私の趣向なんて無視しなさい」
「いや、いいんだよ。てか俺クールで爽やか系な男子じゃん? 水と風属性っぽいじゃん?」
「え……」
泰弘の渾身のギャグが炸裂した。
ぼくイケメン☆ミ みたいな決めポーズでサラッと言い放った。
「いや、マジで言ってるんですけど……」
本気だったらしい。
更に白けるのであった。
「まぁ……俺ってさ、多分7とか8でも10レベルでも弱いと思うんだよね。この年齢だしさ……だからさ思い切って属性は最初から絞ろうとは思っていたんだけど、その属性が決められなくて困ってたんだ……で、デジコが普段火を使っているからさ。火って水と風苦手じゃん? だから俺がデジコを支える水と風の魔術師になる!!」
「な……なに……い、いきなりさ、支える……とか。わ、私はあんたに支えられなくても……」
少し前、つい弱みを見せ泣きついたことを急に思い出して顔を赤くしてしどろもどろで言う。
けど、泰弘の支えてやる!! という言葉は素直に嬉しくなり、なんだかまた涙目になるデジコであった。
job職の補正は今の年齢からレベルを上げたとしても、雀の涙であることを泰弘は感じていて、今、出来る間に合うことに全力を尽くさなければ自分は彼女の役に立てないと悟っていた。
照れ隠しに「ほんとにバカなんだから」と最後に囁いたデジコの顔は優しく笑っていた。