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スギボウの大冒険  作者: うああじた
2章 目指せ魔術師!!
17/32

5話 job試験開始!! 

 ついに、job試験日がやってきた。

 試験は、2日に分けて行われ、1日目が筆記試験、2日目が実技試験だ。

 試験というと、年に1・2回行われることが一般的なイメージだが、job職の特性とし早く就職しなければならないことから、job試験に関しては、毎月2~3回行われる。

 過去に試験監督を行った者は試験中、受験者との接触は避けるという決まりがあるようで、デジコは一人山小屋で泰弘を見送ることになる。


「いい、教えたことはバッチリね!」

「おう、プリズンカーテンが、目隠し、ブラックベールが足止めだろ?」

「い、や、逆?でない、名前違うし」

「げっ!」

「…………とりあえず、会場はもう昨日下見に言った場所だから大丈夫ね、持ち物も鞄に入れたわね、会場では他の受験者に迷惑をかけないように――」

「だ、大丈夫だから、行ってきます!!」


 受験者当人より、心配する親の様に、過剰になるデジコ。このままだといつまでも「あれもった? これもった?」と続きそうなので早めに切り上げて会場に向かう。

 一人っ子の泰弘にとって、昔母親が高校入試のときまるっきり同じだったなぁとなんだか懐かしい気分だ。

 試験の緊張はお陰でほっこりとした気持ちに変わり、いざ参る。



 試験会場では、全部のjob職が合同で試験が行われる。

 しかし、開催日が多い事と、少子化傾向で、多くの受験生は集まらないそうだ。

 試験会場に来て、最初に泰弘が感じたのはこうだ。


(や、やべぇ……子供しかいねぇ……)


 6歳からのjob試験、初めから知っていたことではあるが、いざ会場に来れば一目瞭然、そこは小学校入学試験の様で、可愛らしい子供しかいなかった。


(完全に場違い……だよな俺……高校試験の時より緊張してきた……)


 そんな会場で魔術師のjobの受付までやってきた泰弘に、若い女性のスタッフが申し訳なさそうに声掛けを行う。


「あの……保護者……さまでしょうか? 申し訳ありませんが試験会場での保護者様の付き添いは禁止されておりまして……」


 当たり前のように、完全に受験生とは思われない泰弘。


「い、いえ、俺……受験生です……受付したいんですけ……ど」

「えっ……あなた6才……?」

「いや、18才です」

「えっ……え……え?」

「18で……試験受けに来ました……すんません」

「えっ!?」


 完全にマニュアル以外の人物が来てしまったことで混乱しているスタッフさん、下手したら泰弘と同じくらいの年齢に思える、アルバイトかもしれない。

 やがて、「この人、この年齢まで何してたんだろ……」というニートをみる軽蔑の眼差しで見てきて、泰弘がそれに気がついて半ギレになる。


「わるかったな18歳の大人になるまで無職でよぉ……いいから、受付してくれます? 魔術師はここですよね」

「あ……ごめんなさいっ!! そんなつもりは……あ、お嬢ちゃんも受験生ね魔術師の受付ならこちらですぅ」

「逃げやがったな、このあま……」


 スタッフが逃げた先、目線を下げると小さな女の子がいた。

 紫色の髪の毛をくるくるカールにして、小さな王冠を乗せていて、ゴスロリ風の可愛いドレスを着た、西洋ドールみたいな色白で可愛い女の子だ。ただ、勿体無いのが、何か不満そうに怒ったような顔を常にしていて、燻んで光の無い瑠璃色の瞳を細めていた。

 その子自身も可愛い人形……とは言えない、変な人形を持っていた。

 何故か顔が3つもあり、触手みたいな腕が6本、足も4つ、尻尾もついている……と思ってよく観察したらそれは蛇になっていた。何かこの世界特有のアニメキャラ人形だったりするのだろうか? 


 その子も魔術師希望だとわかり、同期になる仲間として、年上の余裕も加えて爽やかに挨拶をする。


「おっ、可愛い洋服だな。俺も魔術師になる予定のスギボウだ。よろしくな!!」


 そう言って、握手をもとめ手を差し出すが、女の子はそれを華麗にスルー。

 そのままの姿勢で虚しくかたまる泰弘。


(…………魔術師の女って奴はみんなこんな態度かよ、くっそ……)


 正確にはまだ魔術師志望なのだが、伸ばした手をそのまま戻すのもプライドが許さず、軽く大人として説教してやろうと、その子に声をかけようとした時だった、急に泰弘の周囲に影が出来る。

 泰弘すら覆うほどの大男が現れたのだ。

 その男が、一緒にきた女の子に声を掛ける。


「アリサ、試験が終わったらすぐに連絡をよこせ、穂邑が待ってるぞ」


 女の子は、面倒くさそうに「はい、はい」と返事を返した。

 おもいっきりゲンコツしてやりたい気分に駆られる泰弘だった。


「お兄さんも6歳でしょうかぁ?」

「あ゛ぁん?」

「ちょっ――!!」


 泰弘が来たせいでスタッフさんのマニュアル破壊をしてしまったみたいで暴走させてしまい、心のなかで謝り、同時に「勇気あるなこの子」と喝采するのであった。

 大男は、巻き髪カールの女の子にひと声かけた後そのまま引き返し会場を出ていった。


(よかった、あのおっさんも同期だったら絶対緊張してた、てか見た目からしてヤーさんだろ……すげぇ怖かった……ということは、この子はヤーさんの大事な娘さんみたいな? ち、近寄れねぇ……)


 大男の風貌は、完全にヤクザのそれだった。

 チリチリパーマで、いかつい堀の深い濃い顔でサングラス、ストライプ柄の紺色スーツに白い革靴。

 光加減で薄っすらと見えたサングラスに隠れた眼光は鋭く、きっともう数人は殺していてイーストエッグの海に沈めていたりしていそうな目をしていた。会場から出ていく時も葉巻を吸っていて、スタッフの女の子に、「会場での喫煙はやめて下さい」と注意されていた、「あの女の子怖いもの知らず過ぎだろ……俺には出来ない」と泰弘が度々感心していた。

『受験生の皆様――試験開始まで残り時間1時間を過ぎました――付き添いの保護者様はご退場お願いします、試験中は、スタッフ以外の受験生との接触は一切禁止されております。受験生は大聖堂へ移動下さい――』


(お、始まるな……というか、今日魔術師になる予定は俺と……この子だけっぽいな……くぅぅ、他職の子は普通でありますように……聖職者の可愛い子と知り合いになれますようにっ)


「その聖職者も6才の幼女だぞ」と、どこからかツッコミが聞こえた気がした。

 受付場所から筆記試験部屋に入場する。

 大きな大聖堂を試験場として借りたといわれている、今回の会場。

 真ん中には天上の神へと届くためにと祀られた十字架像と荘厳な装飾にステンドグラスの壁。

 夏でもひんやりとした……というかむしろ涼しすぎる空気が漂っている。

 ある意味、頭を働かせる筆記試験会場にはぴったりな場所かもしれない。

 時間までに集まった受験生は、泰弘と巻き髪カールの女の子、ヤクザっぽい男にはツレない態度だったが、持ってきた気持ち悪い人形を大事そうに隣に座らせては少しだけ顔が綻んでいた。初めからその笑顔を見せろって話だ。その後は、元気な男の子……見た目から剣士志望か、大人しそうな女の子は聖職者志望だろう。最後は何故か泰弘のことが気になったのか頬杖をついて熱い視線を送ってくるおませな感じの女の子……矢筒を持っているので射手志望だろう。


(もっと大勢で溢れかえるくらい人が来るのをイメージしていたぜ、まぁ少子化とかいっていたしこんなもんか、2次試験もきっとこのメンツでやりそうだな)


 そうしている間に、試験開始前の簡単な注意事項が伝えられ、その後スタッフが問題用紙を配り始まる。

『全員に問題用紙が行き渡るまで開かないで下さい、受験者は名前と志望jobがあっている事をもう一度お確かめ下さい』

 …………この待ち時間、時刻をみる時計は無かったが、秒針の音が空耳で聞こえてくる。

『…………始めて下さい』


(よしっ――!!)



 ――――その日の夜。


「試験どうだった?」

「ふふ、うかったぜ!」


 心配するデジコに、満面の笑みで答える泰弘。

 試験内容は当日結果が出るようだ。「イエ~イ」とハイタッチをして筆記試験合格を祝福する。


「おう……てかよ……筆記試験、受かるまで再試できるってどういうシステムだよ!! 最初に言ってくれよ!!」

「あはは……」


 そうなのだ、筆記試験は合格するまで同じテストの内容を繰り返し再試験することが出来て、泰弘は数回の再試を繰り返すことで合格を勝ち取ってきた。


「ま、ある程度脅しておかないと、やる気入んないでしょ? あんたの場合」

「そうだけどよぉ、1回目で不合格と言われた時、マジで絶望したんだぜ……」

「ふふふ、あんただけだったでしょ、1回で合格できなかったの~」

「ああ、みんな頭いいなぁ、俺だけ最後まで残っちゃったよ。けど一緒に受けた魔術師の子も、1回だけ再試だったぜ?」

「そうなんだ、今回のテスト難しかったのかしら」

「何だよそれ……、なんかその子スキルの問題で“アニマレイズ”ってだけしか書かないで提出したらしいぜ。「スタッフがそれ以外も覚えてるよね~」って懸命に説得してたけど、「私はこれ以外のスキル使わないから覚えてない」とか言っちゃっててさ、すげぇ子だったぜ」


 所どころ気持ちが悪い裏声を使って説明をする泰弘、「そのアニマレイズってそんな凄いスキルだっけ?」と疑問を投げかける。


「アニマレイズ……別名降霊術・口寄せの術……珍しいスキルを覚えたがっている子ね、このスキル魔術師の中でも覚えている者は少ないわよ、私でさえ切ったスキルだし」

「ほぉ……そうなのかどんなスキルだ?」

「いや、それを今日試験でやって来たんでしょうが……まぁいいわ……。アニマレイズは、依代と呼ばれる魔術アイテムに死者の霊魂を呼び出し憑依させるスキルで、レベル1ならその辺の魑魅魍魎みたいな霊だけど、その子50まるごと取ろうとか言ってたんでしょ? 正直いうと私もそこまでアニマレイズを極めた人知らないのよね……。どんな霊を呼び出す気なのかしら、気になる子ね」

「れ……霊?」


 この世界にお化けがいる……亡魔獣やモンスターを見てきた泰弘だが、霊と言われるとなんだか背筋が凍る感じがするのであった。

 アニマレイズというスキルは、更に詳しく聞いていけば、成功率がとにかく低いらしい。更に呼び出したところでやることは死者との通信くらいで、それを操って何かが出来るわけではないらしい。

 要するに、ユニークスキル……他のゲームとかでは特殊な条件でようやく手に入れるレアスキル扱いだが、ここでは誰も興味が沸かず、取得限度50しかないこの世界でわざわざ覚えることのない忘れ去られた使えないスキル。


「それを50フルで覚えるつもりって凄いな」

「でしょ? おそらく……だけど、会いたい人がいるのかもね。大事そうに持っているものとか無かった? 写真とか……古い何か……」

「あ……人形をもっていたな。ボロくて気持ち悪かったけど」

「なるほどね、それ、その子の大事な人の形見……ってところかもね」

「ふむ……」


 そう思うと、なんだか、あの少女が可哀想、というか、気になってくる泰弘であった。


(明日、実技試験で同行するとき、もっと優しくしてやろうかな……けどそういうおせっかいが嫌いでツンケンしてたのかな……難しいな)


「ま、明日は実技よ!! 体を休めておきなさい!! もう寝るわよ!!」

「おし!! デジコ一緒に寝ようぜ!!」

「あんたはあっち」

「はい……」


 どさくさに紛れて一緒のベッドに潜り込もうと試みたがあっさり断られてしまうのであった。

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