森の奥の小屋へ (2章3話b)
集中して訓練するために、人里離れた森の奥で住み込みで修行を行うらしく、今向かっているところだ。
「街からこれだけ離れると、亡魔獣も出るけど、ま、弱い奴しかいないし、スギボウのその武器でも倒せると思うから、ちょっとやってご覧なさい」
デジコがそう言って指を指した先に、でっかい芋虫みたいな亡魔獣がいた。
「ひぇ、芋虫もこんだけビックサイズだとキモいな、うりゃ!」
もぞもぞとゆっくりと蠢く緑色の芋虫を、アルヴィアールから譲り受けた剣でバッサリ斬りつける。
芋虫の柔らかい肉に刃が入ると、そのまま抵抗もなく引き割かれ、同じ色の緑色の体液をぶちまけた。
特に何の苦もなく倒せたようだ、案外拍子抜けだ。
「ふ、よゆーだな」
どうよ?と ドヤ顔で振り向くと、デジコがなんかニヤニヤ笑って見てる。
なんかやらかしたか? と思った瞬間、周りに今倒したばかりの芋虫と同じ亡魔獣がワラワラと集まってきている事に気がついた。
「げ~、こいつらこんなにいたのか!」
「ほらほら、上手に倒さないと次々来るわよ~」
「ひーぃ!」
芋虫の大群に襲われて精神的につらいが、デジコは助けてくれる素振りもなく、離れた場所で楽しそうに傍観している。
もみくちゃにされながらも、手当たり次第倒しまくる。その中の一匹からヌメロドロの時みたいに結晶が出てテンションが上がる。
今回はエメラルドみたいな緑色の結晶だ。
「おっ! レアアイテム出たんじゃね?」
「やったわね、6000円くらいだけど」
「おー……、プチレアくらいだったか……」
スマホが50万だったからな、それなりに良いレアアイテムなんだろうけど、最初にヌメロドロの結晶を手に入れた後だと、やっぱり微妙な気分である。
がっかりしていると、デジコが話しかけてくる。
「それにしても、スギボウってやっぱりしぶといわよね、まだレベル0なのに」
「そうか? 普通虫に体当りされたくらいで死なねーだろ?」
「ふむ……ま、そうね……」
なにか言いたげだったが、何だったのか。
精神的なダメージは大きかったが、普段犬と体当たりで遊んでいる時くらいの衝撃だったのでどうってことなかった。
変な芋虫か宝石をゲットし、懐がホクホクした所で、デジコが用意した小屋に入る。
(ここで、デジコと二人で試験対策か、面白くなってきたぜ)
「そういえば、街から離れたら亡魔獣が出るって言ってたけど、なんで街の中では亡魔獣出ないんだ?」
「街の至る所にムニムニガスがあったでしょ? あれがあると亡魔獣が近寄れないのよ」
「もしかして、あのオブジェのことか? そーゆーことだったのかよ!」
ふと気になって聞いてみたら町の入口とかに置いてあった丸い灯油タンクみたいなオブジェ、名前は“ムニムニガス”が亡魔獣避け装置だったという真実を聞けた!
小屋の中は、最低限の家具と、勉強用の本棚が置いてあって、一つの空間に向かい合わせにベッドが2つとその中心に食事用に小さな机と椅子があるだけだ……ってまて。
「ここにある本……、全部覚えろって言わねーよな……」
不安げにそーっとデジコに視線を向ける。
「もちろん、全部暗記してもらうわよ♪」
「あはは……」
飛び切りの笑顔で答えられてしまった。
乾いた笑いが漏れた。
新規描き下ろしの追加分です。