表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スギボウの大冒険  作者: うああじた
2章 目指せ魔術師!!
12/32

1話 スマホを死守せよ!!

 あの後、屋台で盛り上がり宿屋に到着した頃はすっかり遅くなっていて、二人で宿泊できる施設を探すことは大変だった。

 結局2人相部屋なら空いていますと言われ、念願の女の子との宿泊を果たすことが出来た。


「出来たのは良いけど……」

「…………」


 ――――緊張して寝れん!!


 結界魔法みたいなのを張って厳重ガードみたいなことをしてくれるなら逆に反骨精神で男にもなれるのだが、完全な無防備、疲れていたのか部屋に入った途端ベッドに入って先に寝てしまった。

 そっと寝顔を覗き込む……。


「…………さっきの先生感丸出しだと300歳の貫禄があったのだが、今は普通のロリ少女だな……」


 串焼き屋の帰りで肉臭いかと思ったが、錬金術師という職業柄なのか良いコロンの匂いがする。


(マズイぞ……これは全国のスギボウさんファンの健全イメージがどうにかなってしまうレベルでマズイ)


 慌てて部屋の中を興奮した犬の様にぐるぐると回っていると、部屋に入る前に渡された銃を見る。


 ――――数分前。


「そうだ、端末手に入れたことだし、本当は登録してから渡そうと思っていたのだけど、スギボウjob職に就いてないし自衛手段無さそうだから先に渡しておくわね」

「なんだこれ? 銃?」

「デモンリベリオン。魔法銃リベリオンシリーズ3部作の中で、SPのないあんたでも使える銃よ」

「ほお……この銃……、どっかでみたな」


 独特の漆黒のアラベスク模様をしたハンドガン。

 そうだ、この世界に来た最初に見た銃……、アルヴィアールが持っていた銃に、この模様があった気がする。

 夜の暗闇で、一瞬みただけだから気のせいかもしれないが……。


「…………気のせいでしょ? もう実存する物は私が持っているサイレントリベリオンとそれだけのはず、残りのスカーレットリベリオンは今はもう、伝説の中に葬られているから」

「そうなのか……じゃあ見間違い……っておい!! そんな高級品良いのかよ!! なくしたらヤバイだろ」

「ヤバイわよ~、その時は死んで償ってもらうからね」

「いや……目が本気ですよ……デジコ先生ェ」

「とにかく、個人用携帯端末は登録の有無に関わらず大事な物だから、絶対に無くさないこと。もちろんその銃もね」


 ……―――――――。


(それにしても、SPが無くても使える……ってどういう事だ? それで魔法銃? 装填の仕方がわからんが、魔法銃だからか? 構造がわからん)


 使ってみたくても、何やら危険なオーラを放っていて手に持つことも怖いレベル。


(けど、この銃以上に大切にしろってデジコが念を押すくらいだから、これは死守しなきゃならんという事か)


 この世界に来て初めて持つ自分専用の高級レアアイテム、個人用携帯端末。

 見た目がスマホなので、銃ほど違和感なく手にとることが出来るが、段々とこれも恐ろしく禍々しいモノに思えてくる。


(いかん……余計に緊張して眠れん……そうだ、デジコの奴結構俺の匂い気にしてたし、風呂でも入ってくるかな、ここの旅館露天風呂があるとか言っていたし、夜風も浴びれてちょうどいい気分転換になるかもしれん。よぉし、ひとっ風呂行ってくっか)


 俺達が宿泊した宿屋は、温泉旅館になっていてステイビアの中でも大きな施設だった。

 露天風呂が離れにあり、隠れ家的魅力が人気だそうで、この日予約無しで宿泊できた事自体奇跡だったりするらしい。


「温泉はこっち……って言っていたかな? てか、こんなに離れてるもんかな? 普段こんな高そうな場所泊まらんから勝手がわからんぜ、わからんらん」


 今日はわからんばかり言っている気がすると、愚痴を呟きながら露天風呂を探しに彷徨っている。

 個人用携帯端末は完全防塵防滴仕様になっているので、肌身離さず持ち歩いている。

 これは、元々風呂場でもメールやモバイルゲームをする習慣から普通に出来た。

 だが、銃は、日本に住んでいた頃は完全に持ち歩く習慣がなかったこともあり、洗い場に置いてきてしまった。

 それも「あ、銃忘れた、まいいか」と途中で気がついたことだが、防犯意識の薄い日本人の悪い癖ともいえる。気がついても、だいじょうぶだよな。と自己判断し気にしないのであった。


「あ、ここかぁ、すっげえ湯気。マジモンの温泉じゃん!」


 湯気の有無で温泉を判断するなど、温泉マニアが聞けばキレそうだが、そんなことはどうでもいいと、適当にかけ湯をして湯船に飛び込む。「もっとちゃんと体を洗ってから入れ」と怒る人物は居なかった。貸し切りのようだ。


「うひゃあ、いい湯だなぁ~、生き返るぜ!!」


 風情がある提灯の照明は静かに湯船を照らし、空は満天の星空。

 湯の香りは、硫黄系でなく鉄錆系、含鉄泉のようだ。

 実際に湯に浸かり、その色を確かめれば赤茶けた色をしている。鉄分が多く、酸素に触れたことでその鉄分が酸化して出来上がった色だ。

 この系統の温泉は婦人の湯と呼ばれ、貧血などの症状によく効くと言われている。

 昔、おじさんと出かけた時温泉巡りしてたんで、これでも温泉知識は結構あるんだぜ。


 ゆったりと、肩まで浸かるには熱めの湯だが、一気に入ってすぐあがる。というこれも、温泉マニアが見たら「もっと湯を味わっていけよ!!」と切れそうになるが、俺は自由奔放なスギボウだからな、どうでもいい事である。


「さて、温まったし上がるか――ッ!?!?」


 露天風呂の岩場に手を掛け、立ち上がろうとしたときだった。

 湯気でまったく気が付かなかったが、すぐ隣に先客の人間が入っていたのだ。驚き、姿勢を崩し大きな音を出して湯船に落ちて……沈む。

 顔まで沈み、呼吸が苦しくなっても顔をあげる事ができなかった。それはなぜか、湯気で分からなかったとは言え、俺には一瞬で目で捉えてしまう箇所がある。


(お、女の子だ……おっ、おっぱいが見えた!!)


「…………」


 男の俺が側にいるにも関わらず、逃げることも悲鳴を上げることもせずただ、その場で動かない女性。

 混浴だったのか、間違えて女湯に入ってしまったのかなど今更判断出来ないが、湯の中で目を開ければ確かに人がいるのは事実。


(イテッ……! 鉄分が目に染みたっ! いやそんな場合でないっ)


 息 が 続 か な い。


 いよいよ我慢できなくなり、顔を湯船からだす、髪の毛が河童みたいに張り付いた。


「よ……妖怪スギボウだぞ~……!」

「…………」


 一か八かの一発芸も滑ってしまった。

 妖怪スギボウを見て、爆笑したり悲鳴を上げたり反応してくれればいくらか気が楽になるだろう。

 だが、終始無言。

 染みた目を擦り、観察すれば、デジコと同じくらいの見た目の少女だとわかる。年齢の判断はロリ婆がいるこの世界では分からないが、この子も、おっぱいが小さい子だった。デジコよりは若干膨らんでいるが。

 そうだな、Bってところだろう。などおっぱいカウンターをつい働かせてしまう。


 まったく声を出そうとはしないが、一応男が来たと意識はしているようで、顔を赤らめ、無防備に晒していた胸を隠される。残念。

 湯気が晴れ、全体像が見えてきた時、俺ははふと、その少女の見た目にハッとし声をかけてしまう。


「あれ? ちゅき……だよな?」

「――――!! …………なんで、知ってる、の?」

「おおっ!! やっぱりか!! ちゅきもこの世界に来てたのかよ!! すげぇ!!」

「…………??」


 ちゅき……と呼ぶ少女は、湯気に完全に同化するくらい透き通る白い肌で、煌めく白銀のロングヘアーにルビーのような紅い瞳の少女。

 そのインパクトのある見た目は今も鮮明に覚えている俺の幼馴染……小学生の頃までだけど。え、お前女友達も、彼女もいなかったとか前に言っただろ、裏切んなだって? 物心付く前の話だ、許せ。

 しかし、彼女の反応から向こうは全く俺の事は知らない様子……、俺ってそんなに印象薄かったのか……。

 だがあだ名である“ちゅき”には反応を示すのだった。


「いや、あれ? もしかして……別人? あだ名も見た目もおんなじなのに? すげぇ偶然だな」

「……だれですか……いきなり……」

「俺、スギボウ。杉木泰弘。小学校まで同じクラスだったスギボウだよ」

「…………しらない、です」

「ガガーン……」


 幼馴染にそっくりな少女に完全否定されてしまい、過去最大のショックを受ける。

 その後、自己紹介が続き彼女の名前を引き出すことが出来た。

 彼女の名前は、御徒原(おかちはら)千雪(ちゆき)この世界のあだ名はちゅき。

 俺が知っているちゅきのフルネームは小笠原千雪なので、やっぱり別人だった訳だが、名前までそっくりなのは、奇跡だよな。

 年齢は現在12歳でシャトレーヌ学園の中等部との事

 同級生ではなかったが、懐かしの“ちゅき”の中学生バージョンを見ているみたいで可愛い。

 そして、とても無口で大人しい。

 温泉が好きで、今日は一人で温泉の旅に来ていたようだ。

 ここ迄の情報を全部聞き終わるまでに、めっっっちゃ時間がかかり何度かのぼせかけた。

 懐かしの再会という訳にはいかなかったが、見慣れた顔の少女と出逢い感傷に浸っていると。

 奥から不穏の影が覗く。

 最初に気がついたのはちゅきの方だった。


「…………だれかいる」


「ん?」


 俺は全く気配に気がつかないでいたが、耳を澄ますと確かに声が聞こえる、男の声で話しながら近づいてくる。


「……いやぁ、すげぇお宝ゲットだぜ!!」

「こんな高級武器置きっぱなしにしてる間抜けがいるとか儲けたな、こっちから出れば人は来ない、そのままずらかろうぜ~!」


 その間抜けが声をあげる。


「あーっ!! 俺の銃!! ドロボー!!」

「げっ!! 男湯にいねぇと思ったらこっちに入ってやがったか!! 女湯に入り込んでるとか羨ましい変態野郎め!!」


 あ、やっぱり混浴でなく、初めから女湯に迷い込んでいたのね、ちゅきもはやく言ってくれれば出ていったのに、泥棒から変態呼ばわりされるのであった。


「うっ、うるせぇ!! 盗人野郎に変態と言われる筋合いは無いぞ!! 銃返しやがれ!!」

「へっ……返してと言われて返す奴いるかよ~、なぁんて……ほらよっ、大事な銃ならどうぞってな! ライトニングダッシュ!!」

「な、届けてくれ――たぁぅッッ!!??」


 男がそう叫ぶと、一瞬捉えた紫電の雷光と同時に強い電気ショック。

 泥棒は電に身を纏い瞬間移動して俺がいた温泉の反対側に着地する。


(これが……jobスキルか!?)


 ライトニングダッシュ……それは、剣士のjobスキルで、詠唱後目的の場所に移動する系統の移動スキルだが、その移動の際に雷属性で身を包み攻撃と同時に使える利点がある。

 移動範囲は10メートル程、移動スキルの為、攻撃力は少ないが、今の俺は含鉄成分を含む温泉に入浴中で濡れていたためクリティカルで感電し身体中が痺れて動けなくなってしまう。


「おいおい。俺は剣士じゃないんだから置いてくなよ~。誰もいないみたいだし、俺は普通に回っていく……が……な……」

「な……シュウ!! どうした!! その倒れ方……まさか」


 シュウと呼ばれた男は、静かに気を失い倒れてしまった。

 剣士の泥棒は、その倒れ方を誰よりもよく見てきたはずた、そう、俺と同じ雷撃(ライトニングダッシュ)による麻痺だ。

 湯気が立ち込める温泉で、たとえ湯船に浸かっていなくとも体は濡れている。

 さらに誰ももう居ないと思い込み、完全に油断していた事が災いしたのだろう。


「…………ふぅ。あぶなかった……」

「女……お前も剣士……!?」


 男がスキルを使った瞬間、ちゅきもまた同名のスキルを発動していた。

 その為雷撃による麻痺は免れ、回避に成功する。元々存在感が薄く湯気に紛れた純白の姿は今、この状況で最高のステルス性能を発揮したようだ。


「…………その銃、返してあげて下さい」

「くっ……誰が返すかよっ!! ハハハッ! 良いぜ、せっかくだお前でこいつの威力確かめてやる!!」

「ば……ばか、やめろっ!!」


 薄れ行く意識の中、男が銃を構え、発砲する。

 その銃は、デジコがまだ魔法もスキルも使えない俺ですら身を守れると託した程の銃である。

 熟練者が使うことで威力が跳ね上がりとてつもない殺傷力を生むということなど簡単に想像出来る。


「な……にっ!?」


 想像できた――筈だった。

 とてつもない威力になる……ということを、だがその想像を遥かに超えた閃光が銃口から放たれたのだ。

 それは、悪魔の咆哮――。

 生きとして生きるものを飲み込み消滅させる常世への誘いが、ちゅきと俺を飲み込もうとしていた。

 刹那、真紅の影が俺を覆った。

 色鮮やかな紅い和傘の裏生地だと気がつくのは、もう少し後になる。



「………だいじょうぶ?」

「…………ああ……ど、泥棒は? な゛……にっ!?」


 其処には……、生命力を絞られすっかり骨と皮に成り果てた男が、銃を持ったまま崩れ落ちていた……。


(おい……デジコ……おい……)


 自分が其れを使っていたと思うとゾッと背筋が凍る……という話で済まされない。

 静かな怒りが込み上げてくる。

 同時に、騒ぎを聞きつけた旅館のスタッフ達が集まってきた。


「どうされましたか!? た、大変だ人が倒れている……だれか聖職者ヒーラー呼んできて!! 気つけ薬も!!」

「助かった……のか……ちゅきの……傘で?」

「…………そう」


 宵闇の中、優しい月光に煌めく白銀の髪と、対象的なコントラストを彩る艶やかで真紅の中に稲穂柄の白い抜き模様の和傘は、彼女に人外の美しさをもたらしていた。

 その傘が、彼女の武器であり、あの恐ろしい閃光から二人の命を守った究極の盾。

 それが夢の中の幻だったような錯覚を感じて、目が冷めた時、俺は布団の中で寝ていたのだった……。


「お……あれ? どこだここ」

「あ、生きてた」


 気がついた途端、デジコの生きていたという声が聞こえてきた、どうやら生きているらしい。

あの後、半分のぼせていた所で激しく動き回り電撃まで受けていた俺は静かに気を失い部屋に運ばれていたのだった。


「……っておいデージーコー……お前、俺に言うことあるよなぁ……」

「デージーコーじゃないわよ!! なくすなってアレだけ言ってたのに盗まれて温泉はボロボロ!! 弁償モノよ!!」

「は? ……え゛?」


 部屋の窓をあけて、露天風呂がある離れを覗くと、そこは一面爆弾が横薙ぎで放たれたみたいに消し飛んでいた。

 改めて、銃の威力に衝撃を受ける。と同時にこの攻撃をあっさり受け止めるあの傘は何だったのかと思い、ある意味寒気がする。


「あ、あれは本物だったのか……へぶっしゅ!!」


 風邪もひいたかもしれない。


「汚いわねぇ……こっちまで飛んだわよ。幸い銃はとりかえせたけど~、もうぜぇったいに貸さないからね! あと、悪いけどあんたに渡すつもりだった残りのお金使うから!! まったくもぉ~」

「まったくもぉじゃねぇよ!! デジコてめぇ!! なんちゅー武器渡してきたんだよ、あんなん使ったら死ぬぞ!! ふざけんなよ!!」

「そうみたいねぇ、使ったことなかったから、どれくらい凄いのか知らなかったの、そこはごめんね」

「くぅ~~~~~~っ!」


 いがみ合う二人だが、後日旅館からの賠償金は1千万を超え、俺は持ち金を失い、デジコもまた連帯責任で有り金を失うのだった。



スギボウの大冒険武器メモ


【デモンリベリオン】

希少な古代アーティファクトの一つで、リベリオンシリーズ3部作の一つ。

悪魔の名を持つこの銃は、持ち主の生命エネルギーを火力に変換し発動する、持ち主にはいずれ不幸が起こる…。


系列:ハンドガン

攻撃:80

重量:616g


完結積みで話が分割できなかったので、修正版と同期するために話が長くなりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ