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スギボウの大冒険  作者: うああじた
1章 目指せウエストロッド
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11話 job職業について

「途中で転職できないのかぁ、てかそんな一生を決める大事な決断を6歳の子供に任せて良いのかよ」

「……6歳っていうのには理由があるんだけどね」

「ほぉ」


 食べ終わった串を講師の指示棒のように振ってデジコがjob職について説明を始める。

 思わず、体をしっかり向けて真面目に聞く姿勢をつくってしまう。


「job職業に就くと、レベルっていうのが上がるんだけど、そこにjob職に準じた補正が加わるの。魔術師なら魔法の威力があがったり、魔法を扱うためのSPって言う数値が増えたりね」

「わかるぜ、剣士のjobだとあれだろ、体力が多めになるとかだろ?」


 元の世界でよくプレイしてきたゲームでよくある設定なので、そのあたりのイメージの保管はバッチリだった。

 大体のゲームでは、接近戦が得意な剣士などには攻撃力や防御力などに関係するステータスの補正がある。

 魔術師の説明を聞く限り、その辺は共通の認識でいけそうだ。


「そ! その補正の伸び代が、年齢が若い頃のほうが伸びることがわかったの。後からどんなに同じレベルをあげても小さい頃job職に就いた人間と、成人してからjob職に就いた人間では追いつけないってくらいの差がね。だから最初の頃job職は生まれたすぐに親が決めるのが当たり前だった」

「それって……本人の意思に関係なくjob職につかせるってことか? それじゃ子供が大きくなって、なりたくない職に就かされてたらグレないか?」

「当然のように反発はあったわ、200年くらい前の話しだけど、子供の人権団体とかいうのが現れて“本人の未来を親が潰している”と訴えて、子供の自我が発達する頃と能力成長のバランスを討論し6歳になったら本人が決めるという事で結論された、その子が自分の生涯を納得して決めれるよう厳しい試験を設けた」


 厳しい試験……異世界に来れたことで忘れていたが、現実だと丁度期末試験の時期だ。


(この世界でも試験勉強の苦悩に苛まれる事になりそうだな……いや、まてよ?)


 だが、慌てるのは早いんじゃないか? このjob試験は6歳の児童が受ける試験だ。アルヴィアールが簡単な試験とも言っていた、あわよくば、『イラストを見て同じお仕事をしている動物さんは誰かなぁ?』みたいな可愛いテストかもしれないじゃないか!


「試験は就職jobの全スキルの特性の暗記が必須で、自職と他職種の特徴に関する問題が筆記試験でランダムに120問出題され、得点が71点以上が合格ライン。実技試験では他職種とパーティーを組んで指定ダンジョンの攻略」

「…………」


 あまりのハードな内容に完全に言葉を失う……。


(それ、俺が絶対ムリなやつだ……)


 自身の高校入試でさえ、命がけだったのに、それを6才の児童が受けるレベルの試験内容なのかと戦慄する。

 暗記問題とか……、母親に、「今日は何食べたい?」って聞かれて、「ご飯!」って答えたら「それは昨日食べたでしょ!」って言われる位の記憶力の俺にとって、鬼門中の鬼門。

 青褪めた表情で固まってしまった俺を見て慌てて小さなフォローを入れるデジコ。


「……魔術師や、聖職者はスキルの数が多いから大変だけど、他のは少ないから、スギボウでも受かると思うわよ?」


 あまりフォローになっていなかった。

 だが、アルヴィアールが“簡単”と言っていた理由がわかった、彼は商人のjobだったからだろう。

 job職によってその難易度には相当な差があるようだ。


「ううあぁ……やっぱ、試験落ちる子もいるんだろ……?」

「まぁね、けど子供って大人が思う以上に記憶力があって学ぶことに対して真摯だから、生半可な気持ちじゃ合格出来ないようにわざとハードル上げているんだし、でも受けたjob試験は大体皆合格するわよ」

「デジコが生まれたときは――」


 言いかけると、被せるように答えられる。


「私が生まれたときは、まだ親が決めていた時代だった。けど後悔はしてないわよ。生まれてすぐのjob補正6年の蓄積は確かに大きいしね」

「そうか……デジコ以外に魔術師はまだ見てないけど、すげえ強いもんな、デジコって」

「な……いきなり何を言ってるのよ……っ」


 突然真面目な顔で持ち上げたためか、顔が紅潮して手をパタパタさせあわてふためく。

 実際に、この世界に降り立ってからそれほど多くの人物と巡り合ったわけではないが、彼女がもつ魅力は誰よりも輝いて見えた。それが今の俺の素直な気持ち。


(300歳……とか言っていたもんな、全くそうは見えないけど……この世界の平均寿命ってどうなってるんだろうな)


「この世界の平均寿命って何歳くらいなんだ? 1000歳くらいあったりしちゃう? なわけないか」


 この質問はただ純粋な疑問を口にしただけだった。

 自分の気持ちに非常に正直で、思ったことをそのまま言う。

 それが、俺の長所であると同時に短所でもあると誰かが言っていた。

 現実を突きつけるようにデジコが言った。


「50よ」



「え……低くね? この屋台のおっさんでも長寿かよ」

「こら坊主、俺はこんななりでもまだ34だぞ!! まぁ……今の時代なら……そうなるか」

「す、すまん……てか、なんでだよ。原因はわかってるのか?」

「…………」


 デジコが、口を閉ざしていると、おっちゃんが代わりに応えてくれた。

 気がつくと客は俺とデジコの二人だけで、店の周りも歩いている人はめっきり減っていた。

 それでも、周囲を気にして慎重な面持ちで手を添えて耳打ち気味に言う。


「……カルマ病だよ」

「カルマ病?」


 それは、元いた世界では聞いたことのない、初耳となる病名であった。

 全くどんな病気なのか想像がつかない、しかし、その病気がこの世界を蝕むことで今、こうしている間も着実に誰かが命を落としていっている……という。

 デジコがぽつりぽつりと呟き始める。


「……人が……人として生まれ変わるとき、現世の悪行を償うために輪廻転生を行う……、前世の罪深き人間の魂が残留思念となり現世に引き継がれる……」

「――――――!?」

「そうして来世の奉仕として現世を全うすることとなる……ってお偉いさんは説明するんだぜ? なっとくいかねぇ死因第一位だぜぇカルマ病ってやつあよぉ!」


 おっちゃんが補完するように説明を締めてくれて、カルマ病と言うものが朧気にわかった。

 同時に、デジコが戸惑っていた意味が解る、俺のことを慮ってのことだ。

 俺の存在は、未確定ではあるが転生体の状況に近いものがあると察し、この世界ではそれが忌み嫌われる存在であると言うことを、彼女は暗に伝えてきたのだ。


(俺が、この世界の住人でないことは隠したほうがいいってことか、気をつけるぜ……サンキューな)


「昔は、長生きできるようになるってマニアさん達が頑張ってくれてたのに、短命派が力をつけ始めた途端だよ……カルマ病が流行り出したのはぁ!」


 おっちゃんが、ぼやくように言った。


「あまり大きな声で言わないほうが良いわよ」


 デジコが釘を刺すが、おっちゃんは余程フラストレーションが溜まっていたのか勢いが止まらない。

 込み入った話は普段しない頑固おやじみたいな風貌に最初はもっと年配に見えていたが、こう世間話しをしてみれば声はまだ若い兄さんだと気付きはじめる。

 マニアと呼ばれる奴らがなにか革命をもたらしたみたいだが、よくわからん連中が妨げていて病気も流行し始めたのも丁度その時期だったらしく、おっちゃんは短命派が病気をもたらしていると考えている様子だ。


「マニアと短命派って奴らの中で何があったんだ?」

「あるクラゲマニアと、温泉マニアの功績によって、“不老不死の効能がある湯でそのクラゲを培養した湯を人間が浸かると老化に関係する蛋白質に変化が起きて若返りが発生する”と発表した……」

「お、知ってるぞ! おれの実家の近くの温泉でもあったぞ、不老不死の湯とか言ってる温泉!! あれマジだったのかよ!!」

「坊主の実家ってノースベルの辺りか? あっちは冬寒いけど温泉はいいよなぁ。女の子も色白で可愛い子が多いし」

「え? そうっすね。おっぱいも大きい子多いっすよ!!」

「そうそう、北国って巨乳多いよなぁ!! ノースベル出身の彼女が欲しいなぁ」

「…………バカ」


 先程正体は隠せと念入りに釘を刺されたのに、軽はずみな発言から、俺の実家がノースベルという北国地方になってしまい、頭を抱えるデジコ。

 実際俺の実家北海道だし、ノースベルもそんな感じらしい。

 巨乳好き同士が話に花を咲かせ初めている間、自らの胸を気にしながら『巨乳好きの男ってなんで馬鹿ばかりなんだろ』というつぶやきに気がつかないまま、何事もなかったように会話を元に戻す。


「で短命派やらとなにがあったんだよ、ってなんか機嫌悪くなってね?」

「…………説明してほしいわけ?」

「おう、デジコ先生!! お願いしやっす!!」

「先生お願いしやす!!」


 体育会系の後輩が先輩にご教授お願いします!! みたいなノリで姿勢をキリッと直した。

 先生と呼ばれることは以外にも嫌いでない様子で、ちょっとだけ表情が和らぎ再びデジコ先生の説明が始まった。


「なんで屋台のおじさんまで……まぁ、マニアのお陰で人間の寿命は伸びたわけよ。それこそ、健康肉体年齢を維持し500歳までは生きられるようになるだろうって程にね……。けど“神に与えられた寿命を改変することは神への冒涜だッッ!!”って騒ぐ連中が現れたの、そいつら最初は普通の寿命で納得して、病院とかで延命治療をするのを禁止する程度の宗教団体だったんだけど、マニアが急激に寿命を延ばす方法を発表した途端に我が物顔で湧き出して、天誅とかいってデモまで起こしたりして」

「カルト宗教って奴らか!! まじでそういう奴らうぜぇよな、他人巻き込まないで自分たちだけでやってろよな」

「そうだそうだ」と合いの手をいれるおっちゃん。


「その宗教団体から、さらに枝分かれして“人間の魂は生まれ変わることで磨かれていく、その輪廻のサイクルを引き伸ばす行為を続けるならば我々は容赦しない、マニアが作ったjobスキルに頼らなくとも、我々には概念能力がある”と声明発表し、短命支持派、概念能力研究会マッドドックスが結成された」

「がいねんのうりょく……?」

「人間は、生まれながらにしてその役割が決められていて、彼らが言うには魂の本質を見極め、覚醒することで、人間には元々固有能力がある。というのよ」

「本能覚醒!!ってちょっと前に聞いたぞ朝のテレビドラマでだけど」

「いちいち変なツッコミ入れるなら話し止めるわよ」

「ごめんなさい、もう黙って聞きやす!!」


 再び聞く姿勢に正す、デジコも扱いがだんだんと慣れてきた様子で、指示棒代わりに振っている食べ終えた串焼きの棒はすっかり乾いていた、集中力のない俺でも要所をわかりやすくピシピシそれ振って説明する姿は一流の講師に見える。


「マニア側は、人間の一生は個人にあり、長い生涯をのんびり全うする主義、マッドドックスは魂は消耗品であり、より強い概念能力を生むために人間が神になる事を考えている、だから死ぬことは彼らにとっては来世の奉仕そのもので罪の意識も死への恐怖も無い、厄介なのはそれが世界の共通認識であると思いこんでいる所」

「人を殺しても自分は良いことをしているとか言っちゃう感じか? 怖すぎだろマッドドックス……」

「だから、気をつけなさいよ。亡魔獣より彼らから身を守る事のほうが大変よ」

「おう」


 ここまで話を聞いていた串焼き屋のおっちゃんが涙を流し泣きはじめる。何事かと驚愕する二人。どうやらその涙は悲しみでなく感涙によるもののようだ。


「その声、やっぱり先生なんですね! こんな場所で……先生の講義をまた聞けるようになるなんて……生きててよかったよぉ、せんせぇ、おいら魔術師job試験番号7031番のグレンです!! 試験ではお世話になりやした!!」

「ええ……ちょっと、あの時の子だったの? 老けたわね」

「覚えていてくれたんですか!? うわぁ、感動するなぁ!! 先生は変わらない様で羨ましいですっ!!」

「先生?」

「昔……講師をしていたこともあったのよ……魔術師の……」

「そうだったのか!! その棒、様になってるもんな!!」

「うっ、こ、これは……無意識に……」


 ここまでの説明を聞いて教壇でいつも指示棒を振って講義をしていただろう若い頃のデジコの姿が想像できる。

 完全に職業病が発動していたというわけだ。

 屋台の中は、小さな同窓会の様な雰囲気に変わり、神妙な内容の話の後だと言うのに一気に和やかムードだ。


「先生はいま何をされているんですか? お供はどなたです? 先生の若いツバメっすか?」

「今は、根無し草のアルケミストよ、今日も適当に素材集めしていたら、この子がくっついてきただけ、それ以外にはなんっっっ……の関係も無いんだから変な詮索しないで!」


 アルケミスト……か、ゲームの知識から推測すると、錬金術師や薬剤師が彼女の現在の職業なのか。

 ヌメロドロの結晶も仕事で使う材料だったというわけだな。

 久々の再会で幸せそうに会話する師弟の姿を見ながら、偶然拾った石から、巡り合う奇跡にこの世界に来て今は本当に良かったと思うのでだった。

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