10話 屋台の串焼きは美味い
――ビィーー!! ビィー!! ビィー!!
目的のものを手に入れた途端、安心して腹の虫が豪快になり始める。
「スマホもゲットできたし、先に飯にしねぇか? この世界の街の料理ってやつがめっちゃ食いたいんだが?」
――ビィーー!! ビィー!! ビィー!!
「なにが、食いたいのだが? よ、私に奢らせる気じゃないでしょうね」
――ビィーー!! ビィー!! ビィー!!
「いや、今はしゃーないだろ、ちゃんと後で返すから!! いいだろ? めっっ……ちゃ腹減ってるんだが?」
――ビィーー!! ビィー!! ビィー!!
「なに!? わかったからその恥ずかしい腹の虫とめて!! あんたお腹どうなってるのよ!!」
「俺の腹時計はタイマーの役割も果たすのだ」
――ビィーー!! ビィー!! ビィー!!――ビィーー!! ビィー!! ビィー!!
「うるさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっっ!!!!」
大通りの人混みの中、行き交う人々が迷惑そうにまたは、嘲笑いながら通り過ぎていく。
極悪な腹の虫に脅され、半ば強引に夕飯を奢らされるデジコであった。
「はぁ……とりあえずアレでいい?」
大きな溜息と共におもむろに周りを見渡して、指さすは一軒の屋台。
俺の腹の虫を聞いて、無尽蔵に暴食を繰り返すのではなかろうかと思考の末に導いた結果だろう、香ばしい焼けた肉の香りが漂う串焼き屋を選ぶ、そこなら一本ずつ食べることになるので、飯屋に入って暴飲暴食の限りを尽くされる心配は無いだろうと踏んでの結論だろうが、果たしてそううまく行くかな? ククク……。
「おおっ、いいなっ! 炭火焼きの香ばしい煙っ!! 早く行こうぜ!!」
そう言ってデジコの手を取り勇んで屋台へと向かう。
「ちょっと、屋台は逃げないんだから落ち着きなさいよ……」
急に手を取られ急かされながら後についていけば。デジコは到着次第店主に指を2本立てて注文すれば、既に丁度いい焼き加減になっているのか、準備が進められあっという間に串焼き2本が出来上がる、店主に「ほらよ」と手渡しされる。
「おじさん手際いいね! うおお、こっちの世界の串焼きも美味ぇ!! おじさんもう5本追加で!! あ、飲み物にコーラとかあったらサイコーなんだけど」
「ちょ……もっと味わって食べなさいよ!! あんたなんか水で十分よ!! あら……確かに悪くない味ね」
ボリューム満点の肉厚な串焼きを根元から齧り付きあっという間に1本平らげて遠慮なく追加オーダーをする、目論見が外れるデジコだったが、普段屋台で食べる機会などなかったらしく、成り行きで入った店の当初のイメージは"質より量の店”だったが、芳醇な香り漂う肉は安物とは思えず、小さな口をあけて歯を立てて食べてみれば意外な旨さに感動した様子だ。
「そういえばさ、はふはふ。job職業のことなんだけどさ、はふはふっ」
「食べるか喋るかどっちかにしなさいよ! job職業がなに?」
「スマホも手に入れた事だしさ、俺もなってみたいんだよね、魔術師に」
「ふぇっ!?」
俺がjob職業に就くということまではある程度想定出来ていたが、自分と同じ「魔術師になる」という部分で驚き、変な声が出て、肉の反対側を落としかけるデジコだった。そしてそのままそう思い立った理由を尋ねてくる。
俺は食欲は止まらず、食べ続ける。
「どうしていきなり魔術師に……?」
「いや、魔法かっこいいじゃん、おっちゃん追加5本!!」
「それだけ?」
「おう! おっちゃん、この肉なんて肉なん?」
「……一度job職業に就いたらもう変えられないの知ってる?」
「まじでぇ!? 転職できないの?」
「…………」
呆れた様子で物も言えず黙り込むデジコ、その間に屋台の親父が肉の正体を話す。
「坊主、こいつぁ、カブリコ豚の肉だぜ!」
「あいつの肉かよ!!」
――カブリコ豚
ウエストロッドに生息する黒豚で、頭に何かを被る特徴がある。
最初にパンツを被せた経緯は不明だが、お気に入りのパンツを被った豚の肉は良質に育つとされ、放牧の際必ずパンツを被せることが基本的な育成法とされる。
放牧は奔放で、そのまま逃げ出し野生化してしまうものもいる。
肉質は上質の脂肪と赤身が特徴で、霜降り牛のようなサシが入っている。
脂身は甘く、融点が低いため口に入れた瞬間に溶け出す、串焼きで提供する際にはそれなりの技術が必要となる。
ウエストロッドの屋台にめっちゃ美味いカブリコ豚の串焼きが食べられる穴場がありオススメだ。
スギボウの『この世界で食べた美味いモノ記・第一巻』より。
修正版と同期しました。