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夜空の星に恋した花火  作者: 及川
6/13

ホテル探し


心斎橋につくと二人でアメ村に向かった。

「雑貨、かわいい〜!あ、パンケーキ食べたい!ここ、有名なアクセサリーショップだよねえ?!」

さっきまで泣いてた塩見が元気だ…誰か止めてくれ。

俺ははしゃぐ塩見の後を歩きながら街の様子を観察していた。

あ…面白い本屋発見…。

ふらりと吸い寄せられるように入ると塩見がついて来た。

「本好きなんだ?」

「あぁ、本か映画だな。」

「ふーん…。」

「個人プレー派だよね。」

「そうかも。一人で没頭出来る物がいいな」

「けど、私にも合わせてくれる。ハルトくんは優しいな。」

言って綺麗な髪を揺らして、塩見がふんわりと俺を見上げる。

「合わせてるんじゃない。この無理矢理な状況を作り出したのは誰だ?!」

俺が睨むと塩見は表情を消して謝った。

「はい、スミマセンっ。」

「で、次はどこに行きたいんだ?」

「はい!美味しいものを食べたいデス!」

「…道頓堀まで歩くか…。」

「ハイ!ついて行きます!」

真面目ぶった言い方に思わず笑った。


道頓堀は更にすごい人混みだった。

はぐれないように成り行きで繋いでいた手は汗だくだった。

時刻は5時過ぎだったが、飲食店はすでに混み合っている。

アイスクリームやパンケーキを食べ歩き、お好み焼きまでシェアして食べたものだからあまりお腹は空いていなかった。

「大阪グルメ美味しすぎ!串カツ食べたい!…と言いたい所だけどチョット休憩…。」

流石に疲れたらしい塩見が橋のたもとに座り込んだ。

ずっと歩き詰めだ、当然か。

「待ってろ、水買って来てやるよ。」

「ありがとう…。」

自販機を探しに歩きながらふと考えた。

まてよ、今夜はどこに泊まるんだ?

平日とは言え、泊先を考えておかないとヤバイんじゃないか?

それに、中学生二人でどこに…。

夕日に変わった太陽を目にして、心がざわつくのが分かった。

第一、塩見は親に何ていうつもりなんだろう。

自販機で水を買い戻ると塩見が男と話しているのが見えた。

近づくと、塩見が嬉しそうに手を振った。

「ハルトくん、お帰り。淀屋橋から水上バスが出てるんだって!この近くみたいだよ?電車で行ってみる?この人が教えてくれたの。」

見るとチャラそうな男が、腰から伸ばしたチェーンをジャラジャラいわせながら罰が悪そうにこちらを見ている。

そうか…ここは…。

俺はあえて余裕の表情を作って早口にならないように注意しながら彼に向かって言った。

「ご親切にありがとう。行こうか塩見。」

「うん、ありがとうございました!」

「いえ…。」

男はそそくさとその場を立ち去り、俺は塩見の肩を抱き寄せて低い声でつぶやいた。

「おまえな…あいつナンパだぞ?」

「え?!じゃあ、あそこが有名な引っ掛け橋とか?!」

「だろうな…。」

塩見に水を渡して歩き出す。

「す、すごい〜!私生まれて始めてナンパされたよ。私、イケるじゃん!しかもさ、一人になってすぐ来たよ?すぐ!きゃ〜。」

水を飲みながら一人盛り上がる塩見に少しイラッとした。

「あんまりはしゃぐなよ。何かあったらどうするんだ。」

「やだ、ハルトくんお父さんみたい〜!」

若干キレた。

「勝手にノコノコついて来て、何かトラブル起こされたら堪らないんだよ。何ならここで別行動でもするか?」

「そっ…そんなに怒らなくて良いじゃん…。ゴメン…。ごめんよぉ〜!」

冷たく言い放った俺に慌ててついてきて謝る塩見が犬みたいで少し可愛かった。

全く…俺もイライラしすぎ…。

「別に、怒ってない…。」

飛びついてきた塩見が少し強引に手を繋いで来る。

塩見の手が柔らかくて気持ちいい。

「ハルトくん、大阪城見に行こう?」

「せっかくここまで来たんだし、行ってもいいな。串カツは?」

「まだお腹いっぱい。」

「じゃあ行ってみるか?」

「うん!」

もう、ただ単純に…楽しい。

周りから見れば普通のカップルに見えるに違いない。

「もう6時前か…。親には何て説明するんだ。」

「さっき電話したよ?お姉ちゃんちに泊まるって言っといた。お姉ちゃんも話合わせてくれるって。」

「へえ、さすが手際いいな。」

「あー!今遊び慣れてるって思ったんじゃない?」

ははは、なんでわかったんだ…。

「ねえ、真面目に聞いてほしいんだけど、私さ…。」

「うん?」

手を繋いでいるので、塩見が立ち止まれば俺も立ち止まるしかない。

言いよどむ塩見を見つめ返した。

「いい、何でもない…。電車に乗ろっか。」

言って俺を引っ張るように歩きだした。

やっぱり、何考えてるかわからねー…。


大阪城に着いたが、残念ながら入館時間は過ぎていた。

美しい城を眺め、近くのラーメン店に入った。

全て二人分の金額がかかってゆくので豪華な晩御飯とはいかなかったが、大満足だった。

コクがあってうまい。

大阪の食べ物にハズレがない事に感心したし、くいだおれ等と謳うのも一理ある。

ラーメン店を出て満腹のお腹をさすりながら何処に泊まるか話をした。

帰りの電車賃と明日の食費や宿泊を考慮すると当初考えていたようなホテルには泊まれそうにない。

色とりどりのネオンが華やかに客を呼び込む。

「朝までどこで過ごすかよね〜。…カラオケとかはどう?!」

「疲れ取れ無さそうだな…。あんなところで寝られるのか?」

「難しいかな〜。あ!ここは?」

塩見が指差した先にはネットカフェがあった。

「へえ…。俺入ったことないけど、寺澤が良いって言ってたな。」

「ナイトパック?って何だろ。6時間パック、8時間パック、12時間パック…。え、2000円しないみたい。朝まで過ごせるんじゃない?割に安くない?」

「入ってみるか?あれ、夜間未成年の入店禁止だって…。残念、俺たち駄目じゃん。」

「え?そうなの?いい考えだと思ったのに…困ったなあ…。」

試行錯誤を繰り返しながら夜の街を練り歩くのも妙にワクワクしてしまう。

父親も厳しいし、こんな風に過ごすのは初めての体験だった。

汗もかいたし絶対に風呂には入りたい…。

考えたら着の身着のままで出てきた塩見のほうが深刻だと気が付き、歩きながら服を色々買い揃える羽目になった。

「帰ったら利子つけて取り立ててやるからな。」

「え!プレゼントじゃないの?」

「どんだけ貢がせるんだよ。」

「うそうそ、帰ったら交通費も全部返すよ〜。」

塩見は嬉しそうに服の入った袋を抱きしめて笑った。


途中コンビニに立ち寄ってコーヒーを買った頃は、時刻はすでに21時を回っていた。

「そうだ!ユースホステルって知ってる?」

宛もなく歩いていると塩見が聞いてきた。

「知らないなあ。」

「この間ニュースで特集してたんだけど、お風呂やキッチンは宿泊者で共有するから、すごく安価に泊めてくれる宿泊所なんだって。安いから外国人の利用も多いみたい。近くにあったりしないかな〜。」

「意外と物知りだな。調べてみるか…。」

すぐにネットで調べると最寄りに2軒見つかった。

即座に電話をかけてみたが、当日の指定ではすでに空きはなかった。

スタッフの話だと今日は学生の利用が多いという。 

夏休みだし、難しいな…。

二人とも流石に疲れて無口になってきた。

夜歩きが楽しいなどと達観する気持ちも失せ始めたころ、塩見が俺の袖を引っ張りおずおず聞いてきた。

「ここに…する?」

顔を上げると派手なピンクと紫のネオンが輝くラブホテルが目の前にあった。

「え…、ここ?」

入ったことないなあ、なんて呑気に言ってる場合ではない。

心臓が早鐘のように打った。

今まで頭の片隅には置きつつも見てみないふりをしてきた選択肢である。

『とりあえず寝てみれば相性も判る』と言った寺澤の言葉が頭をよぎる。

二人共無言のまま立ち尽くす中、一組のカップルが目の前を横切り、俺と塩見を値踏みするようにチラリと見た。

う…気まずい…。

喧騒の音が消え、じわりと汗が滲む。

確かに疲れているし、涼しくクーラーのきいた部屋と、シャワーとベッドは喉から手が出るほど魅力的だ。

単純にそれだけだったら二つ返事で同意するのだが、今の俺には自信がなかった。

結局、今更だが、俺も健全な中学生男子だと言うわけで…。

今日があまりに楽しくて奥村先生にあんなことをした事実を、気がついたら忘れていた。

塩見が女の子だって事を急に意識してしまい、空気がピリピリしたような気がした。

何が起こってもいいから、ここに入ってしまおうか?

素直に涙を見せたり、すがるような目で甘えてくる塩見に愛おしさに似た淡い感情をおぼえていた。

「た…楽しそうじゃん。ハルトくん、私、ココでもいいよ?」

いや、やっぱりこいつは…俺はため息をついた。

「また…。おまえな、軽い気持ちでそんなこと言ったら…。」

「軽い気持ちじゃないよ!」

目には真剣な光を宿している。

「ハルトくん、さっき言えなかったけど、実は私…私ね…処女なんだよ。」

…は?

俺の周りの空気が凍りついた。

また…何を言い出した?

「勝手に遊んでるみたいなイメージでいるかも知れないけど、男の子とはキスしたことはあるけど、こんな風に夜出歩いたこともないよ。」

だって、男と逢い引きしたり、映画館で簡単に俺に迫ってみたり…俺はてっきり…。

赤裸々な告白にこちらの方が恥ずかしくなった。

赤面するのを見られたくなくて、口元を覆って視線をそらす。

「いつもそう、キスはしてもその先が続かない。怖くて気持ちが追いつかないの。噂が先行して『他の奴とは簡単にしたのに何で俺とは出来無いんだ』なんて言われた時もあったの。」

思わず眉をひそめた。

「私って突発的なところがあるから、この人が良いと思うと突き進んじゃう。キスもしたくなったり。けど…、ゴメン無責任なんだろうね、私。けど、そんなだから自業自得だよね…。」

何と返すべきか迷っていると、意を決したように塩見が顔を上げる。

「けど、ハルト君なら、私、ココに入ってもいい。」

「おい、勝手に決めるな。」

俺の気持ちは完全無視かよ…それも大概失礼な話だと思うんだが。

塩見はブスじゃぁないし、興味がないと言えばウソになるが『入ってやってもいい』スタンスで言われるのはちょっと違う。

焦って目の前での手を振った。

「落ち着け、今の俺たちは宿泊場所を探してるんだろ?」

それに…清水の舞台から飛び降りるような目で語る塩見とラブホテルには入れないと思った。

「ハルトくん…もしかしてハルトくんも怖かったりする?」

半分は当たりで半分は外れだ。

黙っているとか笑いながら塩見が言った。

「ハルトくん…可愛い。」

疲れもあるし不安もあり、かなりカチンと来た。

そのせいか感情のリミッターがうまく作動せず、ついつい声が荒々しくなってゆく。

「俺はお前が頼りにするほど色々知ってるわけじゃねーよ…。お前だって愚痴ってたろ?勝手に買いかぶられんのは俺だって嫌だ。第一、なんでそんなに思いつきで行動するんだよ。周りの迷惑とか考えないのか?俺だって落ち込んだりもするし、奥村先生の事だって…っ…。」

しまった…!

感情が高ぶって言わなくても良いことまで口に出してしまった。

二の句が繋げないでいると、案の定、感のいい塩見は食い付いてきた。

「なに…奥村先生って…、どゆこと?まさか…。…ハルトくんおかしいよ、あのセンセ結婚するんだよ?普通に彼氏いるんだよ?もしかしてハルト君が彼女作らないって、あのセンセの事を…。」

「うるせえな。」

憤りの気持ちは冷め、後悔の念がどっと押し寄せてきた。

「…俺たちは付き合ってもないのに、こんなところ入るのはおかしいだろってこと。」

俺は適当な言葉でその場を埋め、踵を返してあるき始めた。

塩見の顔をまっすぐ見られない。

「ハルトくんのバカ!嫌い!不潔!!」

はあ?!

慌てて振り返ると塩見が駆け出してゆくのが見えた。

あの、バカ!

道もよく分からないくせに…!

ここで見失ったら二度と会えないような気がした。

「まて、塩見!」

考える間もなく、俺は塩見の後を追って走り出した。

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