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夜空の星に恋した花火  作者: 及川
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自由すぎる彼女

一週間が過ぎた頃、なぜか塩見にまた誘われた。

塩見は寺澤に聞いた俺の携帯に直接連絡を取ってきた。

なんて図々しいんだ…本人の了承得ずに教える寺澤も、やっぱりいい加減な奴だ。

せっかくの休みであり、まだ布団の中で寝ぼけていた俺は相手も見ずに電話に出た。

「私。塩見里佳子だけど。寝てた?」

一瞬誰かわからずに黙っていると塩見から慌ててまくし立ててきた。

「勝手に電話番号聞いてごめん、学校で聞くタイミングがなかったから…。突然だけどadjustって知ってる?」

「…ん、映画館の近くの?」

いつも一人で行く映画館の側の靴屋だ。

「その前で待ってていい?買い物に付き合ってほしくて。」

言葉は一見遠慮がちだが、有無を言わさぬムードがあった。

こちらの予定などは一切聞く気がないらしい。

まあ、どうせなんの約束もなく、家で過ごすつもりだったのだが…。

時間を告げると塩見は電話を切った。

のそのそと布団から抜け出ると顔を洗って服を着替えた。

「また映画か?」

新聞を読んでいた父が聞くのに対し

「うんー…」

生返事をして家を出た。

約束した時刻に、塩見はすでにadjustの前にいた。

遅刻でもしてきたら待つ義理はないし、帰ってもいいだろうと内心思っていたが、中々律儀な奴らしい。

買い物に付き合い、お茶をした。

ナニコレ。

デート…的な?なんで?

「お前ってホント強引だな。」

「お前、じゃない。里佳子、そう呼んで。あたしもハルトくんって呼ぶから。」

「ん…あぁ、里佳子…な。…いきなり呼べるかそんなもん!」

「はぁ?呼ぶだけじゃん。変なの」

何でだよ…お前の方が変なんだよ。

自分をまともだと信じきっている人間って恐ろしい。

今まで塩見のような強引な人間と会ったこともなかったし、女子と過ごす休日は初めてだった。

3時を過ぎた頃、帰ろうと提案したら、

「映画も見たかったの。」

手を引かれて今週から上演のアクション物を見るために映画館に吸い込まれていった。

塩見の柔らかい右手が俺の左手にまとわり付いてきて、着席しても手を離す様子がない。

本当にこいつは何を考えてるんだろう。

誘ってる?俺に気がある?まさか。ありえない。

どっちかっていうと猿と犬って感じだけど?

入ってしばらくして辺りが暗くなると繋いだ手の指を俺の指に絡めてきた。

少し汗ばんだ塩見の指が熱い。

うん、こいつ絶対おかしいし、俺のこと誘ってるな。

冷静な思考と裏腹に心拍数があがっていくのは、やっぱり悲しい男の性だ。

いや、どうしようかな…。

映画が始まり、結局、振り払うでもなくそのまま時間がすぎてゆく。

甘いな~、他の男とイチャつく様子を見た相手に誘われてなびくと思うか?

と言いたかったが、しっかりと俺の心拍数は上がり続け、暗がりの中、どんどん妙な気分になってくる。

もはや映画のストーリーどころではない。

頭は完全に隣に座った塩見に支配され、繋いだ手に全神経が集中している。

振り払え、俺!手を払って、『何やってんだよ』って、塩見を睨むだけ…だけ?

押し殺すような塩見の息遣いや体温が五感すべてを刺激するようで、単純な自分が呪わしくなった。

「なんで?」

と、小さく聞いたのは本能に流される情けない俺の精一杯の抵抗だ。

塩見は、動きを止めると俺を真っ直ぐに見据えた。

「私、ハルトくんのガツガツしてない所、周りを俯瞰で見てるって言うか…大人なところがいいみたい。」

そりゃガツガツなんてするわけない。

何しろ相手も相手だし、経験もないし、こんな急展開、想像すらしていないのだから。

塩見の手に力が入ったように感じて、ハッとした時には彼女の長い睫毛や上品そうな唇がすぐ目の前にあった。

控え目なシトラスの香りが鼻腔をくすぐる。

慌てて身を引いた瞬間、勢いで俺は思わず立ち上がっていた。

映画館での非常識な俺の行動で一身に視線を集めたのがわかる。

その場に居づらくなって、俺はそのまま足早に出口に向かった。

何なんだ、何なんだ、何なんだー!

跳ね上がる心臓をなだめながら人混みを抜けて自宅を目指したが、落ち着かずに近場のカフェに入ってコーヒーを頼んだ。

コーヒーを口に運びながら先程までの出来事を反芻してみると、塩見の心理状態が不思議でならなかった。

一時間を過ごし自宅に帰ると、ドアを閉めてベッドに寝転がった。

疲れた…。

映画館を途中で出たのは初めてだ。

金もったいない…そして、ストーリーも頭に全然入ってない…!

俺の指先にはまだ塩見の滑らかな指の感触が残っていた。

今夜は眠れそうにないな…。

俺は目を閉じてため息をついた。


次の日、寝不足で不健康な顔をしたまま学校に向かった俺は体調も悪く、授業はろくに頭に入らなかった。

昼休みを過ぎた頃俺のクラスに初めて塩見がやってきた。

「広瀬くん、いる?」

塩見は目立つ。

いろんな意味で。

自由な恋愛感覚もあるかもしれないが、とにかく見た目は憎らしいくらい可愛いのだ。

クラスメイトが一斉に驚いたように俺を見るのがわかる。

俺は目線で『知らねーよ!』とジェスチャーを返してみる。

しばらく躊躇したものの、周りの視線に耐えかねて教室を出た。


「Aクラスってやっぱり秀才ばっか。本読んでる子が多いのね、頭良さそう。」

俺を人気のない階段に呼び出してそう言った。

「そう言う奴らばっかりの寄せ集めだからな。て、お前が言うとなんでも失礼に感じるから不思議だな。」

「そ、その発言が失礼じゃない?」

階段に腰を下ろすと、隣に塩見が座る。

ドキリとするのは一瞬映画館で隣に座った塩見の感覚を思い出してしまうからだろう。

「ハルトくんはどこの大学受けるの?」

その質問を、突然か。

「んー…そうだな…」

「あれ、何だかすごく眠たそう。顔色悪くない?」

お前のせいでもあるんですが!?

「早く寝ないとだめだよ。成長期だからさ。」

なんと言い返してやろうか考えていたのに矢継ぎ早に言葉が飛んでくる。

コイツは本当に…。

「話を聞け。何でそんなに落ち着きがないんだ。まだ質問にも答えていない!」

軽く頭を小突いて言うと塩見が口を尖らせて言った。

「逆に何でハルトくんはなんでそんなに落ち着いてるの?この短い休憩時間の間にいろいろ知りたいと思わない?」

「落ち着きがなくなる意味がわからない。」

映画館ではかなり動揺した事には触れないでおこう。

「昨日のことで眠れなかったのかな〜何て少し思ったのに。残念。」

若干ギクリとしたが、顔には出さない。

いちいち核心を突かれて恰好悪いだろう、動揺する俺。

「…あんなこと、もうするなよな。」

「ちぇー、…釘刺されたし。」

軽口をたたく。

二人きりだというのに、昨日は少し感じたやましい気持ちも一切湧いてこなかった。

「女友達にはよく男っぽいって言われるの。思い立ったら即実行したいし、悩んだり落ち込むのも嫌い。けど、外見が良いから良く勘違いされちゃうんだよね。」

自分のことを外見がいいとか、よく言う…。

俺の突き放した視線に気が付かないのか塩見が続ける。

「そんな男子見てると心底薄っぺらく見えちゃうし、そんな男子に限って『らしくない』とか平気でいう。結構傷つくし、私ってどんな?って思うよ。ハルトくんみたいなマイペースなタイプは珍しいんだよ?」

コイツはコイツなりに悩んでいたのかと思うとガサツな裏の繊細な一面を垣間見たようで少し面白くなった。

「世の人は我を何とも言わば言え 我なす事は我のみぞ知る、だろ。」

「なにそれ」

「坂本龍馬が残した言葉。自分の道を行けってことだよ。自信がわくだろ?」

「ふーん…なるほど。それよりさ、現国の佐々木、絶対にズラだよね~!!気づいてた?」

軽くスルーかよっ!!

こいつの脳みそはきっと俺には分からない何かで出来ている。

俺は頭を抱えた。

「あぁ、そうだな…。きっとズラだ。しかし、お前と会話してると会話の丁寧さを忘れる…。」

「会話の丁寧さって、なによ。考えすぎてるとハルトくんもハゲるよ?」

その時予令がなった。

で、結局あいつは俺になんの用事があったんだ?

俺は廊下を歩きながら首をひねっていた。

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