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トンボと彼女  作者: 西南学院大学 文芸部員
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トンボと彼女2

第二筆者:きべ乙

「あーきとくーん、ねえ、あきとくんってばー」

 放課後、近所の図書館にて、俺は昼休みに学校の図書室で借りた米澤穂信のボトルネックを読んでいる。

 俺の名を呼ぶ声の主はもちろん俺の幼馴染みで親友、有川伊織である。

「あきとくーん、悪かったってばー」

 スルー。俺の周囲には何も存在しない、まるでぼっちであるかのようなスルーを決め込む。

 実際ぼっちなんだけどね。

 いや、正確には周囲からはぼっちにしか見えないのである。

「あーきーとーくーん!」

 さっきからずっと俺の名を呼び、肩を揺らす有川伊織は俺にしか見えていないのである。

 いや、幻覚見てるとかじゃないよ?

 いくらぼっちとはいえ、そこまでかわいそうな人間にはなっていない……はず。

 確かに有川伊織は俺の目の前にいる。

 ただし、幽体(・・)として、だが。


「ドッキリ大成功~、んなははははっ」

 時をさかのぼって昼休み。

「私は今から君に告白しようと思ってる」

 と告げ、突然窓から飛び降りる。

 とっさに声を上げ、窓の下をのぞき込むと、そこにはけらけら笑いながら浮いている有川伊織がいた。

「……へ?」

 開いた口がふさがらないとはまさにこのことである。

「まさかあきとくんがこんなアホ面になるとは……。とりあえず写メを……、あ、今はスマホ無いんだった。あー、勿体ない!」

 普段だったら間違いなくムカついてるとこだが今はそんなことはどうでもいいんだ。

 だって目の前で人が浮いてるんだよ?

 なんかのトリックか?

 いや、たかが高校生がこんなトリック仕掛けられるはずがない。

「なあ、伊織」

 驚きを禁じ得ない中、何とか言葉をひねり出す。

「んー? なーにー?」

 いつものノリで返事をする有川伊織。

「俺たち、親友だよな?」

「そだね、私たち小学校からずっと一緒だったよね」

「じゃあ一つ、聞いてもいいか?」

「うんいいよ、秋人君にだったら何でも教えてあげる」

 ゴクリ、と生唾を飲む。

「お前、なんで宙に浮いてんだ?」

「んー、個性?」

 軽っ!

 てか、答えになってねえ!

「んー、個性?じゃねえよ! 浮くことが個性になるほど人類は進化してねえよ!」

「えー、でも、悟空やベジータだって浮くじゃん」

「いつからお前は戦闘民族になったんだよ!」

「んー、わかんね。というか、正確には浮いてるんじゃないんだよね」

 ……へ?

 本日二度目のアホ面。

「その顔カメラに収められないのが悔やまれるッ。とまあ、正確に言うと何というかこう……、体から中身が飛び出すというか……」

 ……つまり有川伊織は……

「幽体離脱してるって事か?」

「そう! それそれ! ゆーたいりだつ! 流石はあーきとくぅんわかってるぅ!」

 こんな軽いノリで超常現象を起こしてるのかこいつは……

 ん?

 ちょっと待てよ……

 幽体離脱……

 ……幽体?

「なあ伊織さんや?」

「何かねあきとくん?」

「お前いつからその幽体(?)になってるんだ?」

「ん?今日は昼休み入ってからはずっと幽体だけど……? 本体は机で寝たふりしてるよ」

「因みにその幽体とやらは俺以外の人間には……?」

「もち! 見えて無いっす! いやー、この状態ならあきとくんのあーんな秘密やこーんな弱みを握れるとか思ってたんだけど、何故か君だけには見えてるみたいでさー」

 口をとがらせながらとんでもないこと暴露しやがったなこいつは……

 とまあ、今はそんなことどうでもいいんだ……

 ここで俺の行動を振り返ってみよう。

 ・図書室で騒ぐ伊織をなだめ、本を借りる。

 その際、図書委員の女子に聞き間違い(?)される。

 ・有川伊織とだべりながら歩く。

 これらがもし、有川伊織(・・・・)なしで行われたとしたら……

「……俺の高校生活は終焉を迎えたようだ……」

 穴があったら全力ダイブしたい……

「んー? あっ……」

 どうやら伊織も気づいたようだ。

「あの、その……、ごめんねあきとくん。後でなんか奢ってあげるからさ」

「……図書室、いいところだったなあ」

「き、気にすることないよ! きっとあきとくんの存在なんて皆眼中にないよ!」

 慰めるのか貶すのかどっちかにしてくれ……

 そんなことを思う中、チャイムが鳴る。

 俺は気の抜けたようなアホ面をしながら教室へと向かった。


「あきとくんあきとくんあきとくんあきとくんあきとくんあきとくんってばー!」

 小学生かお前は……。

 肩を揺らす力が強くなってきた。

 ロデオマシーンにでも乗っているかのごとく揺らされる。

 周囲からは図書館で独りでに揺れているようにしかみえないだろう。

 このままではよろしくない。

 俺はまたしても米澤穂信のボトルネックを読むことを断念し、図書館を後にすることにした。


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