爆炎の少女
その男は奇妙奇天烈としか形容できなかった。
まずこの男が行ったことは
「保険金……イエ、皆々様、私ハ聖ルエビザ教団大司教ルエビザ=アドルバーグ七十四世デス! コレカラ皆様ニハコノ書類ニさいんシテイタダキマス」
と生命保険受け取り証書をばらまくことだった。どう考えても怪しい宗教団体の幹部にしか見えない。ついでに言えば、数分前に名乗った名前を既に忘れているらしい。
ざわつく観客たち。
それだけでは飽き足らず、男はさらにとんでもない行動に出る。
金髪の男たちが驚いている隙にバズーカを躊躇なくぶっ放し、電車をストップさせた。もちろん、周囲は大騒ぎだ。高架の上で止まったパニックの電車。変な男はあろうことか、その場を逃れるために電車の窓をバズーカで叩き割って落下していく。
そのまま落下して即死すると思ったが、彼は体をプロペラのように回転させ、宙に浮いていた。彼は何か呪文のような言葉を紡ぐと、どこかに飛び去ってしまった。
「地球外生命体か……うん、そうに違いない」
たった今、目の前で起こった出来事を白昼夢だと思いたかった。だが、実際に電車はストップしているし、変な男が暴れた形跡がそこかしこにある。
ともかく車内は混乱を極めている。長居は無用とばかりにジンは電車から降りて、線路の上を走っていった。
何か憂さ晴らしがしたい。
ジンの頭の中には今、それだけしかない。それには繁華街で遊ぶのが一番だ。
次の目的地は決まった。
昼の三宮は今日も不景気だ。不景気という麻薬に浸された街は、その毒を内部にため込み、やがて暗黒街を生み出す。
昼間だというのに街中には浮浪者があふれていた。彼らは働き口を探すでもなく、物乞いをするでもなく、まるで人形のようにぼうっとしていた。
ジンが歩いているのは三宮の路地裏ではない。商店街の中だ。
商店街の中でさえ、彼らは備品のようにあちこちに置かれている。対照的に、富裕層と思しき人々もまた商店街に存在した。彼らは商店街を闊歩し、大量に物品を買い求めていく。それもタダ同然の値段で。
この街には光と影が混在している。
だが、ジンはそんなことはどうでもよかった。とりあえずゲーセンにでも行って、各党ゲームにでものめりこもうと考えた。自分の憂さが晴れればそれでいい。
商店街を突っ切り、三宮の北にある歓楽街へ足を運ぶ。桜の花びらが少しずつ舞い散る様子に心を和ませつつ、それでもやはりまだどこか鬱憤は残っている。
ゲームセンターに入ると、そこでは雑多な人々がそれぞれのゲームに興じていた。格闘ゲームはもちろんのこと、ダンスゲームやもぐらたたきなど様々なものがある。ゲームセンター特有のうるさい音に目をつぶって奥へと進む。ここは堕落した者が行き着く舞踏会場だ。
そんな場所に一人の少女がいた。紺色のブレザーとブルーチェックのプリーツスカート姿の小柄な少女だった。彼女は肩までかかる灰色の髪を揺らしながら、ダンスゲームに熱中している。その身のこなしは軽やかで、見るだけで彼女がしなやかな筋肉の持ち主であることが分かる。
付け加えるなら、横顔だけ見てもかなり可愛い方に分類される。そんな子がこの場にいては、ゲームに集中できないだろうとジンは思った。
「おい、お嬢ちゃん。暇なんやろ? ちょっと来いや。お兄さんと遊ぼうや」
緑色の髪の毛の軟派そうな男が少女に声をかけた。案の定だ。
「……」
少女は男を無視して、すたすたと帰り始めた。その表情は明らかに無関心だと告げている。
「おい、待てって!」
男が少女の腕をつかむ。
「……触らないで」
「つれないこと言うなや。何も取って食おうってわけやあらへん。ちょっと遊んでくれればいいんや」
少女が指を鳴らすと、何かが光る。それが何であるかジンに分からなかった。その小さな光の源が爆発するまでは。
「……え?」
少女をつかんでいた腕はぼとりとゲームセンターの汚れた床に落ちた。それからは人間の脂が焼けた悪臭が広がる。
「警告はした。お前が悪い」
淡々と述べると、少女はのたうち回る男を一顧だにせずにゲームセンターを後にした。
こんばんは、星見です。
北海道から帰ってきました。何なんでしょうこの暑さは。本気で人類を殺しにかかっているとしか思えないんですが!そういえば、東日本大震災の前もこんなに暑かった記憶があります。当時は社畜だったのでよーく覚えておりますとも。
さて、新キャラの女の子です。前作の雨桐桜ちゃんはあんまりストーリー全体には絡まなかったので、今回はストーリーの主軸となる女の子を描きたいと思っています。彼女の名前すらも明らかになっていませんが、それはそのうち。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……