凶兆連鎖領域 Ⅱ
「もしもし、オヤジ。ジンです。今から事務所に戻ります」
電話に出た神崎の声は、ジンの予想に反して、幾ばくかの緊迫感を含んでいた。
「ああ……。ま、とりあえず帰ってこいや。話はそれからにしよか」
「何か問題でも?」
「まあな……。とりあえず今のワシらにどうこう出来る問題やあらへんわ。あの五十嵐に動いてもらうしかないやろ」
疑問を抱いたまま通話を止めたジンは、紫色に光る不思議な花のことを思い出している。あれはきっと兆候なのだろう。
確証はないが、ジンはそう感じ取っていた。何故か、そう感じることができた。それが正しいことを知るのはそう遠くない未来のことだ。
事務所に戻ったジンを迎えたのは神崎でも星崎でもなかった。
「貴様……戻ったか」
仏頂面の軍馬が事務所のソファに腰かけている。そこに神崎はいるものの、軍馬の向かいでパソコンとにらめっこしているだけだ。明らかに苦りきった表情をしていた。
「とりあえずは貴様のボスに代わって礼を言っておこう。ご苦労だったな」
もう少し愛想よくできないのかとジンは思ったが、素直にそれを受け取った。
「だがな、どうやらこれで終わりではないらしい。俺は今すぐ次の捜査に向かわねばならん」
軍馬は神崎のいじっているパソコンを指し示す。
どうやらこの事件には続きがあるらしい。
「続きは奴に訊け。この不気味な花……まだ何かある。貴様が睨んだホシは殺したのか?」
「いいや、逃げられた」
「そうか」
何かを察したのか、軍馬は迷いのない足取りで事務所から出て行った。
「なんや、疲れたやろ。ソファにでも座れや。ああ、茶ぁくらい自分で淹れろや」
ジンと葉村はその言葉に従って、軍馬が座っていたソファに腰を下ろす。
二人に目も合わせず、パソコンのディスプレイを見つめる神崎はかつてないほど狼狽していた。
こんなことが起こってたまるか。
神崎の顔にはそう書いてある。
こんなことが許されるなら、これを成し遂げようとした人間は悪魔としか呼べない。到底、通常の人間の精神状態で出来ることではない。
二人がカップを持って、ソファに腰かけるのを見届けてから、神崎はこう切り出した。
「つい今しがた、神戸に駐留していたすべての占領軍が消えたそうや」
こんばんは、星見です。
そろそろまとめに入ります。
この兵士消滅事件が次とどうつながるのか。
もう少しですが、お付き合いくださいませ。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




