紫香の仇花
「逃げられたか?」
忌々しそうに大剣を地面に突き立てたジンは誰もいない空間を見つめた。そこには斬り潰す対象がいたはずであった。
ジンが斬ったのは人ではなく、淡く紫色に光っている花だった。その花はそこかしこに咲き始めている。
「すぐに脱出しましょう」
葉村はその花をしばらく観察してから、ジンに提案した。
「この花……晶具か?」
「かもしれない」
ジンは葉村の意見に従うことにした。何もない所から次々と生える、この花は一見すると美しいが、それと同じくらいに危険な香りがする。
「クソジジイを始末する前に撤退する羽目になるとはな……」
悔しそうに呟いて、ジンは校舎の出口を目指して駆け出した。
「いや、助かりましたよ」
校長は安堵の表情を浮かべて、目の前に整然と佇む女性に頭を下げた。
「いいえ、礼には及びませんよ」
その女性は冥々たる表情でため息をついた。
「まさか、彼らがここまで晶具を使いこなしているとは思いませんでした。それと……」
女性の周りには紫色に光る花が生まれる。淡く光るそれはもうすでに彼らがいる部屋すべてを囲んでいた。
「まさか、あなたがここまで無策とは思いませんでした」
柔らかな口調で奏でられたその言葉と同時に、校長は足元から崩れ落ちる。
「意外でしたか? 予想外でしたか?」
校長は口をぱくぱくと動かしているが、言葉を発することはできない。血走った目には怒りと困惑が混在していた。
「でも、これは私のシナリオ通りなのです。あなたは役に立ってくれました。私の言葉に踊る人形。甘言に騙される哀れなピエロ。おかげで私は彼を見つけることができました。ずっと……ずっと、探してい彼を」
その表情は恋する乙女そのもの。それ以外に例えることは難しい。
「ですから、もうあなたは退場していただいて構いません。いい夢を見られたでしょう?」
倒れ伏た校長の周りには紫色に輝く綺麗な花々が咲き始めた。
こんばんは、星見です。
久しぶりに実家に戻り、故郷のすばらしさを謳歌した五日間でした。
もう仕事辞めて故郷帰りたいと思ったのは一度や二度ではありません。
でも今のド不景気で辞めたら今度こそ就職先がなくなりそうですので、我慢しておきます。
そんなことを考えつつ、そろそろフィナーレです。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




