幕間:業火の起動式
Interlude in
異形の姿となった彼を見た葉村は震えを禁じ得なかった。それはこれまでにない感情によるものだ。
どうすればいい?
あれほど人間を焼いてきた両手が止まる。
「立ち止まるかね? それもよかろう」
異形の男は八つの腕を振り上げる。
「ならば、早々に死ぬがいい!」
すべての腕は獲物を仕留める蛇のように変幻自在に葉村を狙う。そのすべてはまぎれもない殺意を宿していた。
「やめて……下さい」
「おや、君らしくない。君はもう数多の命を屠ってきたではないか。その手で立ちふさがるすべてを焼き尽くしてきたではないか。今更何を躊躇うことがあるのかね?」
動きを止めた男の怪腕が指し示す先には、彼女自身の暴虐の爪痕が刻まれている。それは生きていた痕跡さえも燃やし尽くす炎があるだけだった。
「私は……私は……」
幼い彼女は涙声を振り絞って叫ぶ。
「殺したくない! 生きていたい! 誰も殺さずに生きていたい! こんな施設に閉じ込められるんじゃなくて! 自由に生きたい!」
それは彼女の本当の願いだったに違いない。
異形の姿となっても理性を保っている彼はそう確信した。しかし、だからこそ、彼はこの暴挙に出たのだ。
「誰も殺さずに生きていける……? この世界はそんなに平和ボケした世界なのかね? そんなわけはない。君は肉を食べないか? 君は本を読まないか? 君は知らないだけだ。君は知らず知らずのうちに動植物の命を刈り取っている」
「そんなこと……」
「ならば、なぜ火を扱う? まぎれもなく、君は死神だよ」
少女は絶句した。
「言うまでもなく、君は人殺しだ。その咎を一生背負って生きていくのだ。それが君の罪だよ。ならば、その罪から解放してあげようと思うのは老婆心だと思うのだがネ」
葉村はその場に崩れ落ちた。
俯いているせいで、その瞳の色は分からない。
「君はよく頑張った。もう終わりにしてもいいだろう?」
異形の鬼はすべての腕を少女に向けた。
Interlude out
こんにちは、星見です。
そろそろ暖かくなってきたので、やる気が出てきました。
どうも西国出身の私には北国の冬は厳しいようです。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




