差し伸べられた手
紅く濡れた絨毯の上に倒れ伏した半人半馬の少年をわずかの間悼んだ。
人殺しに出来るのは精々こういうことくらいだ。いずれ自分も誰かの手にかかるのだろう。
「あばよ……必ず元凶は潰してやる。せめてもの手向けだ」
ジンは一度も振り返らなかった。否、振り返る資格がないと思った。
この短い期間で何人の命を奪ってきただろう。そして、そのことに“なぜ慣れている”のだろう。それはジン本人ですらも分からない命題だった。
赤紫に彩られた階段を上り、二階へたどり着く。そこには予想に反して怪異の類はいなかった。てっきり護衛兵団を連れまわしているものと思っていた。
「ま、いいか……手間が省ける。さて、校長室は、と」
迷宮のように作り変えられた神戸海洋学園の校舎内を歩き回るが、校長室があるはずの二階職員室横にはそれは存在しない。
この建物の構造そのものが作り変えられている。
ジンはそう判断せざるを得なかった。
さて、どうしたものかと思案顔になりしばらく考えた結果、神崎へ助けを求めることを思いついた。
「おかしい……」
電波の類が遮断されている。となれば、この建物自体が晶具なのだろうと判断せざるをえなかった。数多の魔人を作り出し、人の命を弄ぶ晶具。
「やれやれ、一番面倒なパターンになったな。誰かヘルプがいれば……」
言いかけたところで爆炎が壁を破壊する音が一階から聞こえてきた。都合よく考えるなら、これ以上ない援軍だ。おそらくは神崎の采配だろう。
軽やかに階段を上る靴音が聞こえる。
「お困りかしら? やっぱり私の手助けが必要?」
振り向けば、そこには澄ました顔の葉村綾が立っていた。律儀に制服姿なのはこの学校に敬意を払っているからなのか、それとも単なる皮肉なのかは分からない。
「お前……バイオレンスにも程があるぞ。アレか、大方全部爆破していけばそのうち目標をあぶりだせるだろう的な発想か?」
「効率的でしょう?」
「暴力的の間違いだろ? まあいいや。探すの面倒になってきたし、とっととあのジジイ潰さねえと……」
海がよく見える教室の窓から、神戸の市街地を見下ろす。
そこかしこから火の手が上がり、おそらくは大規模な戦闘がまだ続いていると予想できた。やはり、時間が勝負の鍵であることに変わりはない。
「何にせよ、助かったわ。じゃあ、頼む」
「はいはい、任されました」
そう言って、葉村は少しだけ口元に笑みを浮かべて、その指を鳴らした。
おはようございます、星見です。
色々とネタが尽きない毎日を送っています。
無駄に忙しいのが玉に瑕ですが。
ですがそれも今週まで、と信じたいです(笑)
さて、ラストダンジョンもそろそろ中盤から終盤へと移ります。
葉村ちゃんが加わりました。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




