幕間:始まりの日
Interlude in
黒崎ジン。
何故か彼は名前を知っていた。
誰に名付けられたものかは分からない。誰が親なのかも分からない。けれども、彼はそれを事実として知っていた。実際、彼の周囲の人々は彼を“黒崎ジン”として認識していた。
知らないけれども、知っている。これほど彼が不気味に思ったことはない。
これは店。色々な品物を買うところ。これはグラウンド。運動をするところ。目で見た記憶も、学習によって与えられた知識もないのに、知っている。知らないはずなのに知っている。
ある日、彼は捨てられた。
用済みになった実験動物のように神戸の路地裏に置き去りにされた。捨て猫のように声をあげた記憶しか彼には残っていない。
そこに通りがかったのが、神崎秀人だった。
巧妙に仕組まれた出来事なのか、偶然の産物なのかは定かではない。ただ、こうしてジンと神崎は出会った。
神崎はすぐに幼かったジンを保護し、組のトップに自分が養うことを申し出た。組きっての武闘派若手リーダーだった神崎の提案を無下にはできず、当時の組長はそれを了承する。そのことすらも想定したかのような段取りだった。
こうして、黒崎ジンは極道組織である竜胆会に迎え入れられ、そこで育つことになる。
神崎はジンに一流の教育を与えた。それは彼が神戸のあらゆる部分の腐食と荒廃を知っていたからである。公立学校に行けば、ヘンテコな教育を受けさせられた上に洗脳されたような人間が出来上がる。そこで、彼は知人の学校にジンを入れた。
それ以外にも神崎はジンに生き抜く術を教えた。
ナイフ、銃器など武器類の取り扱い。金の使い方。取引の仕方。
元々の素質だったのか、ジンはそれを貪欲に吸収していった。
そして、ジンは成長していく。彼が頭角を表すまで、そう長い時間は必要なかった。それは彼の天性の才能があったからという理由もあるが、彼が片時も離れなかった巨剣のおかげでもあった。
それは彼の刃であり、盾であった。
だが、それがいつからなのか、それを知る者は竜胆会にはいない。
Interlude out
こんばんは、星見です。
何だか疲れが出てきたみたいで、今後遅筆になることが予想されます。
気長に待っていて頂けると嬉しいです。
さて、今回はジンのお話でした。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




