戦禍の予兆
『それでは自己紹介から始めましょうか。私の名前は……そうですね、Aとでも呼んでください。あはは、そこのお嬢さんは何か分かっているようですね。まあいいでしょう。私が誰かを知ったとしても、私がどうするかを読むことはできない』
電子音の主、Aはそこで一呼吸置いた。
あくまで落ち着き払い、余裕を失わない。いや、余裕というよりはこの状況を傍観して楽しんでいるようにも見える。
『薬物汚染都市神戸……もう多くの学生が犠牲になっていることでしょう。そう、そこの少年と少女は見てきたようですね。人が人ならざるものになる瞬間を』
ジンはその言葉を聞いて、思い出した。
運悪く『鉛筆屋』の口車に乗って、人外の化け物になり果ててしまった少年の姿を。そして、それを斬り刻んだ自分自身を。
『何も自分を責めることはありません。それに、何も犠牲になっているのは学生だけではありません。老若男女関係なく、これからは犠牲になることでしょう。彼はそういう人間です。学生はあくまでも“実験台に過ぎなかった”のですから』
その言葉を聞くだけでジンの憎悪は瞬時に燃え滾る。
『予言しましょう。これから大きな戦乱がこの神戸を覆います。備えをゆめ怠らぬように……。これは私から可愛い子どもたちへの忠告です。素直に聞いておくことをお勧めしますよ、あはは』
そう言い残すと、悪性のコンピュータウィルスは消えていった。
跡形すらもない。まるでそこにいなかったかのように、ウィルスは消えている。
「信じられんな……。自分自身の意志で移動するウィルス……か」
神崎の呟きに誰もが同じ危機感を覚えた。
このウィルスを駆除する方法が見当たらないのだ。
「ともかく、目下の目的はこの神戸で起きる出来事への対処や。あのウィルス曰く、何か知らんがとてつもないことが水面下で進行しとるらしい。そしてそれは、おそらくジンと葉村ちゃんの調べている件と関係しとるらしい」
神崎の結論はこうだった。
神戸海洋学園の生徒が実験台になったのは偶然ではなく、学園内部に黒幕がいるということである。
言葉にはしなかったが、神崎にはもう一つ気になることがあった。
あの悪性ウィルスは“子どもたち”と言った。それが葉村綾のことを指しているのは明らかである。そこにジンが含まれるかどうか。いや、含まれるはずだ。何故なら、あのウィルスは“子どもたち”と言った。
ジンの両親について、神崎は知らない。
奇妙に繋がる手がかりに神崎は一人で思索を巡らせた。
こんばんは、星見です。
ブラックです。ダークです。ブラックホールです。
何故か昇進したはずが何故かブラックになってしまいました。
それはさておき、第一編【汚染都市編】もそろそろ終盤です。
色々な伏線が見え隠れしています。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




