幕間:白亜の記憶
Interlude in
孤独は人を殺す、とはよく言ったものだと葉村綾は今になって実感する。彼女はとある実験施設で育った。両親の顔は知らないし、友達もいない。ただただ毎日、投薬と実験、それに晶具への適合試験を受け続ける日々を送っていた。
適合試験とは、ただ単に彼女の持つ爆破の能力をアウトプットするだけではない。実際に人を爆炎で焼き払うのだ。
何人も何人も彼女は人を焼いた。
それは科学者たちが彼女の持つ晶具がどのようなものであるかを解析したかったからだ。彼らは晶具という名称を知らない。だから、彼女の不可思議な能力がどのようなメカニズムで動いているのかを知りたがった。
五年の月日を費やしても、彼らは晶具が何であるかを突き止めることはできなかった。だが、葉村は、その所有者だけは晶具の正体を知った。とても残酷で、とても美しく、そしてとても儚い。そんな結末を生む存在である、と理解した。
当時一人だった葉村は思い至った結論に絶望する。無理もない。十代前半の少女が抱え込むには重すぎる事実だ。それに加えて、彼女は数多の人間を殺してきた。そこに悪意がなかったとはいえ、科学者たちの命ずるままに凶行を繰り返した。その現実が彼女の身にのしかかる。
それを彼女は一人で抱えねばならなかった。
誰も彼女を知らない。
誰も彼女を理解できない。
その事実に彼女は怯えた。吹雪が吹き荒れる荒野にただ一人取り残されたような感覚が常に彼女に付きまとう。
ある時だった。
一人の科学者が施設の廊下で彼女に声をかけた。それは彼女にとって初めての経験で、戸惑いしか生まなかった。
「ああ、済まない。突然話しかけて悪かったかね」
人のよさそうな笑みを浮かべた初老の男はぶかぶかの白衣のポケットに両手を突っ込んでいた。靴は汚れ、白衣はシミだらけ。どう見ても胡散臭い。それが葉村の第一印象だった。
「……何でしょうか? 何か御用がおありですか?」
「まあそう固くならんでもいい。別に君を拉致して身代金を要求するような人間には見えないだろう? どっちかっていうと、こんな実験施設に迷い込んだオオアリクイのようなものだ」
たとえが微妙だ。
「ふむ、信じていないかね? もしかして、私、胡散臭いジジイとか思われているのかな? まだ還暦は迎えていないのだが!」
テンションも微妙だ。
だが、彼は一番人間らしかった。彼女にとって、それはどこか懐かしさを感じさせた。両親がいるとすれば、こんな感じかもしれない。
「グッドチョイス! 信じてくれたようだね!」
まだ何も言っていないという抗議の視線を無視して、彼は
「よろしい! では私の研究結果を君に教えよう。我が壮大かつ雄大な研究室へ来るのだ」
と半ば人さらいのように彼女を研究室へと連れて行った。
Interlude out
こんばんは、星見です。
もうすぐ新しい住居でのネット環境が整います。これはGW中に帰省した実家からの投稿です。
多分設定を間違えていなければ5月9日18時に投稿されることでしょう。
今回は葉村綾ちゃんの過去話です。
実験施設で育った彼女が出会った白衣の男。彼が葉村綾の将来を変えることになります。
続きはまた後程。
出来れば毎日執筆したいのですが、今風邪を引いていまして。
来週月曜日になればブラックな労働環境が待っています。何とかその環境から脱出してやりますが。
再来週から定期的に更新できればと考えています。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




