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護法の剣

 薄暗い空間に突如響いた音が何であるか、獣と化した少年は理解できなかった。おそらくその場で正しくそれを認識できていたのはジンだけだ。

 獲物の心臓を握りつぶさんと伸びた獣の腕と爪はあっけなく、ジンの持つ大剣に遮られた。視界が悪いこの状況で、である。

 偶然だろうと思い、何度狙っても、まるで狙った場所が分かっているかのように防がれる。

 その様子を葉村は静かに観察していた。

 なるほど、あの剣の特性は自動防御か。

 あの大剣が晶具であることは分かっていた。だが、どんな特性を持つ晶具であるかは明らかではない。それはジンが普段、大剣を普通のそれと同じに振るっているからである。その理由は、隠し通したい何かがあるからだろう。

 葉村は一旦思考を停止させた。

 自動防御なんて単純なものを、果たして隠し通そうとするだろうか? そんなシンプルな能力だけなのだろうか。彼は地力がある。地力だけで考えても、大抵の敵はあしらえる。でも、彼は“自分と同じ”なのである。

 まだ見せていない何かがある。自動防御のさらに後ろにとんでもないものが潜んでいる。

 それが葉村の結論だった。

「痛々しいな……もう止めろ。すぐ楽にしてやるからよ」

 その言葉が引き金となったのか、辺りは一瞬にして完全な暗闇となった。黒く塗りつぶされた部屋で対象を感知できるのは、獣の嗅覚を持つ少年しかいない。

 葉村は掌の上で火薬を燃やそうとしたが、やめた。

 これはおそらくあの少年以外にも誰かがいることを示しているし、何より自分の晶具を知られることはディスアドバンテージになる。何よりも、それは狙ってくれと言っているようなものだ。幸いにして、あの獣はジンにのみ狙いを定めているようである。

「これでどうにかなると思っているあたりが甘えんだよ」

 ジンの大剣は、怒涛の如く押し寄せる攻撃をさっきと同じように容易く防ぐ。獣は本能で理解した。目が見えていようといまいと、彼の身体を傷つけることは困難だ、と。

 それでも自身の心に蜘蛛のように巣喰った獣性はそれを止めることを許さない。ありとあらゆる方法を駆使して殺しにかかれと命ずる。

 どれほどの暴力を叩きつけても、どれほどの憎悪を叩きつけても、彼は揺るがない。彼の大剣はそれらすべてを難なく防ぎきる。

 ああ、そうか。

 獣と化している少年はそのやり取りで理解した。

 “叩き付ける暴力や憎悪の桁が違う”のだ、と。

 何が原因で、何をどれだけ憎悪しているのか、少年には分からない。まるで“この世界そのもの”を憎みきっているかのように思えさえするのだ。

 彼が憎悪の黒炎を纏って振るう剣技はどんなものだろう。それを想像するだけで、身体が凍り付く。

「もう動けなくなったか?」

 その声に威圧感はない。その声に戦意はない。不落の城塞と化した剣を持つ少年はただ確認しただけだ。

「……今回の事件、こんなことになるまで未然に防げなかったことは俺たちのミスだ。だから、俺が代わりにテメエの敵を取ってやる」

 ああ、そうだ。これを待っていたんだ。

 少年に最後に残ったひとかけらの心は願う。この願いが叶わぬならば“楽になりたい”と。

「どんなことがあろうと、この事件の大本は潰す! どんな敵だろうと、この俺が滅ぼす! それがテメエへの手向けだ」

 ジンは軽く、大剣を持つ腕を振るった。

 光を失った空間に骨の砕ける音が響き、断末魔の叫びが轟く。

 勝負が決着したと判断したのか、突然ついた明かりの下には、二人の血まみれの少年がいる。一人は獣と融合した身体で横たわっている。その表情は心なしか穏やかに見えた。一方、もう一人は悲しげに大剣を持ったまま立ち尽くしている。己の無力さを恥じるような、己の不甲斐なさを責めるような、そんな顔をしていた。

おはようございます、星見です。

ようやくネット環境が整いました。投稿が遅れて申し訳ありません。そして、読んでくださっている方々、お待たせしました。今日から私は一足先にGWです。


さて、ジンの晶具の一端が示されました。

果たしてどうなるか?

ちなみに異動先がブラックすぎますが、私自身もどうなるか?(苦笑)


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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