監獄の誕生Ⅰ
深夜になった。
ジンは一人、得物を背負って、神戸海洋学園の校舎へと侵入していた。
校長室で感じたわずかな風は、あの部屋のどこかに隠し通路がある可能性を示唆している。隠し通路がある校長室などいかにも怪しい。まるで、探ってくれと言わんばかりだ。
「で? あなたはどうして一人で猪武者のように突撃をかましているのかしら?」
警備員の目をすり抜けて校長室の扉を開けた先には、腕組みをしている葉村が立っていた。ふふん、と勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
「……何でお前がここにいるんだよ。とっとと帰れ」
「あら、そんなぞんざいな扱いをしていいの? 私の力が必要にならないとでも思っているのかしら?」
「爆発なんぞ起こしたら一発で警備が飛んでくる。そうでもなくとも、敵地に入り込むんだ。大乱戦なんてゴメンだぜ。そりゃ兵隊の役目。今回の仕事は暗殺だろ」
「あなたはそう思うでしょうね。でも、爆発といっても色んな使い道があるのよ。まあ、見ていなさい」
葉村の余裕に対して、ジンは不安そうに顔をしかめた。
「まあいいや、とっとと行こうぜ。どうせ帰れっつっても帰らねえだろうし」
「よく分かっているわね」
指を湿らせてジンは隠し通路を探す。目当てのものは造作もなく見つかった。これくらいで隠し通せると思っているあたりは三流だ。もっとも、転入生がこんなことをするとは思いつかないだろうが。
「チッ、暗いな。おい葉村、灯りくれ」
「何で私をライター扱いしてるのよ」
綺麗なオレンジ色の炎が葉村の掌の上で踊る。確かに、微量の火薬を燃焼させるだけなら音は目立たない。
「さてと、進むか。鬼が出るか、蛇が出るか……」
「それぐらいで済んだらいいわね」
暗闇に包まれた通路を進み始める二人は、やがて開けた場所に出た。そこは監獄だった。
こんにちは、星見です。
風邪引きな上に引っ越し作業と重なって遅筆がさらに遅筆になっています。申し訳ありません。
根源は東京で食ったまずい寿司だと思います。
サブタイトルはM.フーコーの著書名『監獄の誕生』より。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




