不穏な風
「この学校のことをよく知ろうと思ってな。あちこち歩き回る計画を立てていたんだ。部活動も考えないといけないし」
ジンは咄嗟に考えついた理由を口に出した。
「ああ、そうなんだ。じゃあ、私が案内してあげよっか。これでも、クラス委員長だし」
「頼む。葉村もそれでいいな?」
葉村はこくり、と無言で頷く。
「決まりね。じゃあ、レッツゴー!」
元気に案内を始める白石。二人はしばらく彼女についていくことにした。こういう形をとれば、自然に校内を探索できるし、運が良ければ何か発見があるかもしれない。
理科室に始まり、家庭科室、多目的室、体育館、部活棟など神戸山手に位置する学園には様々な施設があった。しかも、およそ半数の部屋からは神戸の美しい海と夜景を見下ろすことができる。
「で、ここが職員室です!」
白石が見せた、一階にある職員室には何気ない光景が広がっていた。一見したところ、どこにも異常は見当たらない。大概やる気なさげな教職員がだらだらと書類整理をしたり、パソコンで麻雀ゲームをしたりしている。
ジンがトイレに立ち寄った後で
「それじゃあ、最後ね。校長室! ここの校長先生はとっても偉い人らしいの。なんでも日本教育学会で理事長をしているくらいの人なんだって」
と言って、白石は校長室への案内を始める。
適当に相槌を打って、ジンたちは校長室へ入るよう促された。
「失礼します、一年三組委員長の白石です」
扉の先にいるのは、初老の男性だった。所々に白髪があり、柔和そうな表情を浮かべている。ふくよかな体型とその表情が相まって、性格が穏やかそうな印象を与える。
「おお、白石君か。その子たちは確か……編入生の子たちかな?」
「はい。今、校内を案内しているところです!」
「流石だ。クラス委員長としての務めを立派に果たしているようだね」
そのやり取りから、大分気さくな人物らしい、とジンは推測した。葉村は黙って、二人のやり取りを観察している。
「初めまして、になるかね。校長の国東孝則だ。よろしく。ああ、今個人情報に関わる仕事をしていたのでね、入り口付近にいてくれたまえよ」
「はい、よろしくお願いします」
ジンと葉村は反射的に挨拶を交わす。その間にも二人は観察を怠らない。
仕立ての良いスーツ姿。校長室に置かれた調度品の数々。歴代の校長の写真が飾られた額縁。特に怪しい所は見当たらない。
ここも違うか。
ジンはそう判断していた。
かすかに塗れた指に風を感じるまでは。
こんばんは、星見です。
ようやく(?)仕事が一服したという感じでしょうか。
でも大抵、こういう時に限って『あ、やっぱりコレをこうして』とかいう無駄な直し依頼が来たりします。無能上司の典型例ですね(涙)
ではまた、次回お会いできることを祈りつつ……




