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仮初の理想郷

 ドン=チェグソンを捕らえて戻ったジンを休ませてから、神崎は刃金が目覚めるまで部下とともに拷問室で立っていた。

 応急処置を済ませてから、頑丈な鎖で壁に身体を縛り付けて自由を奪ってある。ダイモニオンを使えばまた葉村を動員すればいいと考えたが、あの少女の心情を考えた時、神崎はそれを躊躇った。

 願わくは、このまま晶具を使わずに情報を引き出したいと考えている。

 丸一日以上刃金の意識は戻らなかった。

 刃金が目を醒ましたのは、彼を拷問室に運んでから二日目の夜である。

「……わ……が輩は……?」

「お目覚めか、鋼鉄署長。身体の半分がサイボーグやから生き残れたんやな」

 ドスの聞いた低い声で神崎が話しかける。

「この身体に感謝するのは初めてだ、が……ヤクザ如きに捕まるとは」

「これが現実や。ワシら竜胆会を侮ったな……」

 神崎の背後には、白衣を纏った禿頭の老人が控えていた。

「まあええ。どや、ワシの質問に答えたらそのまま解放。答えんかったら、拷問フルコース。考えるまでもないやろ」

「吾輩は……警察。ヤクザ如きに……」

「あのなあ、せっかく助かったんや。自分の命、大切にせんかいや。それとも、なんや。お前は命までも“先生”とやらに預けたんか? 誰か知らんが、自分の命よりも大事なものはないで?」

 神崎は冷たい匕首あいくちを刃金の首筋にあてた。

「……そうだ。私はあの方の理想に殉じたいと思ったのだ」

「何やねん、それは?」

「……天使のように公正で、神のように厳かで、聖母のように慈悲深く、聖霊のように聡い。そんな人間だけが住まう理想郷。それを“先生”は掲げている」

 神崎はそれを一笑に付した。

「おのれは幼稚園児か? そんなモン、もはや人間やあらへんで?」

「……出来るのだ、あのお力を以ってすれば」

「で、お前がしとることはクスリでセコい金稼ぎか? 言ってることとやってることが嚙み合ってへんで? 大体な、そんなモンは人間やあらへん。もし、そんな人間ができたとしたら、もうそれは悪魔でしかないわ」

「何だと? 貴様にはこの素晴らしさが分からないのであるか?」

「分かってたまるかい。その素晴らしい人間とやらの国ができるには何が必要やと思う? ワシらの屍や。そないな大勢の犠牲の上に立つ、クソガキのお絵かき以下の理想郷なんぞクソくらえじゃ」

 神崎は匕首を刃金の左頬にあてた。

「今度はこっちの番や。その“先生”とやらの正体を吐いてもらおうか? ついでに、アウトサイダーちゅうもんが何を意味するのか。大体の見当はついとるが、お前の口から吐いてもろうた方がいいやろ。何、言えばこのまま解放。言わんかったら首から上と胴体がサヨナラするだけや。簡単な取引やろ。ワシらの業界では優しい方や。どないや?」

 刃金は押し黙った。

「ああ、強情張ってもええことあらへんで。こっちにも“先生”はおるんでな」

 神崎はその本業に相応しい笑みを浮かべる。刃金の視線は、神崎の背後に佇む白衣の老人に向けられた。

こんにちは、星見です。

家の付近あたり一面雪景色です。ああ、今日はセンター試験でしたね。かつて受けたことを思い出します。もう二度と受けたくありませんが(笑)


さて、次回以降でまた物語は進みます。

ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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