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黒の少年

 神戸の暗黒街では今日も警察とヤクザの抗争が繰り広げられている。最初はカーチェイス。続いて銃撃戦。華やかなネオンで彩られた街並みを切り裂いて、決戦の場は異人館の前へと移っていった。

 近くにあった教会に逃げ込んだ数名のヤクザたちを追って、拳銃以外の武装をしていない警察官たちが教会に入り込む。残った数十名の警察官は包囲網を作る。万が一にも逃さないためだ。

「諦めて出てこい! お前たちはもう袋のネズミだ! ここから逃れる術はない」

 中年の刑事が拡声器を使って宣言する。

 すると、すぐに黒服が教会の入り口から出てきた。黒いスーツ、黒いネクタイと白いシャツがコントラストをなしている。まるで喪服だなというのは中年刑事の感想だった。

 少なくとも少年が着ていて違和感を覚える服装ではある。

「出てきたぞ。中でシスターさんたちが怯えているから、あんま威嚇すんなよ」

 落ち着き払った声の少年は茶色に染めた長髪を掻きながら面倒くさそうに言った。左手には巨大な剣が握られている。所々錆びれているそれを見て、警察官たちは失笑した。これではまともに対象を斬ることなどできはなしないことは火を見るより明らかだ。

「このヤクザたちは何もしていないはずだ。何故拳銃を振り回して追ってるんだ?」

 少年の疑問はもっともだ。実際に、このヤクザたちは何もしていない。にもかかわらず、任意同行を求められ、それを拒否した結果がこれだ。

「少年……君は知らないのか? 彼らはアウトサイダーだ。我々が捕まえるべきモノなのだよ」

 中年刑事が眉間にしわを寄せる。

「アウトサイダー……ね。なんかの炭酸飲料ってわけでもなさそうだな? で、今度は一体どんなチンケな罪で引っ立てるつもりかな?」

 少年は整った顔を悪意に歪ませた。その表情は単なる不良が出すようなそれではない。

「しらばっくれても無駄だ。君も知っているはずだ。いや、知らないはずはない」

「ああ……知っているとも! 実にクソったれたシステムだってな」

「合理的、と言ってもらいたいものだな。そして、客観的だ」

「機械に人間が支配されすシステムが、か? 俺はごめんだ。自分がまるでロボットになったみたいに思えちまう」

「……君がアウトサイダーかは分からないから、君は標的ではない。引いてもらえないか?」

 戦意に満ち溢れた少年にそれは無理な相談だった。ここで引くなどという選択肢はあるはずもない。

「黙れ飼い犬! お前ら如きの言いなりになる必要がどこにある?」

 剣の切っ先を相手に向け、突き刺すように構える少年。彼の攻撃性を前面に押し出すそのスタイルは彼の十八番だ。

「バカめ! くたばれ、このガキ!」

 警察官数名が発砲する。だが、その銃弾は明後日の方向に飛んでいくばかりだ。

「おいおい、ちゃんと両手を添えて撃てって習わなかったか? せめてかするくらいはしてくれよ、優秀な皆さんよ!」

 余裕を見せる少年。それに対して、しびれを切らした中年刑事が一発発砲した。急所を外して。

 その弾道を正確に見切り、造作もなく少年は弾丸を叩き落す。

「へえ……あんたはマシなんだな。さすが、ボス」

「……お前たちは退け。お前たちで何とかなる相手ではない」

 何とかなるかどうかのレベルではないことを彼は理解している。理解できていないのは部下たちだけだ。

「お? やるの? いいぜ。ただし……やるからには殺される覚悟、できてるよな?」

「死ぬわけにはいかん。私には家族がいるのだ」

「じゃあ、とっとと尻尾巻いて逃げればいいじゃん。問答の余地なんかどこにもない。あんたは、アウトサイダーを捕まえられませんでしたと帰って上に報告すればいいんだよ。まさか、この期に及んで他人の評価気にするわけ?」

「……上には……そんなことは言えん」

「悩む必要なんてないじゃん。命よりも大事なものがあるってのか? ないよ、そんなもん。ないない。自分の命が一番大事。これは人類史上これからも覆ることのない定理。そうは思わないかい?」

 心底見下すように話す少年。それに対して、視線を落とす中年刑事。

「なんだよもう。やる気なくなるなあ。そんなに嫌々ならやめちゃえばいいじゃんかよ」

 中年刑事の返事は銃声だった。今度は正確に少年の眉間を狙う。

 その銃弾を剣の腹を使って難なく受け流す。中年刑事はその時の少年の動きにわずかな違和感があったが、それは彼に向って無慈悲に振り下ろされる剛刃への恐怖で上書きされた。

「警部!」

 彼の部下が叫ぶ。誰もが血まみれの結末を予測していたからだ。

「安心しろ。殺す価値もない。ほら、交換条件だ。このオッサンを死なせたくなければ、ここからすぐに撤退しな。そして、二時間は動くな。何か動きがあれば、即こいつを殺す。二時間後、何も動きがなければ新神戸駅で解放してやるよ」

 気絶している中年刑事を抱えて、少年は返事を聞かずに教会へと入っていく。

「ああ、そうだ。ひとつ忘れていた。あんたらのご主人様に伝えてくれ」

 少年は大きく息を吸い込んで

「あんたは必ずぶっ潰す! これ以上なく凄惨に、ありとあらゆる苦痛を与えて殺してやる! 生まれてきたことを後悔するくらいに、な」

 と言伝を残して、教会の灯りの中へと消えていった。

こんばんは、星見です。

これが掲載されているころには私は自分の仕事(の不始末)で日本のある地を飛び回っているころでしょうか。


全面的に書き直しています。すべては面白くするためです。書いていて面白くないものは面白くなるはずがないという持論を持っております。だから、自分がまず楽しめるように書き直します。時間はかかると思いますが、読んでくださった方々、ご容赦ください。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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