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幕間:五十嵐康太

Interlude in


『竜胆会組長 神崎秀人殿』

 この書き出しから始まった手紙を神崎が受け取ったのは『鉛筆屋』の存在を竜胆会が認識する少し前のことだ。差出人の名前は五十嵐康太いがらしこうたとある。

 その手紙の内容は呼び出しだった。

 東京都内にある高層ビルの一室。

 ここに来いと書いてある。

 神崎は星崎に留守を言いつけ、単身東京へと向かった。護衛は誰も連れていない。連れてくるなという先方の要求を呑んだのだ。

 目的地に着くなり、丁重にもてなされた。神崎が極道組織の人間だと知らないはずはない。

 訝しがりながら差出人を待つ。数分と経たずに穏やかな表情をした白髪の老人が応接室に現れた。

「よく来てくれた。竜胆会組長、神崎秀人君」

 神崎がその目に捉えた老人の顔には深い皺がいくつも刻まれていた。それらはまるでくぐった修羅場の数を表しているようだと神崎は思った。

「手短に話そう。君にある依頼をしたい。報酬はこのメモリだ」

 五十嵐は紺色のスーツの胸ポケットからメモリスティックを取り出し、神崎に手渡す。

「そこには君の知りたい秘密がおそらくは入っている。その代償といってはなんだが、私の頼みを聞いてもらいたい。私は占領軍にある程度監視されている。あらゆる権限もはく奪されている。そこで……」

 老人の声とは思えないほど力強く、五十嵐は告げた。

「反占領軍を組織し、我が国から占領軍を追い払ってもらいたい。幸い、アメリカには私が話を付けることができた。後はEUと中華連邦、ロシア帝国だけだ」

 五十嵐は神崎の手を握る。やはりその堂々たる体躯に相応しい力を感じた。

「君にしかできない。君だけができることだ。頼む……」

 それだけ言うと、神崎の返事を聞かずに五十嵐は退室した。



 神崎が五十嵐から受け取ったメモリスティックには見覚えのある名前が書かれたファイルがあった。


 Aナンバーズ ナンバーⅡ:黒崎ジン

 

 深夜、誰もいない事務室でそのファイルを開く。そこには神崎が驚くほど正確なジンのプロファイルが書かれていた。誕生日、血液型などはもちろん、趣味嗜好、生い立ちなども。

「こんな情報どこから仕入れよったんや……」

 ジンは暗殺の準備に取り掛かっており、しばらくは事務所に戻らない。それが幸いした。このファイルに書かれていることは彼に見せてはならないと直感が告げている。

 おそらくはジン自身ですら知らないジンの出自。それがそのファイルには事細かに書かれている。

 五十嵐康太がそのファイルを神崎に託した意味がようやく分かった。『黒崎ジン』という武器を所有する竜胆会でしか、占領軍の撃退はできない。五十嵐はそう判断したのだろう。実際、その判断は正しい。圧倒的に数で劣る日本人がこの状況を覆すには超常的な力が必要だ。そして、その力を『黒崎ジン』は持っている。

「こんなもん……どないせえっちゅうんじゃ……」

 困惑は少しずつ神崎を蝕んでいく。ここで知りえたことはもう既に常識など覆しているのだから。

 悪魔によって仕組まれた巧妙なパズルは今なお生きていた。

 事務所に入る組員の足音を聞いて、神崎はそのファイルを閉じた。これは誰かに見せていいものではない。かといって、一人で背負い込むには重すぎる内容だ。

「組長! 準備、整いました。奴らの襲撃を見越して、グレネードやショットガン他、武器類の調達完了してます!」

 星崎の報告を聞くと、神崎は大きく頷いた。

「よっしゃ……迎撃の準備を怠るなや」


Interlude out

おはようございます。

私用で先週は家を空けていましたので、更新が滞っておりました。

空き巣にも入られていないようで安心しました(笑)うちに盗るものなんてありませんけどね(苦笑)あ、そろそろ出勤しなければ……。

さて、懐かしの(?)五十嵐康太くん登場です。前作のキーキャラです。今作ではどんな立ち位置なのでしょうか?


ちなみに1000アクセス達成しました(今現在)。皆様、ありがとうございます。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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