殺意の鼓動
ジンが異変に気付くのは容易だった。暴れまわる狂乱の炎を目指して走る。そこには一人の長髪の青年と灰色の髪をした少女がいた。
「神崎の子飼いか。とっとと手伝え。この女、一筋縄ではいきそうもない」
跳弾しながら飛び回るマグナムの銃弾は例外なく少女の作った炎の砲弾に飲み込まれて消えていく。どうあがいても、巨大な炎の塊を相殺することは期待できそうにない。
そう判断したジンは得物の大剣を握りしめ、軍馬の前に躍り出た。
眼前に迫るは焦熱の凶弾。
対するは両刃の巨剣。
両者の激突に最も驚いたのは少女だった。それもそのはず。あの巨大な業火は大剣の一閃で雲散霧消したからだ。
少女は手加減したわけではない。確実に相手を葬るために作ったはずの炎が今、現実に消されている。その事実に彼女は驚くほかなかった。
「あんたが軍馬のオッサン? ダメじゃん。こんな小娘に梃子摺ったら」
「黙れ。貴様にオッサン呼ばわりされるほど老けていない」
当たりか、とジンは呟いた。確かに、オヤジが一目置くのも頷けると思った。この青年刑事は確かにその辺の刑事にはない空気を纏っている。一言でいうならば強固な意志。
「そんな漫才をしていていいのかしら? 私はまだ倒れたわけじゃなくてよ?」
嘲笑する少女に、ジンは吠えた。
「テメエは倒すじゃ済まさねえ!」
それはこの惨状を作り出した主に対する怒りでもあり、組の縄張りを荒らした無法者に対する制裁の宣誓でもある。
ジンは少女に向き直り、巨大な剣の切っ先を突き付けた。それは純然たる戦意の象徴にして、絶対の宣言。
「テメエは叩き潰す! 二度とその目で太陽を拝めないようにな!」
およそ少年が発するものとは思えない圧力に少女は怯んだ。憎悪と殺意が入り混じったとでもいうべき、負の感情が濁流のように容赦なく少女に叩き付けられる。
本能的に少女は目的を自身の防衛へと切り替えた。このままでは文字通り殺されると直感が告げている。そこにもう先ほどの余裕はない。
獣が吼えるような声をあげてジンは少女にとびかかり、巨大な凶器を打ち下ろした。そこに手心などはない。敵を殺せと命じる心のままに、肉体のすべてをかけて相手の命を刈り取るためだけに刀身を赤黒く染めた得物を振るう。
少女はその巨剣の重撃を爆炎で受け止める。ただ、受け止めるだけで精一杯だ。何しろ放たれる一撃一撃が尋常な威力ではない。おそらくは最新鋭の戦車でさえも、彼の前では鉄屑に変えられるだろう。
このままでは戦況を変えられないと思った少女は一気に飛び退いた。それからジンとの距離をとる。十メートルと離れれば相手は攻撃を加えることができない。
少女は恐怖で乱れた呼吸を整えた。落ち着けと鼓動する心臓を宥める。大丈夫と少女は自分に暗示をかける。それは幾多の修羅場をくぐってきた経験のおかげだ。
おそらくは凶獣のように突進してくるだろうと少女は踏んだ。実際、接近戦に持ち込まなければ相手にとっての勝機はない。ならば、それはこちらの勝利と同義だ。
少女は再び微笑み、右手の指を鳴らした。
こんばんは、星見です。
サブタイトルが某滅殺おじさんのアレに似ていますが、たぶん偶然です。
さて、対炎の少女編はそろそろ終わりです。
ジンの剣は一体何なんでしょうね?
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




