狂劇炎舞
軍馬厳太郎が三宮の商店街にたどり着いたとき、その場では炎が踊っていた。ところかまわず爆炎をまき散らし、その牙で触れたものを一切の慈悲なく灰燼へと変える。
熱風が軍馬の長髪とスーツを揺らした。
「……敵も味方もわからん。まずは住民の救助を最優先だ。被害を抑えることに注力しろ!」
軍馬の大きな号令が響く。
忠実な部下たちはその声を待っていたとばかりに素早く動き始めた。
「さて……」
人払いをしたところで、軍馬は愛銃のマグナムを抜いた。父から受け継がれたこの銃は違法改造により殺傷力を高めた代物である。つまりは、純粋に人を殺すための銃だ。
その矛先は炎に守られている小さな人影に向けられた。
「出てこい。貴様がこの大火事の主だということは察しがついている。とりあえず署まで同行願おうか?」
その小さな人影が腕を一振りすると、荒れ狂う炎は一瞬にして鎮まった。
「『鉛筆屋』の仲間か?」
軍馬の問いに答えた声は少女のものだった。
「……『鉛筆屋』というのが麻薬のバイヤーだというのなら、そうなるわね」
囁くような落ち着いた声がした。
炎の墓場から現れた少女は無表情で、その特徴的な灰色の髪はかすかに揺れている。着ている制服は神戸のある高校のものであることが分かった。
「私は相手が老若男女、どんな人間であれ容赦するつもりはない。それは覚悟の上だろうな?」
静かな威圧感を飛ばすが、軍馬のそれを少女は涼しげに受け流す。
「刑事ならそうじゃないとね。もっとも、捕らえられるかしら? この国の落ちぶれた警察如きに?」
「その警察の銃弾を喰らってみるか?」
指を引き金にかける。既にセーフティは解除してある。銃口は少女の額を捉えている。後は引き金を引くだけで事足りる。
「ご馳走していただけるのなら、いただくわ」
再び少女は炎を纏う。それは、どんなドレスよりも鮮やかで、どんな宝石よりも煌びやかに燃えている。
元より軍馬にこの少女を殺す意思はない。この少女からは情報を引き出さなければならない。だが、この炎はおそらく普通の代物ではない。そう感じた軍馬は改めてマグナムを選んだことを正解だと思った。
「どうしたの? 撃たないのかしら?」
淑女のように誘うその声は余裕がありありと感じ取れる。おそらくはマグナムの銃弾であろうと防ぎきるだろう。軍馬は落ち着いて周囲を観察した。正面からの突破はまず不可能。ならば……。
「じゃあ、そろそろ行くわ。『鉛筆屋』さんがこのままだと捕まっちゃうし」
少女が右手を振り上げると巨大な炎の塊が少女の頭上に生成され、それは軍馬に狙いを定めて加速し始めた。
こんばんは、星見です。
何だか中2っぽいサブタイにしてしまいました。
いやー暑いですね。北海道に避暑に行けば札幌がえらい気温になってるし、釧路に逃げれば釧路まで30度くらいになってるし。地震来ないといいんですけどね。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




