表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

勘弁して下さい

ヒロインの敵なんて勘弁ですわ。

作者: 夜凪

主人公は頑張ってますが、基本空回り&受け身です。ざまぁも特にありませんので苦手な方は引き返してください。

「彼女に対して随分と物騒なことをしでかしたそうだな、レイナ」


学園祭の最後に行われる舞踏会。


お友達と談笑していたところに、突然、我が国の第3王子のシャレード様をはじめとする生徒会の面々が現れて、口々に覚えのない罪を挙げ責め始められました。


どれだけ必死に覚えがないと訴えてみても、見苦しい言い訳としか取って頂けず、往生際が悪い、見苦しいと更に責められる結果となりました。


アァ、やっぱりダメだったのですね。


襲ってくる絶望感に太刀打ちできず、私は膝から崩れ落ちました。

幼いあの日から、必死に積み重ねてきた努力の日々が脳裏をよぎります。


私はこぼれ落ちる涙で滲む世界を拒絶するようにきつく瞳を閉じました。





私が前世の記憶に目覚めたのは、5歳の時でございました。

公爵であるお父様に連れられて、初めて王家の方々にご挨拶へとうかがう予定だったあの日。

新しいドレスを着せていただき、嬉しくて鏡を覗き込んだ時のことでございます。


鏡の中には、金色の巻き毛をハーフアップにしてピンクのリボンを結んだ幼児が映っていました。

大きな瞳は興奮でキラキラと輝き、頬を薔薇色に染め、リボンと同じピンクのオーガンジーがまるで花弁の様に重なったドレスを着た彼女はとても愛らしく、まるで妖精の様に見えました。


そして、思ったのです。

あ、私この子知ってる、と。


そこから、怒涛の様に流れ込んできた記憶の嵐に巻き込まれ、幼い私は高熱と共に倒れました。

三日三晩、うなされ続けてようやく整理された記憶は、こことは別の世界に生きた女性の25年間の人生物語でした。


地球という星の日本という国に生まれ、クラスにそういえばいたね、そんな子、と言われる様な地味で平凡な少女に育ち、そこそこ進学校にかよい、中位の大学に受かり、普通のOLとして生活していた。

そんな、どこにでもいる様な女性。


通勤途中に電車事故に巻き込まれあっさり死んでしまったわたしは、気がつけばこの世界に生まれ変わっていたのです。

当時流行っていた乙女ゲーム「きらめきときめき恋の魔法〜あなたのハートを狙い撃ち」の世界に(改めて考えると、すごい名前ですわね……)


なんで気付いたかと言えば、鏡の中の私がスチルでみた王子様と婚約者の初対面のシーンに出てきた少女と瓜二つだったのです。

何より特徴的なあの花弁の様なドレス。間違いありません。


恐ろしい事に、あのお城に行く日は王子様との顔合わせのためだったのですね。

まぁ、行く前に私が倒れたので、サラッと流れたわけですが。


さて、どうしましょう。


ここが乙女ゲームの世界と仮定して、王子様が攻略対象者なのは確実です。

その婚約者がライバルになるのは必然です。

そして、その婚約者が私です。


今回は流れましたけど、直ぐに次の顔合わせの日が決まって、婚約の運びになるでしょう。

王家や貴族の婚約は国や家の都合で決まるのです。1度決まって仕舞えば、早々覆ることはありません。

つまり、子供が嫌だとダダをこねたところで、心証が悪くなるだけで無駄骨なんです。


まぁ、それが覆るのが乙女ゲームの怖いところなのでしょうが。

そして、王子様が攻略されますと当然、ライバルには手ひどい結末が用意されているのです。


私の場合は、バットエンドだと婚約破棄の上学園追放されます。

誰ですか、生きてるじゃん、ぬるいじゃんなんて思った方!


女性が、しかも王家から婚約破棄されるなんて、問題アリのレッテルを貼られた様な物なのですよ!

次の嫁ぎ先なんて当然見つかりません。

下手したら王家に喧嘩売ったとみなされますからね。


つまり、そうなった場合の私の未来は、修道女になるか、公爵家の穀潰しとして屋敷の片隅でひっそりと生きていくかの二択です。

あ、物好きな他国の貴族か豪商の側妃とかもありますわね。

………人生終わってます。



では、そうならないために前世の記憶というアドバンテージを使って頑張る?

………最終地位が2流商社の事務員にどんなアドバンテージがあると思いますか?


未来の技術?

パソコンってどうやって作るんですか?そもそも、電気ってどんな仕組みで発生してるんですか?

水洗トイレは?湯沸かし器は?

私は知りませんよ?


では、領地の農地改革?

前世では都会育ちのマンション暮らしの私にそんな知識はありません。

堆肥も腐葉土もお店で買いました。育てたのは小学校で朝顔とプチトマトくらいです。


お料理は普通にできましたけど、味噌醤油どころかマヨネーズの作り方すら知りません。


そもそも、勉強苦手でしたし、正直今世の頭の出来も微妙です。

公爵令嬢教育にアップアップしておりましたらね。5歳にしてすでに!!


努力しても元が無ければどうにも越えられないラインがあるのだという事は、塾を3つ掛け持ちしても程々の成績しか残せなかった前世の私で実証済みでございます。




……打つ手が思い浮かびません。

泣いてもいいでしょうか?

……ダメですね。

泣いたって未来は変わりません。


かくなる上は、


①苦手だけど勉強頑張ります。脈々と続く貴族の血の効果できっと前世よりは見込みがあると信じましょう。

②もし、ヒロインが出てきても意地悪しません。イジメ、ダメ、絶対。

③噂のゲーム補正に対抗するために、お友達たくさん作ります。1人行動で付け入る隙を与えないようにしましょう。

④わがまま言わず人に優しく。少なくとも恨みを買わない人間になりましょう。


思いつくままにルールを決めて、その日から私の血のにじむような努力の日々が幕を開けたのでございます。




それから13年。

周囲からの評判は上々で、友人にも恵まれました。

婚約者の第3王子様との関係もそれなりに。

苦手だった勉強も、家庭教師のもとコツコツと続けていれば、どうにか学年10位に入れる位のレベルになる事ができました。個人授業、最高です。


私、がんばった!

ちょ〜〜う、頑張った!!


それなのに、運命はやっぱり変えられないのですね。




学園の最終学年。

ゲームの開始時期にきっちりやってまいりましたよ、ヒロインが。


私の親友のライナスちゃんの異母妹として。

ビックリでございました。

確かゲームの中では庶民の推薦枠だったと思うのですが、どうしたことでしょう。

ですが、名前や容姿、何より普通はあり得ない途中編入とヒロインの条件はしっかり当てはまっているので、間違いないとおもうのです。


何より、あっという間に攻略され、取り巻き化していく王子様と生徒会メンバーの子息達の姿に驚くより先に呆然としてしまいました。


高位貴族にとっての婚約とはどういうものかは、今更教えられずとも理解しているはず。

何より、ご自分の立場をしっかりと教育されていた筈の方々が、アッサリと1人の女性のもとに堕ちていく様は、まるで悪い夢を見ているかのようでございました。


彼等がヒロインの取り巻きになっていくのを、もちろん私や他の婚約者の方々も黙って見ていた訳ではございません。

間違った道に進もうとしているパートナーを諌めるのだって婚約者としての大切な役目なのでございます。


しかし、勇気を出してお諌めしてもその言葉は欠片ほども届きはいたしませんでした。

それどころか、うるさいやつと疎まれる始末。どうすればよろしいのでしょう。


しょんぼりとしている私達を、監査委員の方々が慰めてくださいました。

悪いようにはしないので、もう少し耐えてくださいとのことでございました。


迂闊に近寄ればさらに険しくなっていく婚約者達の表情に、諦めにも似た切なさを抱え、私達は静観する事にいたしました。

ヒロイン事、アリス様には一言だけ、私達が彼等の婚約者である事。出来れば、近づいて欲しくない事を、公衆の眼のある場所で伝えました。


ゲーム補正が強くて、人気のないところで2人っきりなど怖くてできませんでしたわ。

弱虫な私を笑ってくださって結構です。





そして、現在。

目を開ければ、涙で霞む視界の中粛々と断罪が進んでゆきます。

本来、このイベントは卒業パーティーで起こる筈でございました。

半年近くも早まるなんて、どうした事でございましょう。

呆然としながらもどこか他人事のように感じておりました。


シャレード王子が、いよいよ最後の言葉を私に投げつけてきます。

王子達の背後で、ヒロインの唇が意地悪そうに弧を描くのが見えました。


「罪の無い彼女を害したばかりか、往生際悪く言い訳ばかり。貴様にはほとほと愛想が尽きた。貴様との婚「その茶番劇ストップです」


シャレード王子の言葉を遮るように、凛とした声が響き渡りました。

その声に、私は身体中の力が抜けて、さらに涙が溢れるのが分かりました。

(良かった。もう、大丈夫)


手を引かれ、その背中に庇われて私は心からの安堵を感じていました。

「……ライナス様」

小さく名を呼べば、つないだままの手にキュッと力が込められました。

大丈夫、と私を励ますようなソレに気づけば唇に笑みが浮かんでおりました。




「だいたい、レイナ様も遠慮せずに状況を手紙にちゃんと書いて送るくらいして下さいな。そうすれば、もっと早く戻ってきましたものを」

怒ったというより、どこか拗ねたような口ぶりに私は心から微笑みました。

「だって、ずっと楽しみにされていたでしょう?邪魔したく無かったのですもの」


小さく首を傾げて微笑めば、呆れたようなため息が降ってまいりました。

「そんな事より、お友達のピンチの方が大事に決まってるではないですか。間に合わずに、万が一でもあなたが傷つくようなことになったらと気が気では無かったのですよ?」


もう少し自分の事を大事になさい、と窘めてくる心配症の友人に思わず嬉しくて笑みがこぼれした。

本当に昔から優秀なライナスには助けてもらってばかりで申し訳ないけれど、そういえば、きっとまた叱られてしまうのでしょうね。


「もう、笑い事では無いでしょう?」

拗ねた様に唇を尖らずライナスにクスクス笑いながらもありがとうを伝える。

ごめんなさい、より、断然こちらですわよね。



「でも、本当に私が代わりに隣国へ行っても良いんですか?ライナス様の時間はまだ残っていたのでしょう?」


そうそう。この話もしたかったのです。

周辺の騒ぎがようやく落ち着いてきて、気分転換にと勧められたのです。

今までは、第3王子とはいえ、婚約者として留学など認められるはずもなかったし、自身の勉強で手一杯でしたから、考えたこともなかったのですけど。


今回の事で、どうにも気持ちの切り替えができずモヤモヤしていたら少し国を離れてみてはどうかとお父様から提案されたのです。王子の顔などしばらく見たくも無いだろう、と。

どうも、恋に浮かれていたシャレード王子にご立腹らしく、コッチから破棄してやると息巻いていましたもの。

王様に説得され、お母様に諌められて少し落ち着かれましたけど。


「良いもなにも、もう、手続き済みですわよ?隣国は面白い場所ですわ。きっと、レイナ様の糧となるでしょう」

にっこりと笑ってくださるライナスに少し申し訳なくて、俯いてしまいそうになる私の顔が、すっと持ち上げられました。


「そんな顔をしないでくださいな。私なら行きたくなったら勝手にまた遊びに行くから大丈夫ですわ。お友達も誘ってくださってますしね。なんなら、レイナ様がいらっしゃるうちに長期休暇を使って遊びに行きますから」


簡単におっしゃるライナスの後ろで呆れている様子のイオン様に笑ってしまいました。

隣国とは最近国交が復活したばかりで、そんなに簡単に行き来できないはずなんですけど、ね。

ライナスが言うと、本当に簡単に実現してしまいそうですわね。


「シャレード王子も国王様直々に鍛え直すと仰っていましたし、レイナ様も良い機会だから楽しんできてください。こちらは、私がしっかり見ていますから」


「……わかりました。これも良い経験と楽しんでまいりますわ」

背中を押してくださるライナスに、しっかりと頷けば嬉しそうな笑顔が返ってきた。


確かにこのまま婚約者の位置にいて良いのかと迷っていたのも事実ですし、見聞を広める良い機会と思いましょう。

ここにいれば、どうしたって王子様にお会いしてしまうから、迷いは晴れませんもの。

逃げではありません。

コレは戦略的撤退なのですわ。





そうして、旅立った隣国の最新技術に触れ、心奪われてしまうのは、また、別のお話しでございます。わね?












て、わけで。

ここが転生者でした。

が、転生者としてのチート感はちっともありません。

まぁ、普通の人が転生したって、こんなものですよねぇ。相当やりこんでなきゃ、ゲームの記憶なんて曖昧でしょうし、専門職でもなくちゃ技術なんてロクに無いでしょうし。

って、思っちゃうのは私だけでしょうか?


読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 正しい普通の日本人(?)転生者ですね。 [気になる点] 偏見かもですがマヨネーズ位は知ってて欲しかった。 [一言] 茶番ストップの台詞以降の時系列があやふや、茶番を止めたその場で二人で話し…
[一言] 自分はたとえ地球でも自分が言葉が通じない人達が住む未開の土地に逝って自分が何ができるか考えたら知識チートなんて無理って簡単に想像つくなって思う人です。 知識チート寧ろ水車とかなら直に手作り…
[一言]  とりあえず。現実ってそんなものですよね、実際(笑)。  異世界転生なんてモノが実際にあったと仮定しても、こちらの世界の知識を生かせる人間が一体どれだけいるのやら? ……少なくとも私は無理っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ