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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女坂恋子の一日

作者: 一利

 作者は未熟者です。誤字脱字文法の誤りがあるかと思いますが、そこは生暖かい目で見てください。親切な方は、それとなくご指摘ご鞭撻の程、よろしくお願いします。

 それでは。

 私の名前は魔女坂恋子。これはペンネームだ。私の職業はしがないBL小説家。馴染みない人も多いだろう。ようするにあれだ。

 私は男同士の、濃密な、関わりに、心ときめく。リンゴが腐るような甘い臭い。鼻につきそうな、そのどうしもない甘ったるさがたまらない。ある意味、とてもすてきな美酒。やめられないし、やめるつもりもない。私はこれをやめることはできないだろう。

 まぁこんな素敵な感情、捨てようとも、真っ当になろうとも思わない。

 さて一仕事終わったことだし、恒例の栄養を補給に行こうか。

 私は仕事をする時は眼鏡をしている。普段は眼鏡はしていないし、公の場所に行くときはコンタクトをしている。ただし補給をする時は、眼鏡をかける。

 ここまで言えば感のいい人は気づくのではないだろう。

 そう私は男同士のかかわりを考えるときに、眼鏡をかける。今日は日曜日。目立たない今どきの恰好をし、街中を散策を始める。

 BLは素晴らしい。それは至高である。その魅力について、語らずにはいられない。これも性のようなものなんだ。許しておくれ。

 町の喧騒の中、それを探す。

 男はバカな生き物だ。つまんない意地。やすっぽい誇り。奇妙な優越感。つまらなくて、くだらない理屈。そんなもので自分を武装して、偉そうにしている。男同士の関係はそれをいともたやすく、本性を表してくれる。

 たとえば今、私の前にバックを担いだ二人組の男性がいる。彼らはこれからどこに行くのだろうか。おそらく共通の趣味でも持っているのだろう。ある時は、そのことについて一晩話すかもしれない。その時に、なにか起きるかもしれないじゃないか。

 こんなのおかしい。普通じゃない。けど、抑えられない欲望が、興味が自分の中には眠っていることを感じる。その時生まれるものは、背徳感。腐った果実のような、甘すぎるもの。

 私はすっかりそれの中毒になってしまっている。だから考えることをやめられない、やめるつもりもない。男同士がいちゃつくだけなんて、楽しくない。おもしろくない。大事なのはそう、感情の起伏。

 一線を越える。戻ってこれない向こう側。その瞬間を私は宝物にしたい。だから私はBL小説なんてものを書いているのだろう。

 さてそんな妄想はすぐにしまって、次のものを探してみよう。

 あれは兄弟かな。どっちかというと、先輩と後輩みたい。あの後輩の方は先輩のことをとても慕っているみたい。けど先輩は後輩のことを普通の友達と見ているみたい。あの後輩が先輩のことを慕いすぎて、自分のことをどう思っているかって聞いたりしたら面白そうだね。きっとあの先輩の方は根はいい人みたいだから、絶対誤解するよね。そういう勘違いも素敵。その時二人はきっとどちらもドキドキしていて、まともに考えることもできないんだろうね。鼓動は早く、そのドキドキを恋と思うことも十分にありそうだ。それが狭い部屋の中とかだったら、もう最高に滾るね。

 男と女の恋愛と、男と男の恋愛は根っこは同じ。好きという気持ちだ。違うのは何度も言うけど、背徳感。それが極上のスパイスなのだ。

 前提として仲良しなのはいい。だけど濡れ場に対して、抵抗を持つべきなのだよ。求められて答える。けど心のどこかでは、おかしいと思っている。その心理もまた蜜の味がするのだ。

 行きつけの喫茶店に向かいながらそんなことを考える。私が店に顔なじみの店員が声をかけてくれた。

「いつものとマロンケーキで」

 私はかっこつけてそんなことを言った。私はこの店のアップルティーが大好きなのだ。ここにくると毎回飲んでいる。

 メモ帳を取り出し、さっきまで妄想していたことを書き始めた。

 やっぱり新鮮なものを見ると考えが進む。まぁ私は腐っているのだけど。おっと今は外だ。家の中だったらパソコンの前でニヤニヤ笑っていられるが、そんなこともしてられない。馴染みの店に変な女がいるなんて言われたくないね。

 ベルが鳴り、新しいお客さんが来たようだ。お父さんに連れられた五、六歳ぐらいの男の子が一緒に入ってきた。

 なるほど、主夫か。そういうのもいいのかもしれない。子どもを育てるのは大切だからね。そこから始まる恋愛があってもいいかもしれない。仕事場の上司とかとの、関係が良い感じかな。会社では世話好きとかいう噂が流れていそうだ。

 と私が妄想を浮かべていると、男の子の無垢な視線が私を見ていた。

 思わず、驚いてしまい、体が震えた。

「すいません」

 父親と思われる男の人が慌てて謝った。

「いえいえ、こちらこそすいません」

 男の人は不思議そうにしていたが、すぐに子どもを連れて別の席についた。

 いやはや油断できない。それにしても子どもは可愛いと思いながら、アップルティーを口に運んだ。甘くておいしい。

 あの子は大きくなったら、どんな素敵な男の子になるんだろうな。

「あいかわらずだね」

 私が妄想していると一人の男性が私に声をかけた。私の知っている人間だ。御影光明という名前で妙な小説を書いている人物だ。私には複雑怪奇でよくわからないが、頭はいい。

「今なにか盛大な勘違いをされてきた気がするよ。まぁ魔女坂さんはいつも通りなんだろうね」

「私はいつも通りだよ。きっと私の見てる世界と、御影さんの見てる世界って別物なのだと思うよ」

「そうだね」

 そういうと注文を取りに来た店員に丁寧に答えた。うん。御影さんはイケメンだ。線の細い体に、知的な眼差し、ホント小説の登場人物のようだ。

 あっそうそう。私はリアルもいける口だ。もっともそんなもの、今までの私を知っているなら当然なのかもしれないが。なにがなどと、無粋な疑問は持たないでくれよ。

「『真冬の春』読んだよ」

 彼のその言葉に、むせこんでしまう。

「あっありがとうございます」

「顔ひきつっているよ。というか赤いよ」

 『真冬の春』は私が最近だした恋愛小説だ。私にはしては珍しい男女の恋愛だ。まぁちょうど美味しそうなネタがあったから、勢いに任せて書いたのだけど。あのときは楽しかった。

 だけどその後は嫌な気分だった。

「嫌でしたか?」

「そうではないのです」

 私は咳払いをして答えた。察しの良い彼はそれだけで何かを察したようだ。

「マスコミですか?」

「まぁそんなとこです。私は眺めるのが好きであって、私にあんな希望はあんまりありません」

 といって、アップルティーをすする。

「でしょうね。理解されないものは辛いです」

 御影さんはそういうと目を伏せた。あちらも何かあるようだ。

「そちらこそ何かありましたか?」

「そうですね。この間それなりの賞をとったのですが、なんというかなんか違うのです。編集さんは分かってくれたのですが、やはりなにか言いたいというか」

「なるほど。わからなくもないです。ただ私たちのようなもののことは分からないものです」

「それもそうですね。それに私にもよくわかりませんし」

 彼は苦笑しながらそう言った。私もつられて似たように答える。

「まぁ私的にはそういうのも、美味しそうな材料です」

 理解されないものと、理解しようと頑張るもの。そこにある苦悩と献身。これはなかなかありふれているが、良いものではないだろうか。

「病気ですね」

 彼は笑いながらそう言った。

「そうですね。きっとあなたにも良い影響があると思いますよ」

「わるくはないですね。楽しくなってきました」

 私たちはそんな風にしばらく、話続けた。



 喫茶店での話を終えて、家路につく。御影さんは途中で連絡があり、どこかに行ってしまったようだ。さすが、売れている人は忙しそうだ。

 街の雑踏の中を歩いていると、ある男女の一組が目に付いた。なんというか、とても仲がよさそうだ。だけどカップルという雰囲気ではない。なんだろう、幼馴染という感じか。それはそれで美味しそうだ。

 少し気になったので、後をつける。偶然帰り道も同じだ。

 どうやら二人で買い物のようだ。わりとホントに家が近所の幼馴染のようだ。これはなかなか、充電させてもらえそうだ。おっと、不審者だと思われてしまう。

 それにしても女の子のほうの頑張って化粧した感じがいいな。男の子の方も、意識してるみたいだし。けど女の子なんだかテンパってるから、そのことに気づいてない。もったいないな。

 もったいないけど、とても美味しいです。まさか現実でこんなものを拝める日がくるとは。やはり三次元はあなどれないものだ。事実は小説よりも奇なりである。

 それにしてもさっきから入ってるお店がなんとも言えない。小物だったり、ちょっとした食器だったり、いろいろ足りなくなったものを買っている感じだ。

 実は彼らは若いカップルではなく、若い夫婦なのではないだろうか。そんな疑問を抱くが、二人の間に流れる甘いさわやかな何とも言えない空気のようなものが、それは違うと私に語りかける。

 くっついてないのがもったいない。美味しいけど、じれったい。しかたない。

 お姉さんがからかってやろう。ちょうど、彼女のほうがレジに向かった。男の子の方は、まだ棚の方を見ている。けど、どうみても彼の趣味ではないだろう。今がチャンスだ。

「可愛らしいわね」

「わっ」

 男の子は声を上げて、私と距離をとる、驚かせてしまったようだ。

「彼女に似合いそうね」

 私はそういうと笑って、彼に背を向けた。

 あぁとても緊張した。小説の登場人物なめらかに話すのは難しい。普段の私だったら絶対しないことだし。あぁうん、なんというかすごい嫌な汗かいた。まぁそんなことより、彼らだ。

 そちらを見ると、女の子の方が訝しげにこちらを見ていた。焼きもちをやいているようで、なんだか微笑んでしまった。ちょっぴり嫉妬する女の子は可愛い。

 棚を見るふりをしながら、彼らの話に耳を澄ませる。どうやら、彼女の誕生日が近かったようだ。そのために、男の子の方が物色していたようだ。あと私のことも少しだけ聞いていた。なんだが男の子が不憫だが、男だからしかたないね。

 私のせいで仲が悪くなってなくて、よかった。

 うん。満足した。これは家に帰ってなんだか、いいものが書けそうだ、それにしてもノーマルも悪くない。むしろいいものだ。まぁ私は別に出し入れしている小説が書きたいわけではないからね。大事なのは感情の変化。あの瞬間を書きたくて、それまで積み上げるのが楽しくてしかたないのだ。

 今日は大収穫だ。まさか女の子がこんなにも可愛いとは。この間、『真冬の春』なんてチープな名前で小説を出したが、まさかこんなことになるとは。女の子は可愛い。彼女たちがいれば、男の新しい一面を引き出すことが出来るに違いない。今から、書きだしたい気分だ。もちろん、モデルはさっきの二人だ。ふふふ、彼らの話は長くなりそうだ。おっと、家に帰るまでおとなしくしていよう。

 しかし、困ったことにニヤニヤが止まらない。

 なるほど、甘酸っぱいものも悪くない。最近、男同士はマンネリ化していたから良い機会だ。

 書きたくてしかたないので、酒でも買って帰るか。明日から、忙しくなりそうだ。

「ふふふ」


 その後、私は大長編『魔女の見た夢』を見事書き上げ社会現象を起こすのだが、それはまた別のお話。


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