ニンゲンを間引こう!
人間は素晴らしい、などの言葉に嫌悪感を感じる人たち向け。
2007年6月、それは何の前触れもなく突如、世界中いたる所に出現した。
――異形の生命体。
その不可解で、不愉快な造形をした3〜4mほどの怪物どもは、人間を容赦なく喰い殺し始める。
たった1日で、人類は30億もの命を失った。
人間達は当然、武器を持って攻勢に乗り出すが、ほとんど全ての攻撃は徒労に帰した。
例えば銃や刀で傷をつけても、青い体液を撒き散らすだけで、なんら怯むことなく襲いかかってくる。
しかもそのアーモンドのような臭いの体液をかぐと、誰彼なしに、地面をのたうち回り胸を掻きむしり断末魔の悲鳴を上げて死んでいった。ミサイルで爆撃すれば、爆散した怪物どもから異常なほどの量の、キレイなエメラルドグリーンの液体が広範囲にわたって雨のように降り注ぎ、それがなぜか人工物と人間のみをドロドロに解かし、更なる被害につながった。
この異形の怪物どもは、人間以外の生物には全く目もくれず、ひたすら人間のみを喰い殺していった。家畜が唸ろうと吠えようと噛みつこうと関係なく、その存在を無視した。怪物どもは、人間という生命しか知覚できないように見えた。
ある時、人間達は多大な、何万という犠牲を払い、怪物を捕獲した(それでも一匹のみ)。
この異形の生物はなんなのか、とにかく調べ上げて弱点を探し出し、反撃に転じようとするが、捕獲した怪物は、いつの間にやらそのままの形の単なる石像になってしまっていた。叩き壊してみても、石。
人間達はもう一度、更なる何十万という命を捨て、怪物を捕獲したが、同じ結果に終わった。
怪物どもはどこが発生源なのか、その存在と同じく全く持って不可解で、どうすることもできない。
人類は、怪物が出現し始めてからわずか一週間で1億にまで減り、もはや人類の滅亡は必然、と自殺をする者や、発狂して自ら怪物のエサになる者、楽しんで殺人を犯す者などが現れ、怪物とはまた違う混沌が世界を覆っていった。
それから更に一週間が経つと、陸地はほぼ怪物どもに埋めつくされ、いつの間にやら僅か数十万ほどになっていた人類は、海上にまではその脅威は及ばない、といち早く気付いていた者達のみで、現在、船上での不便な生活を余儀なくされていた。
しかし、船上だけで生きて行くには、魚ぐらいしか食べられない、食糧の問題が最も大きかった。しばらくして、一人の男が生きるのに疲れて、最期は陸の上で死にたい、と怪物に喰い殺される決意で港にクルーザーを停泊させると、男を出迎えたのは無数の怪物と、それをいとおしそう撫でているに裸の美女だった。しかし、その美女は薄く光を纏っているように見える。
美女は男に近付いて喋り出した。
「この子、私のペット達なの。で、この子達をいっぱいこの世界に解き放したのは、ちょーっと増えすぎたあなたたち人類を間引くためなのね。60億人だっけ? ワラワラと増えすぎでしょ(笑)! でね、私はお母さんを心配してこーゆー策を採ったんだけど……あ、勘違いしないでね? 別に、驕り高ぶった人類に神の裁きを! とかそんなサムい理由で減らしたんじゃないから。さっきも言ったように、単なる間引きなんだから。で、今どれぐらい生き残ってるの? 何百万? 何千万? まー、はっきり言って絶滅させてあげてもよかったんだけどね……。でもまあ、あなたたちもある種お母さんの子供達だしぃ〜……え? お母さんって誰かって? そんなの、この地球に決まってるじゃない! 理解力ないね〜、あなた。まあ、別に意思の疎通があるわけじゃないけど、なんとなーく分かったのよ、お母さん、今つらいんだなって。あの〜、また、増えすぎたらこの子達を解き放つから。この子達ねぇ、あなたたち人間の激しい感情やら(負の感情とかじゃないですよ笑)妄想やらでカタチ創られてるのね。絶対死なないし、タチ悪いでしょー。……じゃ、ちゃんと人間には理由を伝えたし、私はもう帰るから。何処へって? あなたたちには永遠に解らない、どこか。あと、私はあなたたちが神とか悪魔とか精霊とかこっくりさんとか形容する存在だと思いまーす。じゃあねー」 美女と怪物どもは、忽然と男の前から、いや世界中から消え去った。
男は嫌な気分になったので、首吊り自殺をした。