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ミコちゃんが怒られるものだと思っていたが、意外にも眼鏡は何も言わずに受付カウンターから出てくると、どこか急いだ様子で外に出ていってしまった。何か新しい問題でも発生したのか? それにしても、あの堅物眼鏡が完全に眠りこけているミコちゃんを放置していくとは……珍しいこともあるもんだ。
少しすると別の先輩受付嬢がやってきて溜息をひとつつくと、ミコちゃんの耳を引っ張って起こしていった。そうか、その手があったか。今度見かけたら優しく耳を引っ張って起こしてあげよう。ま、眠くなるのもわかるが、この様子だと支部長はまだ情報を集めて検討しているみたいだな。いつも通りの、冒険者が帰ってくる前のどこか寂しいギルドの雰囲気だ。
しかし、な。冒険者だけが関係していて、活動範囲などに影響されない原因か。本当に厄介な問題だ。
コーヒーを啜りながら、何の気なしに受付へ目をやると、ルヴィとロッカが依頼達成処理をしていた。おそらく常時依頼の魔獣を魔術の練習台にしたんだろう。成果はあまり良くなかったのか、ロッカが不愉快そうな、何とも言えない微妙な表情だ。それにしてはルヴィが明るすぎるか。失敗したり、あまり内容がよくないと反省して考え込む質だしな。こっちに気付いたようだし、聴いてみるか。
「ご主人様、ただいま戻りました」
「ただいまー。今日は実戦もやってきたよー」
「おかえり。結果はあまり良くなかったのか?」
「え? なんで?」
2人とも俺がそんなこと言うとは思っていなかったのか、きょとんとしている。
「いや、さっき受付でロッカが微妙な顔してたから、あんまり内容が良くなかったのかと思ってな。違ったみたいだな」
「成果は上々でした」
「うん。なかなかだったねー。さっき微妙な顔してたのは魔登録機のせいだよー。シラヌーもそうじゃない? 最近たまーに魔登録機使うと不快な感じになることない?」
魔登録機……魔登録機酔いのことか? 確かに不快感は時々感じるが……あれは登録したてで刻印が定着してないことで発生する症状じゃないのか?
「魔登録機酔いか?」
「うーん、そんな感じのやつかな。シラヌーとか私みたいに魔力をコントロールできれば関係ないはずなんだけどねー。それに私は登録してだいぶたつし。変だよねー、壊れてるのかなー?」
……冒険者だけが、それも全員使っているじゃないか。これは、まずい!
すぐさま席を立つと、後ろで何か言っている2人を置き去りにして支部長室へと走る。途中、廊下ですれ違ったギルド職員に何か言われたが、かまっている暇はない。俺の考えが正しければ、猶予はあまりない可能性が高い。
支部長室の扉をノックもなしに開けると、支部長とリスカが二人で話し合っているところだった。こんな形で支部長に言われる前に入ることになるとは思わなかったな。
「急に、なんだ?」
リスカは驚き、支部長は完全に怒っているようだが、関係ない。
「聴いてくれ。冒険者だけが体調を崩す原因がわかったかもしれない」
「ほ、本当ですか?」
「適当言ったらぶっ飛ばすぞ。で、なにが原因だ」
こういう時に現場のたたき上げは助かる。話が早くていい。
「魔登録機だ。冒険者だけ、それも活動場所やランク、種族なんかに関係なく全員が共通しているのはそれだ」
「それだけじゃないだろうな?」
「あぁ、勿論だ。さっき偶然にロッカが魔登録機を使うのを見たんだ。その時に微妙な表情をしていたのが気になって聴いてみたら、最近たまに不快感を覚えると言っていた。魔登録機酔いのような感じらしい。俺も以前から度々それを感じていたんだ。俺はまだ登録して浅いからわからないが、ロッカが魔登録機酔いになるのはおかしいだろう?」
ここまで聴いて、特にエルフで魔術関連に詳しいリスカが異常性に気付き始めた。
「魔登録機の中に毒性魔術が仕込まれているんじゃないか? 今日読んだ魔術書には、対象者が魔力に余程敏感でなければわからない、非常に遅効性で毒性の弱い魔術が載っていた。素人考えだが、これなら説明もつくだろ?」
いつもお読み下さり、また感想や評価ありがとうございます。
戦闘も少なく退屈な展開でしたが、ようやく事件を起こせました。
微妙なところで切れてしまい申し訳ありません。




