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「支部長。領主様にギルドの活動力が低下する可能性を伝え、騎士団にいつでも援助してもらえるよう、要請をしたほうがよろしいと思います」
「……そうする必要がありそうだな。明日の朝までに確認事項を潰して情報を集めるぞ。そのあとは説明に出向く」
騎士団に頼るのが嫌なのか、領主に会いたくないのか、ギルドのメンツか、はたまたその全てか。支部長は渋面のままリスカを伴って足早に、一つ俺の顔を見てから、資料室の埃を舞い上げながら出ていった。マルニエが可愛らしくクシャミをしている。掃除のことは忘れられそうだな。
「なぁ、マルニエ」
「なんですか?」
「体調不良って具体的にどんな症状なんだ?」
「風邪のような症状で、軽い発熱・倦怠感・頭痛・咳・くしゃみとかです。薬を飲むと暫くは落ち着くみたいなんですけど、またぶり返しちゃうんです。治るまでも少し時間がかかるみたいで、治ってもまた寝込む人も多いです」
「それで、風邪みたい、と」
「はい。なんなんでしょうか……あ! 私、治療室に戻りますね! 少しでも薬つくらないと。シラヌイさんも気を付けて下さいね!」
「あぁ、マルニエも無理して体壊すなよ」
マルニエはただでさえ疲れているのに、この上さらに増えるだろう患者に備えて、薬を作るために治療室へ戻っていった。最後にまた一つクシャミをしていたが、大丈夫か? 正直、一番心配だ。
カシアの件だけなら話すことは話したし、後はギルドに任せていられたが、この事実を知ってしまった以上、無関係に過ごしていられなくなった。憶測だが、出ていく時に支部長が俺を見たのは、口止めと手伝えということだろう。ああいうタイプと付き合いが多かったせいか、わかってしまうんだよな。
話しているうちに昼時を過ぎたようだし、遅めの昼食をとって、少し落ち着いて考えるか。上級はまた今度になるかもしれないな。
資料室から一歩出るだけで空気が違う。窓を開ければいいんだが、埃が舞うせいで出来ないからな。
下に降りてみると、昼時をはずしていることもあってホールは閑散としている。冒険者が少なく暇なためだろうか、受付のミコちゃんが船を漕いでいる。カティさんが休まなかったら、とっくに怒られているだろうな。
手近な椅子に腰かけると、犬耳のウェイトレスがやってきた。見ない顔だから新人だろうか。
「ご注文はありますか?」
「日替わり定食と食後にコーヒーを」
「はい。少々お待ち下さいね。すぐにお持ちします」
客もほとんどいないから本当にすぐ来そうだ。
しかし、こうして見るとマルニエの言ったことが事実だと思わざるをえないな。目の前にあるのは同じような光景だが、昨日までとはまるで印象が違う。一つ情報が入っただけで日常がガラッと変わってしまった。俺やルヴィが倒れる前になんとか原因を見つけて終息させたいものだが……。
一番考えやすいのは魔獣が何かしらの病気を媒介しているって事なんだが、これは街中での依頼を主とした冒険者の罹患率がマルニエの見立て通りなら否定される。今日中には罹患者の特徴も一緒にわかるだろう。それで何か決定的な、原因につながることが分かればいいんだが、さっきのマルニエの様子だと難しいかもしれない。何か他の共通点に問題が潜んでいるんだろうか……。
「お待たせしました。ごゆっくり」
「どうも」
早く出てくるのは嬉しいが、状況がこれだと複雑だな。まぁ、とりあえずは腹ごしらえして、それから考えよう。
いつになったら起きるのか、いや、突っ伏すのかと思って食事中にミコちゃんを観察していたら食後のコーヒータイムになってしまった。受付では未だに睡魔と激しく闘っている。が、どうやら負けそうだ。随分と善戦していたが、睡魔の粘りに負けてだんだんと頭が机に近づいている。その後ろからは、あの眼鏡の受付嬢が近づいてきている。




