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「なぜ殺したのか、理由はわからないのか? 何かトラブルがあったとか」
「いや、最近組んだばかりのパーティーでな。そういった情報は無い」
「騎士団にも何かなかったか問い合わせましたが、特にカシアやパーティーメンバーに関する情報はありませんでした。冒険者にもそれとなく確認しましたが、そちらも同様です。今は他の支部に確認しているところですが、あまり期待できないと思われます」
2人して難しそうな顔だ。それだけ背後関係が不明で意図が読めないのだろう。カシア自身に後ろ暗い過去も無いようだし、パーティーメンバーも同様らしい。
「他支部からの返答次第か」
「それか捕まるか、だ。冒険者連中に発表して話を聴くつもりだが、それぐらいしか今はできん」
「また何かあったら…」
今日は冒険者用資料室が近年まれにみる賑わいを見せる、歴史的な日のようだ。また一人、今度は治療室主任のマルニエだ。最近の体調不良者続出の事態でそうとう疲れが溜まっているらしく、いつもの元気があまり感じられない。それでも、埃っぽい資料室に驚き、ぷんぷんと怒る気力はあるようだ。
「なんですか、これ! ちゃんと掃除しないと不衛生です!」
「さっき支部長が掃除するって言ってたから大丈夫だぞ」
「おい! 俺はそんなこと」
「それで、どうしたんだ?」
マルニエが、さすが支部長! と言わんばかりの顔で見たためか、俺に反論しようとした支部長が黙った。ナークと同じようなタイプなのか?
「あのですね、今年は例年より体調を崩す人が多いですよね? それも、健康優良蜥蜴人のサラマンさんが体調崩すほどです」
誰だサラマンさんって。俺はよくわからないが、例年よりはかなり多いのは事実みたいだ。
「それでおかしいなと思ってたんです。それで、私が休日に遊びに行く孤児院に久しぶりにいったら全然なんです。子供たちは三人を除いて皆元気だったんです! 院長さんに話を聴いても、近所でもそんなに体調不良者はいないって。例年より多いなんてことはないって。その後も街の人に聞いてみたんですけど、やっぱり同じような感じで……どうも冒険者だけ、体調崩す人が多いみたいなんです。おかしくないですか!?」
マルニエが来てから一気に場の空気が変わった。さっきまではどこか疲れたような感じだったが、今は緊張感のある重たい空気が場を支配している。どちらも資料室にはにつかわしくない空気だ。
「それは……本当ですか?」
事実と認識しているが、これ以上の厄介事は勘弁してくれと顔に書いてある支部長にかわって、リスカが確認をした。彼女の表情も硬い。
「間違いないです! 街の治療院にも確認したら、いつもと変わらないって言ってました」
「そう、ですか」
「……何かそういった症状を引き起こす植物とか、魔獣はいないのか?」
「いや、このあたりには、そういう特殊な奴らはいない。それが移動してくることもまず考えられん。だが、冒険者は外に出ることが格段に多い。何らかの原因が外にあるとは思うが……」
また理由がわからない、か。この三人に心当たりがなければ、他に聴いても同じだろうな。
「マルニエ。それは商人や、城壁近くの畑に出ている農民も例年と変わりないのか?」
「えと、そこまで詳しくは聴いてないので確認する必要がありますけど……変わらないと思って大丈夫だと、思います」
「リスカ」
「確認します。ですが、冒険者に限った事、と見てよさそうですね……」
「森の中に何かあるのか? そうなると、街中の依頼をメインに受けている低ランク冒険者は大丈夫ってことになるが、それは?」
一番冒険者と接することの多いマルニエに尋ねると、少々考えたのち、最悪の答えが返ってきた。
「わ、私の感じた通りだと、外に出る人たちと変わりない、と、思います」
完全に冒険者だけが体調を崩しているってことか。それも、活動の場所に関係なく。
「あ、あと、依頼を沢山受けている人のほうが、体調崩すことが多い気がします!」
忙しい方が体調を崩しやすいのは確かだとは思うが……何故だ? 原因が分からなければ、今後も患者が増える一方になりそうだ。依頼の消化率が落ちると街の運営にも支障がでるぞ。まずいな。




