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資料室の扉が開き、滅多にいない利用者に会えるかと思えば、支部長と副支部長のリスカだった。ミコちゃんに聞いて来たんだろう。支部長は普段通りだが、リスカは少々緊張しているように見えるから、何かしらの進展はあったんだろう。
「いらっしゃい。汚いところだが、くつろいでくれ。椅子の埃はそこのボロで拭くといい。いや、部屋ごと掃除してくれてもいい」
支部長は俺の完全な皮肉に顔を歪めると黙ってボロで椅子を拭き、リスカに投げ渡した。急に投げられて取り損ねたせいで制服に埃がついたのか、リスカが顔をしかめている。これに懲りて掃除を定期的にしてくれるだろう。
「リスカ、掃除当番決めてやらせるぞ」
「そうしましょう。こんなになっていたなんて知りませんでした」
後で知ったが、職員は職員用の資料室があり、そちらを使用しているとのこと。最初は両方掃除していたらしいが、余りに冒険者用資料室が使われないためにサボるようになり、現状があるようだ。どうして利用者を増やす方向に考えなかったのか。
「なにか進展があったんだろう?」
「まぁな」
「結果をお伝えしますと、カティは白でした」
「それで、次は俺とお話しようってことか。カティさんは確実に無実なのか?」
疑問を呈すと、おもむろに支部長が懐から何かを取り出した。薄汚れた机に置かれたそれは、拳よりは小さい水晶玉で、不思議なことにその中を白い雲のようなものが漂っている。これが尋問の確実性を上げる…魔道具、なのか?
「これは使用者に対する嘘を見抜くための魔道具だ。これで確かめたから間違いない」
「俺の時に使えばよかったんじゃないか? それ」
「これは半年に一度くらいしか使えない。使用には魔力を大量に使うからな。で、一度使うと一日は効果がある」
「それで俺に話を聴きに来たのか。で、何から話す」
その後はひたすら、事件に関与しているかを問う質問が様々な角度で浴びせられた。最初から疑われることがわかっていてもなかなかに面倒なのに、急に疑われて散々質問されれば休みを取りたくなるほど疲れても仕方ないだろう。
因みに、水晶の中の雲は、嘘を吐かれた時は赤く色が変わり、使用者にそれを知らせるものだった。最初に正常か確認した時に見たものだ。それ以外は終始かわらず、俺の関与は否定された。ついでにルヴィも関与していないと判断された。それでいいのか?
ついでに、俺がどこかの組織の回し者でないことや、本当にこの土地や周辺地理を全く知らなかったことも事実だと確認された。もっと早く使ってほしかったものだ。
「そ、そうか。その、なんだ、すまなかったな」
「急にどうした? そんな事言うやつだと思ってなかったが」
「私からも謝罪させて下さい。過分な処置、申し訳ありませんでした」
「いや、別にいいさ。あれで何か困ったわけじゃないからな」
リスカは上司に巻き込まれて大変だな。
「悪かったとは思うが、判断が間違ってたとは思ってないからな!」
それでいいけどさ、隣見てみろよ。すごい冷たい目で見てるぞ。
「で、次は支部長か?」
「何がだ?」
「事件への関与だよ。まだ二人は確認してないんだろう?」
リスカは分かってたみたいだが、支部長、俺がそれを求めてもおかしくないとは思わなかったのか? まぁ、しょうがないか。
「で、結局は全員白か。まだルヴィは確認してないけど」
「ルヴィはお前の奴隷だろうが。お前が関与してなければそうなるだろう。お前が一人でいるのを見たことが無いってミコが言ってたしな」
そう言われれば、確かにルヴィと会ってからは殆ど一緒にいるな。あの話のあとも一緒にいたわけだし、俺の目を盗んで何かする暇もなかったろうからな。もとより、疑ってないんだけど。
「私がカティに伝えた時に、誰かに聴かれていたのかもしれません。注意はしていたのですが、そこしか他に考えられません」
その可能性と、あとは他の何かを見てか、最初から逃亡するつもりだったか。殺した理由がわかれば判断がある程度はつくか。




