057
どうしたのだろうか。
戻って直ぐにロッカが潰れてしまい、ナークがおぶって帰ったんだが、2人になってからルヴィは何かを言いかけてはうつむくということを繰り返している。表情からも何かしら葛藤していることは見て取れる。おそらくロッカが言ったなにかしらが原因だろう。なかなか面白くて暫く眺めていたが、そろそろ声かけるか。
「ルヴィ、どうした? 言いたいことがあるなら言えよ?」
「えっ、いえ、その……なにも」
「どう考えてもあるだろ」
「あう、はい……」
怒られるとでも思っているのか、大きい身体を小さくして上目遣いでこっちを見ている。
「怒らないから」
「そ、その。ご主人様は……男の人がす」
「待て。それ以上言うな。ロッカだな? なんで余計なところで息を合わせるんだ……あぁ、俺は男に興味は欠片もないからな」
「そ、そうですよね! た、大変失礼いたしました。ロッカさんに言われて、それで、気になってしょうがなくて……申し訳ありませんでした」
そうだろうね。ロッカしかいないよね。しかし、そんな話で葛藤していたのか? ナークと話したようなことを言い出せないでいるのかと思った。一応の覚悟はしていたんだが、ルヴィから話がないのなら、もう少しこのままでいさせてもらおう。明日はロッカにルヴィを預けるつもりだし、その間に少しずつ集めた情報を纏めて、ルヴィのことも考えよう。
「怒ってないから、気にしなくていいよ。悪いのはロッカだから」
「はい……」
「一山追加したから、それ食べて帰るぞ」
「はい!」
ルヴィに深刻に悩む表情は似合わないから、笑ってくれてよかった。そのためにも早く答えを出さないとな。
「明日はロッカと魔術の練習を1人でやってくれ。俺はギルドの資料室にこもって、大人向けの魔術書で勉強するから」
「わかりました。あの、あまり根を詰め過ぎないでくださいね」
「あぁ、大丈夫だよ。聴けたら例の事件のことも聴いておく」
「はい。私たちもギルドから疑われているかもしれないですしね……カティさんがかかわっていたらショックです」
「そうだな。あの人が関係しているとは思えないが……可能性がある以上は、な」
これは余計なことを言ってしまったな。またルヴィの顔が曇ってしまった。
しかし、カティさんが関係しているとは思えないのは事実だ。彼女はギルドでも古参のほうで評価も高いと聞いた。頭もいいようだし、仮にかかわっているとしても、こんなに簡単に自らの関与を疑わせないだろう。あのバカな支部長が無茶な話の聴き方してなければいいが……副支部長がいるから大丈夫か。
「お待たせー! 山の追加ですよー」
「ありがとう」
この量なのに相変わらず出てくるのが早い。そして、どうやらルヴィは山の魅力を振り切ってまで思い悩むほどではなかったようだ。これは今後、一つの判断基準になりそうだな。そんなことで試さなくても、見ればわかるだろうけど。
「そういえば、ルヴィの魔力量は何色なんだ?」
「私は黄色です。獣人は大体、最低の緑ですから、それより一段上なので魔術を使えるほうですね」
「そうか。ルヴィはかなり有能だな」
「ありがとうございます。ですがご主人様に比べれば……そういえば、ご主人様は何色なのですか? 赤色でしたが」
前に言ってなかったか。
「表示は赤にしてるが、ほんとは黒だよ」
「凄いです! さすがご主人様です! 魔術師として活動しても大活躍できますね!」
「そうかもな。魔術師として戦う気はないけどな。遠くから魔術で攻撃しても、戦った気がしないし」
「それで普段から魔術は使われないのですか?」
「まぁそうだな。斬った感覚がないと、どれだけダメージを与えたかわかりにくいってのもあるな。魔術を使って慣れていけば、それもなくなるんだろうけど、俺は前衛にいたいしな」
それに、魔術ばかり使っていたら、殺した感覚が薄れて狂いそうで怖いからな。あくまでも補助的な使い方しかするつもりはない。ただ、魔術を使うことで駆け引きの幅が広がる点は魅力だ。そこまでする機会は今のところ無さそうだが、折角魔術が使えるんだし、早くそんな戦いをしてみたいものだ。




